本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第13回は、現時点で婚姻関係が認められず、日本の法律では「おひとりさま」とみなされる同性婚のパートナーへの相続について考えます。

「同性パートナーシップ制度」と婚姻制度

「ボーイズラブ」(BL)を主題にしたコミックが今やコミック界の一ジャンルとして認知され、日本では『おっさんずラブ』『窮鼠はチーズの夢を見る』『ミッドナイトスワン』など、エンターテインメントの世界でも普通に同性の恋物語やトランスジェンダーの心を描く時代になりました。
しかしまだ、リアル世界では法律や古くからの既成概念に縛られ、LGBTの方にとって生きやすい社会になったとは言い切れないように思います。

今月6月は、アメリカを始め全世界的に「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、多様化された「性」の権利の啓発運動が行われているのをご存じですか?
日本でも楽天など一部の企業では性差別のない社会を創る運動が行われています。

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そんなわけで、今日は「同性婚」と相続について考えてみましょう。

Q.
男性同士で長年同棲しています。今の日本の法律では同性婚はできませんが、双方の親とも親族として付き合ってもらっていますし、これからも彼を人生のパートナーとして暮らしていきたいと思っています。
現在の住居は私の名義で所有していますが、もし私が先に亡くなったらこの家はパートナーの家としてそのまま住み続けてほしいと考えています。
互いに先に亡くなった方の残した財産はパートナーに相続してほしいと話し合っていますが、それは可能でしょうか?

A.
遺言書を作成するか、養子縁組をすれば、互いの財産の相続が可能です。
ただし、遺言書の場合は法定相続人の「遺留分」を考える必要があります。養子縁組では、法律上は「親子」になるため、互いの立場に違和感を抱くかもしれません。

現在の日本の法律では同性婚は認められていないため、同性パートナーは互いにその法定相続人となることはできません。しかし、多様性を尊重する社会を実現させるために、2015年に東京都の渋谷区と世田谷区が「同性パートナーシップ制度」を設け、一定の要件を満たした同性カップルを、結婚と同等のパートナーとして自治体が証明をすることができるようになりました。

その後、全国の自治体にもその動きが広まっています。2021年1月8日現在、同性婚を推進する団体の調査では74の自治体が同様の制度を導入し、人口カバー率は33.4%まで達しています。
(参考……日本のパートナーシップ制度 | 結婚の自由をすべての人に – Marriage for All Japan –

また、市区町村単位での導入だけでなく、大阪府、群馬県、茨城県のように都道府県単位での導入事例もあり、今後導入予定としている自治体の数も増えています。

しかし、この同性パートナーシップ制度は国が認めている「婚姻」とは別のもので、パートナーは互いに「配偶者」として認められません。相続権はないのです。
長年連れ添った同性パートナーに財産を残す方法はないのでしょうか?

遺言書・死因贈与契約か、養子縁組か

現行の法律の中で同性パートナーに財産を残すためには、元気なうちにやるべき方法がいくつかあります。

1. 遺言書を遺す

遺言書で自分の財産をパートナーに託すことはできます。しかし、亡くなった方に他に子や親の法定相続人がいれば、その法定相続人には遺留分といって、一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得の権利があります(兄弟姉妹の法定相続人には遺留分がありません)。そのため、遺留分を侵害しない範囲での遺言書の内容にする必要があります。

遺言書は財産を与える側が一方的に作成するものですが、財産を与える側、受け取る側双方の意志により成立する「死因贈与契約」という方法もあります。遺言書は法的にかなった形式、方法で作成保存しなければ正式な効力を持つ遺言書にはなりませんが、死因贈与契約は書面ではなく、口約束でも契約の効力を持ちます。しかし口約束だけでは後々騒動の原因にもなりかねません。書面で契約することをお勧めします。

死因贈与契約でも、遺言書と同じく遺留分については考慮する必要があります。また財産の種類によっては不動産取得税などの税金が遺言書より高くなることがあるので気をつけましょう。

2. 養子縁組をする

同性のパートナーと養子縁組をすれば、二人の関係は法律上「親子」となりますので、互いに法定相続人になることができます。また、同じ姓を名乗ることも可能です。

税金や社会保険などの親子間での優遇措置も受けることもできます。しかし二人の関係は「親子」となってしまいますので、同性パートナーシップ制度を利用することができなくなります。互いの立場に違和感を抱くこともあるかもしれません。

養子縁組の手続きをする前に、実の親御さんなど親族にはあらかじめ養子縁組をする旨を伝えておくことをお勧めします。知らせないでおくと、実際に相続が発生した時、「養子縁組無効」の主張をされることもありますので注意してください。

その他、「信託契約を結ぶ」などの方法もありますが、手続きの際に費用もかかりますし、贈与税、所得税など税金についてもあらかじめ考慮する必要があります。専門的な知識のある方にご相談することが大切です。

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