テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第65回は、NHK-FM青春アドベンチャー「ぼろ鳶組」シリーズでお馴染みの丸尾聡さん。
劇作家の「あれ?」
コロナより前だから、いつぐらいだろう?
「あれ? あれれれれれ?」となったのである。
お世話になっている伴一彦さんが若手のシナリオライターたちと芝居を観に行くというのでご一緒し、その後は飲みながら「シナリオを書くとはなんぞや?」について、お話をうかがわせてください! という企画だった。
これもまたお世話になっている鈴木聡さん(劇団ラッパ屋主宰)もお誘いした。鈴木さんは、それはそれは朝ドラ2回! 書いている立派なシナリオライターでもありますよ。ただ、その少し前に「うーん、シナリオ書くときはやっぱりアウエー感があるよねえ、丸尾くん」という話をしたばかりだったのであります。
かくいう私は、ラジオドラマは30年近くコンスタントに書かせていただいているものの、映像作品は、まあ、書いたことはあります、番組の構成? やったことなくはないです、という……。現在でもほとんどは、舞台、演劇関連の仕事を。劇作、演出と俳優が半々くらいだけど、俳優としてもほぼ舞台が活動の場。
ほかに演劇祭のディレクションしたり、最近だと「戯曲デジタルアーカイブ」なるサイトの設立に携わったり。つまり、心も身体も? 芝居屋、劇作家なんです(この放作協に入れていただいてまだ半年足らず)。
斯くして、伴一彦シナリオライターチームVS鈴木・丸尾の劇作家チームで、わしゃわしゃと羊肉などを食べながらの話となったわけです。
「で、ようやくこの前企画が通ってBSでドラマ書きますよ。まだ発表できないけど」
参加の若手ライター。
(ん? そうか、シナリオライターは企画を自分で考えて売り込むんだ……)
もちろん、いろんな場合があるんでしょうけど、まず、これが新鮮でしたわ。
劇作家が企画を売り込む、ってのはあまり聞きません。いやいや、これももちろんあるんだろうけど、やりたければ仲間集めて芝居やっちゃう、劇団作る、っていうのが「王道」?
(そうか……、シナリオライターが放送局作るってわけにはいかないもんなあ、ははは……)
この辺りから、だんだん、あら?となって来ます。
「でさあ、それで放送が決まるでしょ、そういうときはギャラの話はどうなるの? 企画が通ってから交渉するの? 自分で?」
これは、劇作家連合からの質問。
答えは……と実はもうあまり覚えていないのですが、この時に来ました来ました。
(あら? あららららら?)
この人たち、若手のライターだと思ってたけど、みんな……プロじゃん!
そして、
(あれ? あれれれれれ?)
放送作家ってみんなプロ?! アマチュアの放送作家って……いない、いやありえないんじゃん!! アマチュアだったら……シナリオライターじゃないじゃん。
ジャンジャンジャカジャカジャン、と頭に音が響きました。
アマチュアの放送作家はいないのか……
何を書いているんだ、と……。
お読みいただいている放送作家の方々はお思いでしょう。当たり前だろうと。
しかし、演劇は儲からない……という話を放送のみなさんもお聞き及びでしょうが、実際に全然儲かりません……。特に劇団やってると儲かりません。
わたしも30年やってた劇団をやめたら少しお金が回るようになりました……。
劇作家協会なる劇作家の統括団体がありますが会員は現在600人ほど。この中で劇作だけで食べている人っているかなあ、というのが実態であります。誤解とお怒りを覚悟で書けば、放送作家&脚本家に比すれば、みんなアマチュアというようにも言えなくはなく。
昔、『上海バンスキング』をお書きになった斎藤憐さんが「丸尾よお、俺はさ、あれで2億儲けたからさあ」と仰いましたが、話半分でも1億。とはいえ500回を超える再演に次ぐ再演、2度にわたる映画化権も含めての話。例外中の例外。しかも初演は客席数100人にも満たない小劇場での出発でしたから、憐さんも最初はお金もらってないはず……。
もちろん、プロとは何か、とか、職業的にやられていなくても評価され多くの感動を生んだ作品を書いている劇作家はたくさんいるという事実は、また別の話であります。
そう。わたしにとってこの日の経験はかなり大きなことで、それは、「脚本家という人たちは、放送(他もあるけど)という世界の中のどこにどう自分がいて、何をするのか」ということを、至極真っ当に考え、その中で居場所をつかんだ人たちが、シナリオライターと名乗っている、あるいは呼ばれている、という事実でありました。
えてして「自分の表現」というところが逃げ口になる場合が演劇にはあるのでしょう。もちろん、「他者に見せる」というところと実にうまくバランスをとっている方々もいる。わたしなんぞ60を前にして、ようやく「客が面白いと思うものが書ければいいんだ」という当たり前のことが少し思え始めた。
しかし、一方で、
「世界が変わるようなこと書かなきゃ、面白くないよ」という先達の言葉も刺さるのでありますよ。
福田善之さん。脚本家として大河ドラマなど多数。劇作家としては、現在最大のレジェンドと言っていい。御年90歳。先日ロングインタビューをさせていただく機会あり、その打ち合わせの居酒屋でのお言葉。
福田さん、今、新作戯曲を書いています。何かしらのものを書かない日はないそう。
「この歳になって書くっていうのは、なんかないとね」
ふむ。
わたしは堂々巡り。しかし、まあ、この堂々巡りは悪くない、とも思ったりして。
でも、マネーの達人!? にはなりたいものです(笑)。
次回は放送作家の今浪祐介さんへ、バトンタッチ!
ぜひ観て、読んでください!
発売中!
『ベスト・エッセイ2021』日本文藝家協会 編(光村図書出版)
『踏破されぬ「巨大な山脈」』(丸尾聡著)を収録
公開中!
「福田善之インタビュー」(2022):日本の戯曲研修部アーカイブ
(聞き手 丸尾聡)
開設!
「戯曲デジタルアーカイブ」
500本以上の戯曲が無料で読めます。ダウンロード可。
企画・構成・演出・出演
7月27日-31日 アトリエ第Q藝術
「世の中と演劇する The three plays」
3本の中短編作品を一挙上演。
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。