テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
9月18日に創立64年を迎える日本放送作家協会。今月は重鎮作家の登場が続々と!
連載第133回は、ベテラン脚本家で、著作物の権利問題や後進の教育事業活動にも尽力されている金谷祐子さん。

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とりあえず、キープ!

金谷祐子さんの写真金谷祐子
脚本家
日本放送作家協会元理事
日本脚本家連盟常務理事

「とりあえず、1カ月暮らせるぐらいのお金はつねにキープしておくこと」
フリーのコピーライターだという少し年上のその女性は、知人の紹介で初めて会った私にそうアドバイスしてくれた。勤めていた会社を自己都合退職し、これからは自分のペースでやりたいことをやっていこうと、期待ばかりがふくらんでいた25歳のときのこと。
「とりあえずそれだけあれば、嫌な仕事を引き受けずに済むから
続く彼女の言葉に、漠然と思い描いていた“フリー”という立場がどういうものか、かなり具体的に、ほぼ正確にイメージできた瞬間でもあった。

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ちょうど人生初の退職金を手にしたばかりでもあり、私は迷わず、生活費の3カ月分をキープしておくことにした。それは何も「嫌な仕事はやらない」といった、ベテラン大物ライターのような思いからではなく、嫌な仕事どころか、そもそも仕事があるかどうかさえわからなかったから。会社員時代は一応、社内・社外向けPR誌の編集や原稿書きなどしてはいたものの、果たしてその程度のキャリアでフリーのコピーライターとしてやっていけるかどうか、本人よりも周りのほうが心配するくらい、先の見通しなどまるで立ってはいなかった。

それでも幸か不幸か、時代はバブルに向かっていたこともあり、仕事は途切れることなく、3カ月分の生活費は多少の増減を繰り返しながらも、ほぼキープされていた。

家計簿をつけている女性のイメージフリーランスになるとき、迷わず生活費の3カ月分をキープした

避けるよりも続けるために

その後、ひょんなことから日本脚本家連盟(当時は日本放送作家組合)の教室で脚本を学び、日本放送作家協会主催のコンクールに入選したのを機に、ドラマの脚本を書くようになった。それと同時に、キープする額を3カ月から半年分へと倍増することにした。

というのも、敬愛する恩師がまだ若かった頃、とつぜん1行もホンが書けないというスランプに陥り、奥様があちこちから半年分の生活費を工面してくれたおかげで何とか乗り越えられた、という話を聞かせてくれたから。だとすれば、私などはできれば1年分、最低でも半年分ぐらいキープしておくのはむしろ当然だ。事実、その後多少のスランプめいたものはありながらも、とりあえず明日のパンを心配することなく、目の前の仕事に向き合い続けることができてきた。
そういう意味では、この“とりあえずキープ”は私にとって、「嫌なことを避ける」というよりは「好きなことを続ける」ための、ココロの必要経費と言ってもいいかも知れない。

トラリピインタビュー

あるとき思い立って、キープの一部を現金で、それも金種ごとに新札にして手元においておくようにした。おかげでお祝い事やお年玉など、そのつど新札交換に銀行に駆け込む必要もなく、いまでも大いに重宝している。

ただ昨今は、結婚祝いも“オンラインご祝儀”がフツーになりつつあるそうで、受付担当の負担が少ない、新札を用意する手間が省ける、ご祝儀袋も不要でエコにも役立つ、などなど利点は承知のうえながら、それでもやっぱり現金が手元にあるに越したことはない。

日本のお札のイメージもしもに備え、金種ごとに新札の現金を手元においている

だってもしも!……もしも事故や災害で大規模なシステム障害でも発生すれば、ATMでお金を下ろすことはおろか、交通機関のチケットやガソリンの購入すらできずに身動きが取れなくなる事態だって起こり得るかも知れないのだから。

というわけで、若い人にアドバイスを求められたときには、こう付け加えることにしている。
「とりあえず、1カ月暮らせるぐらいのお金はキープしておくこと。できれば現金で!

次回は藤川桂介さんへ、バトンタッチ!

是非覗いてみてください!

皆さまご存じのように脚本や台本など我々の作品の著作権は現在、著作者の死後70年間保護されます。高齢化が進むいま、70年と言えば孫あるいはひ孫の時代。その頃には誰が権利を承継しているのか、連絡先すらわからなくなってしまうことも。日本脚本家連盟は、そうした権利者不明・連絡先不明作品を生み出さないよう、すでに半世紀以上活動している、脚本家による脚本家のための著作権管理団体です。入会をお考えの方は、是非一度覗いてみてください。
ご参加お待ちしております!

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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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