「水素大国」日本、有望なエネルギー源として注目
そこでいま脚光を浴びているのが「水素」です。水素(H2)は燃焼しても水(H2O)しか発生しない正真正銘のクリーンエネルギーとされています。化石燃料の代わりとして最も有望なエネルギー源として急浮上しつつあります。
何よりも水素は、気体、液体、固体(金属水素化合物)のあらゆる形で貯蔵できるという利点があります。他の燃料と比較しても単位質量あたりのエネルギーが大きく、この点で他の再生可能エネルギーとは一線を画しています。
実は日本はすでに大量の水素を製造する「水素大国」でもあるのです。年間で300~400億立方メートルという大量の水素を製造するほどの規模です。
製造方法として、最も広く用いられているのが、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)、ナフサ、灯油などの化石燃料に水蒸気を反応させる「水蒸気改質」です。世界で最も一般化された工業的な水素製造方法であり、多くの石油精製プラント、石油化学プラントで用いられています。
これらの工場で製造される水素は、主に石油精製によって産出されるガソリン、ナフサ、軽油などの有害物質である硫黄を除去するために用いられます。石油精製工場1か所で、1日あたり100万立方メートルにも及ぶ水素が製造されているほどです。
しかも日本中の石油精製工場に置かれる水素製造装置には、生産能力にかなりの余力を残していると見られ、これらの装置をフル稼働させれば将来的に普及が予想される「燃料電池カー」数百万台分の燃料をまかなうことができる、とも指摘されるほどです。
同じように製鉄所では、銑鉄を作る工程でコークスを大量に用いますが、石炭からコークスを製造する過程でも副産物として水素が生成します。
また「石炭ガス化」という水素製造法もあります。地中から掘り出した石炭を細かく粉砕し、酸素を加えて400度以上の高温にすることで、石炭の成分を分解して水素を発生させる方法です。
「グレー」「ブルー」「グリーン」3つの水素エネルギー
ただしこれらの難点は、どのような方法を採用するにしても、水素を製造する工程では大量の二酸化炭素が生じてしまうことです。石油精製工場や製鉄所で作り出される水素は、いわゆる「グレー水素」と呼ばれ、水素を作る工程で大量の二酸化炭素が排出されてしまいます。それでは「地球にやさしい水素エネルギー」とは言えなくなってしまうところが最大のネックでもあります。
そこでこれまで挙げた方法で水素を製造する際に、発生した二酸化炭素を集めて固定化し、あるいは地中に留め置くという方法がとられます。これが「炭素の固定・貯留化」技術で「CCS」と称されます。このような水素を「ブルー水素」と呼んでいます。すなわち製造過程で二酸化炭素が生成されるにしても、それを大気中には放出されないように封印して製造されたものです。
もうひとつ、第3の水素として「グリーン水素」も存在します。太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーから作られる電力、さらには海面の温度差を利用した発電、氷雪の冷熱による発電、波の力による発電など、自然界のエネルギーを利用して電気を作り出し、その電気を利用して製造された水素が「グリーン水素」です。これが究極の水素の製造法としておおいに注目されているのです。
グリーン水素を使って水素を作るには「水分解」の方法を用います。電気エネルギーで水を分解して水素と酸素を作り出す方法が「水分解」です。
水電解の歴史は古く、1890年にはすでに工業的に利用されていました。水素は通常の状態では酸素と結合して水になろうとします。その方が自然で安定的だからです。したがって通常の状態で水がひとりでに水素と酸素に分解することはありません。
しかしそこに外部から(電気などの)エネルギーを加えると、水を水素と酸素に分解することができます。この作用を応用したのが水電解です。水電解を行う装置は、電気エネルギーを水素と酸素の化学エネルギーに変換する装置と言い換えることができ、水素と酸素から電気を作り出す「燃料電池」とはちょうど反対の関係にあります。
この時に用いられる外部からの電気エネルギーが、石炭や石油などの化石燃料を燃やして作り出した電気では、地球にやさしい水素とはなりません。そこで再生可能エネルギーを利用して作り出された電気を使って水電解を行えば、二酸化炭素をまったく出さない水素を作り出すことができます。これが「グリーン水素」と呼ばれる所以です。
枯渇しない、理想的なエネルギー循環システム
現在の日本で供給される電気エネルギーの大半は火力発電によって供給されます。石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やして、もともとの化学エネルギーを熱エネルギーに変え、その熱を使って蒸気を発生させ、蒸気タービンを回して電気エネルギーを得ています。
このような発電の過程ではどうしても発電ロスが発生します。どんな効率のよい発電設備を用いても、エネルギー効率は60%程度にとどまります。逆から見れば、40%のエネルギーは電気に変わる前に無駄に捨てられているということです。
水素と炭素から水と電気エネルギーを作り出す「燃料電池」を使えば、比較的容易に化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができます。太陽光などの再生可能エネルギーを利用して水を分解して、水素と酸素を生成し、その水素と酸素を使って水を生成して、この過程で電気エネルギーが放出されます。
水素の燃焼過程で生成する水は生物に無害であり、環境を汚染する物質を排出することはありません。この反応を繰り返すことで、太陽光のエネルギーを水素に蓄えてエネルギーの供給ができれば、理想的な物質の循環、エネルギー変換システムができあがるのです。
これからの社会は、水素をエネルギーの中核においたシステムに変わってゆくことになるはずです。水素は、再生可能エネルギーが蓄積された燃料となることでしょう。電気エネルギーと水素は、水電解と燃料電池という装置を用いれば、原理上ではエネルギーの損失なくしてお互いに変換できる、究極のエネルギー変換システムです。
ここに至って人類は、枯渇する心配のない、純粋に環境にやさしいエネルギーを手に入れることができるはずです。水素製造装置に強いIHI(7013)、日揮ホールディングス(1963)、千代田化工建設(6366)、そして三菱重工業(7011)に注目してみたいと思います。