中国の総人口は14億人を超え、豊富かつ安価な労働力によって「世界の工場」という地位を確立できたことで、中国経済は急成長を遂げました。今回は、中国経済の成長にはどのような背景があったのか、中国の経済や政治の現状はどうなっているのかを解説します。投資をする方は、ぜひ中国経済のリスクや懸念点を把握しておきましょう。

  • 中国経済はリーマン・ショック前まで年10%以上の経済成長を続けた
  • 近年は人件費が高騰しているものの、IT産業の台頭が目覚ましい
  • 少数民族の弾圧など人権問題や、米国との経済摩擦が中国経済のリスク要因

2000年代、急成長を遂げた中国経済

もともと社会主義国だった中国は、1978年に鄧小平が「改革開放路線」を打ち出して以来、経済は急成長を遂げました。その背景には、10億人を優に超える世界最大の人口が支える豊富かつ安価な労働力によって、「世界の工場」としての地位を確立できたからでしょう。

実際、最近は「Made in China」と表記されたモノは、日常のあらゆるところで見られます。従来の中国製品は、品質が問題視されることがありましたが、最近は品質水準が向上してきたことに加え、低価格というのが強みといえるでしょう。

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2008年には北京オリンピックが開催されました。北京オリンピックの直後にリーマン・ショックが起きるまで、中国経済はなんと平均10%を超える経済成長を続けていました。同時期の日本の経済成長率は、年平均0~3%程度に停滞してしまっています(図表1)。

【図表1】各国の実質GDP成長率の推移(2000年~2025年)
各国の実質GDP成長率の推移
※インドは2021年以降、その他の国は2020年以降予測値
出所:IMF World Economic Outlook Database October 2021

中国経済が急成長した原動力のひとつが工業製品の輸出です。欧米や日本の企業が中国に工場をつくり、中国は部品を輸入して工場で組み立てて、先進国より安価な労働力を生かして低価格で製品を国外に輸出する「加工貿易」をすることで、急激に生産能力が拡大し、輸出が増加しました。一方で、そのことが米国をはじめ他国との貿易摩擦を生むきっかけにもなっています。

深センの港
日本や米国など先進国への工業製品の輸出で急激な経済成長を遂げた中国経済

金融危機を乗り越え、中国は世界2位の経済大国へ

2008年のリーマン・ショックにより世界中で経済活動が落ち込みましたが、中国は大規模な財政発動で金融危機に対抗して、先進国より早く経済を立て直しました。そして、2010年頃にはGDPが日本を抜いて世界2位にまで成長しています(図表2)。その一方で、高い経済成長が続いた中国では人件費が上がり、近年では「世界の工場」の役割は他の新興国に移りつつあります。

【図表2】各国の米ドル建て実質GDPの推移
各国の米ドル建て実質GDPの推移
※インドは2021年以降、その他の国は2020年以降予測値
出所:IMF World Economic Outlook Database October 2021

先進国の企業が求めるのは「安く働いてくれる人」です。そのため、最近はインドやベトナムをはじめ、東南アジアやメキシコなどの人件費が安い国が「中国からの代替先」として期待されています。

トラリピインタビュー

特にインドは人口が増加中で、数年のうちに中国の人口を超える見込みです。さらにインドでは数学や英語の教育に力を入れており、欧米のIT企業が求める人材が豊富という強みもあります。2014年にはインドのナレンドラ・モディ首相が国家政策として「Make in India」を発表して、成長の軸足をサービス業から製造業へシフトさせ、海外からの投資を促進してきました。

上記のように、中国以外の新興国が「世界の工場」として台頭しつつあり、製造業においては世界的に「脱中国」という流れが進んでいるのです。

ITで台頭する中国。安全保障や人権問題に懸念

中国で製造業に代わって、急速に存在感が高まっているのがIT企業です。2010年代以降の中国は、ITの発展がめざましいものがあります。アリババやテンセント、バイドゥ、TikTokやファーウェイなどのグローバル企業が台頭しています。

フォースタートアップスの情報プラットフォーム「STARTUP DB」の調査によると、1989年時点で世界の時価総額トップ50にランキング入りしていた日本企業は多く、中国は0でした。しかし2022年1月時点では、世界の時価総額トップ50でランキング入りした日本企業はトヨタ自動車のみです。そして、中国は5社もランキング入りしています。

以前のように中国のGDP成長率が10%を超えることはなくなったものの、それでもコロナショックの前までは年7%前後の成長を続けてきました(図表1)。一方で、中国という国に対する不安や懸念を抱く方も増えているのが現状です。

2013年に中国の国家主席に就任した習近平氏は独裁色を強めており、チベットやウイグルなどの少数民族の弾圧が問題になっています。米中関係の緊張も高まっており、香港、台湾をめぐる問題など、安全保障上の懸念も強まっています。

さらに、中国の「国家主席の任期は2期10年まで」という、憲法で定められた任期制限を撤廃するという発表がされたこともあり、「習近平政権がいつまで続くのか」「米中摩擦はどうなるのか」という懸念は今後も続きそうです。

中国政府
独裁体制を強める習近平政権への懸念が増している

国連は、中国本土の人口が2030年にピークを迎え、その後は減少するという予測をしています。中国の圧倒的な人口が支える国内需要が減少していく可能性も考えられます。

中国経済は急成長を遂げてきましたが、これまで述べてきたようにさまざまなリスクを抱えています。中国経済の成長が今後も継続するかはわかりません。一方で、世界最先端の技術を持つIT企業も出てきており、中国企業が投資対象として有力な選択肢のひとつであることも確かです。

これから中国の株式や投資信託に投資する方は、経済だけでなく政治や国際情勢にも敏感になり、中国だけでなく先進国の資産にも投資するなど、適切なリスク分散をすることがより重要になりそうです。中国経済の動向に注意しながら、堅実な投資をしていきましょう。

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