テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第44回は、高校時代からクイズ番組への出場を続けつつ数々の番組で優勝を経験し、クイズ作家になった道蔦岳史(みちつた たけし)さん。

日本放送作家協会リレーエッセイ一覧はこちらから

視聴者参加番組に夜明けは来るか

道蔦岳史さんの写真
道蔦 岳史
クイズ作家、放送作家
日本放送作家協会会員

「パネルクイズ アタック25」が46年の歴史に幕を下ろし、令和の時代はテレビ番組の中から視聴者参加の番組がほぼ消滅する事態となってしまった。特番では「高校生クイズ」「SASUKE」などが続いているものの、そもそも視聴者が参加できる番組がほぼなくなり、出られる可能性があるのは「のど自慢」ぐらいである。

アクサ・インベストメント・マネージャーズ 未来の世界を見据えて、持続的な成長が期待される企業に厳選投資

家族でのチャレンジ企画や、一般人のお見合い的番組など、視聴者参加番組が花盛りだった昭和50年代以降、クイズ番組も盛況となり、まだまだ貴重な体験だった海外旅行が優勝賞品として燦然と輝きを放っていた。

現在は戦後最も、ニューヨークへ行きたい人が減っている時代であると思われるが、私はクイズ番組で、おそらく日本記録となる13人分の海外旅行を獲得し、10カ国あまりの国を訪れることができた。しかし、現金としての賞金の合計額は300万円ほどである。

テレビの創世記を除くと、クイズ番組の賞金・賞品の上限はずっと100万円の時代が続き、平成8年(1996年)に1000万円へと引き上げられた。これはオープン懸賞に関する独占禁止法の告示によるもので、一般の懸賞も同様である。高額賞金で話題となった「クイズ$ミリオネアが日本でスタートしたのは」平成12年(2000年)である。そしてこの上限1000万円の規制は平成18年(2006年)になくなり、現在は制度上、賞金はいくらでも出すことが可能となっている。

クイズのイメージ
かつてクイズ番組の賞金には上限があったが、現在はいくらでも出すことが可能になった。とはいえ、賞金が多いことと番組が面白いこととは直接結びつかない

とはいえ、賞金が多いことと面白い番組であることは直接結びつかないこともあり、業界内では1人200万円という自主規制の上限があるとのことで、当分はクイズ番組で高額賞金や海外旅行を獲得することが不可能な冬の時代が続きそうである。
なお、タレント、芸能人に関しては出演料として扱うことで、1人200万円の自主規制をクリアしているという。

そこに答があるからだ

これまでにスタッフとして関わった数多くの番組の中でも「クイズ$ミリオネア」は特に印象深い企画である。もともとはイギリスの番組で、世界各国で同様のルールで放送されたテレビ番組史上でも珍しい番組だ。私が「海外で話題の番組があるようです……」とTBSのプロデューサーに伝えた半月後には、フジテレビ系での放送が発表されるという展開で、平成12年(2000年)10月に番組の放送がスタートした前後にはイギリスからスタッフが来日し、一緒にカラオケ宴会をしたこともあった。

レギュラー放送の終了からすでに14年、最後の特番からまもなく9年が経過するが、今でも会話の途中で「ファイナルアンサー?」を用いている人に出会うと、心の中で手を合わせるような思いになる。シンプルなルールとドラマチックな演出が多くの人の心をつかみ、映画「スラムドッグ$ミリオネア」がアカデミー作品賞を獲得したのも素晴らしい出来事だった。これは各国に同番組のルールがすでに浸透していたことが大きな要因であったに違いない。

一方で、全問正解すれば1000万円という賞金額はクイズ番組としては確かに衝撃だったものの、本家イギリスの100万ポンド、アメリカでも100万ドルという1億円超えの賞金に比べれば、日本は賞金額の上限を定めた法律がルールにのしかかることとなった。14問正解で750万円、15問正解で1000万円という、最も盛り上がるべき場面で、増える賞金(250万円)よりも減る賞金(650万円)の方が多いという、世界に類を見ないマネーツリーを生み出してしまった。あのイギリス人たちにダメ出しをして欲しかったという思いが今でも残るが、勤勉な日本の風土には掛け算よりも足し算が似合っていたのかも知れない。

クイズビリオネアのイメージ
元々英国で作られ、世界各国に広まった「クイズ$ミリオネア」。日本では最も盛り上がる場面で、増える賞金よりも減る賞金のほうが多いという、世界でも類をみないルールとなった

番組では問題を見てから、回答するかドロップアウトするかを選べるため、そこに正解があるものの、果敢に1000万円に挑戦するのは賞金より名誉に燃えるバリバリのクイズマニアか、賞金より好感度を選ぶ芸能人かに限られることとなっていった。全問正解者がまったくといっていいほど出なかった本家イギリス版とは異なり、30人を超す全問正解者が出たのが日本版の特徴である。話題のビッグボス新庄剛志氏や、アタック25の司会者・谷原章介氏もミリオネアとなった人物である。

時代はネット配信により、誰でも視聴者から出演者となることが可能な状況となり、放送の自主規制も及ばない事態となっている。本格的にクイズに取り組んでいる人々の数は、低年齢化もあり増加していることは間違いない。クイズ番組の変化を、これからも末永く見続けていきたいと願っている。

次回は脚本家の三上幸四郎さんへ、バトンタッチ!

ぜひ、ご覧ください!

クイズ!脳ベルSHOW

月~金の帯番組のため、1時間番組ながら毎週5本録りを続ける精力的なクイズ番組です。
ホームページからゲスト出演者の顔ぶれを見るだけでも楽しめます。
番組出演者たちによる「脳ベルヒットライブ」というコンサートも定期的に行われています!

クイズ!脳ベルSHOW
一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

メルマガ会員募集中

インデックスファンドの次の一手