日々の生活の見直しは「先に気付いた者勝ち」
今回の著書『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか。』では、タイトルにもあるとおり、部屋の片づけや冷蔵庫の整理といった普段の生活の中での行動や心がけが、お金を貯めることにつながるというお話が書かれています。あらためて、この本を書かれた動機や目的について教えていただけますか?
黒田さん お金について考える材料は、何も投資や金融商品だけではなく、身近なところにもいっぱい転がっていることを伝えたかったのがきっかけです。。もともと私がウェブサイトに書いていたコラムなどが出版社の方の目に留まり、コンテンツを整理して1冊の本にまとめました。
自分の生活習慣を見直すことからお金の使い方を改善していって、それが10年、20年と積み重なっていけば、貯まっていくお金には大きな差が生まれます。「先に気付いた者勝ち」です。この本をきっかけに「このままではいけない」という気持ちが芽生えて、お金のことを考えるきっかけになればいいと思います。
資産運用は「何から始めればいいかわからない」と思われがちなので、まずは身近なところから手を付けていくのは、入り口としてはとてもいいですね。
黒田さん お金に限らず何ごとも「一事が万事」だと考えています。たとえば部屋の片付けができない人が、家計を管理するのは難しいと思うんですよね。
若い方も、人生100年時代の老後資金や親の介護など大きな課題に直面するかもしれません。そんなときに、まずは、部屋の片付けや冷蔵庫の整理などの良い習慣ができていると、対応が難しい問題にも向き合えるようになると思います。
最初から高い目標を掲げても挫折してしまうので、小さな成功体験を積み重ねていくのが大事だと思います。できそうなことから少しずつやってみて、トライアンドエラーを繰り返しながら、自分なりのお金の貯め方を考えていくことが大切ではないでしょうか。
生活習慣の改善も目的がないとなかなか長続きしません。お金の節約も目先の楽しみを削ることになるので、目的がなければ「何のために節約しているのか」となってしまいます。「家を建てたい」「好きなものを買いたい」という目的があってこそ節約生活にも耐えられますし、がまんを重ねるほど、目的を達成して得られる喜びも大きくなると思います。
「自助努力を求める社会」を現実として受け止める
最近は政府が「資産所得倍増計画」を打ち出すなど、国民に投資を根付かせようと積極的に動いています。投資や資産運用に対して、私たちはどのように向き合っていけばいいのでしょうか。
黒田さん 「老後2000万円問題」のときもそうでしたが、国が国民に対して自助努力をより強く求めるようになったと感じます。自助努力なんて「持ってる人」の論理ではないか、と不満を抱える人もいるかと思います。
FPとして伝えたいのは、国がそういう方針を示した事実を、まずは冷静に受け止めてほしいということです。そのうえで、2000万円などという数字に惑わされることなく、自分たちの老後にどれくらい不足するのか、そのために準備すべき金額はいくらなのかを確認して、早めに対策を講じることです。
今の超低金利の状況では、銀行などの預金ではお金は増えません。老後のお金を自分で準備するには、個々のリスク許容度に応じた投資が欠かせないのです。あわせて、できるだけ長く安定した収入で働くことも大切です。
老後を安定して迎えるために大事なことは、お金、健康、生きがい、そして衣食住の3つをうまくコントロールすることです。健康でなければ働けませんし、「何のために働くのか」という生きがいがなければ長く働き続けるのは苦痛です。そして衣食住、特に高齢者にとって「食」は大事です。生活費は確かに節約しやすい費目ですが、物価高だからといって食費を減らしてしまうと病気のリスクが高まります。
幸福度を高める「非地位財」の使い方
著書ではお金の使い方についても触れられています。「非地位財」という考え方は、私も共感しました。
黒田さん 本でも書いたのですが、一般的に、人間の幸福度を下げるのは「慣れ」と「比較」だということです。たとえば年収500万円の人は「1000万円あれば幸せになれるのに」と考えるのですが、仕事をがんばって実際に年収が1000万円になっても、最初のうちはうれしいけれど、その状態に慣れると幸福度は下がってしまいます。
相談でよく聞くのが他人との比較です。「うちは銀行員で年収1000万円だけど、隣の人はマスコミ勤務で2000万円もらっているらしい。だからうちは幸せではない」という人もいます。「お金があるからもっといいマンションに住まなきゃ」とか思い始めると、いくらお金があっても不安になります。幸福は人それぞれで、自分で決めるものなので、幸福度を上げようと思ったら他人と比べないことです。
お金の使い方も、高級車のような他人より優位に立つための「地位財」に費やすのではなく、人間関係や自分の健康のようなそれ自体に価値がある「非地位財」のために上手に使うことが、年収がそれほど多くなくても幸福度を上げるポイントだと思います。
私の好きな言葉に「吾唯足知」(われ、ただ足ることを知る)というものがあります。私のホームページでも紹介しているのですが、この言葉は「知足のものは貧しと言えども富めり。不知足のものは富めりと言えども貧し」という仏教の教えから来ています。自分が「足る」ことを知らなければ、たとえお金を持っていても「もっと欲しい」と思い続けてしまい、お金に対する不安感やストレスを抱えることになります。
お金持ちの人がバブル時代に別荘を買ったけれど、実際に買ってみてもあまり行かないし、維持がたいへんだし、手放したくても売れないし、だったら毎回お金がかかるけれどリゾートホテルへ行く方がよかった、という話を若い頃に聞いたことがあります。私は別荘を買えるほどの大金持ちでなくても、そこそこのお金を稼げて、家族のために自由にお金が使えれば、それでじゅうぶん幸せだと思っています。
お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか
「自然に貯まる人」がやっている50の行動
黒田尚子 著(日本経済新聞出版)
冷蔵庫に保冷剤がたまる、クローゼットに黒いパンツが3枚ある、「もったいない」が口癖、お酒やスイーツはディスカウント店で買う、教育費だけは惜しまない……。
──これらはすべて「お金で失敗する人の兆候」かも?
どんなにマネー知識を身につけても、「考え方」や「行動原理」そのものに問題があると、人生のどこかでお金につまずくことに。家計相談歴25年以上のベテランFPが、半径5メートル以内の行動から老後資金まで、「投資以前のお金の考え方」の基本を解説します。(日経BOOKプラスより)