テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第140回は、『ロンドンハーツ』や『アメトーーク!』などを手掛ける、放送作家の町田裕章さん。
新人とベテランは何が違う?
言わずもがな資本主義社会における仕事とは、市場に商品を提供し、その対価を貰う行為である。では放送作家が市場に提供している商品とは何なのか? 今回はお金にまつわるテーマ依頼ということで、これを考察していきたい。
よく業界外の人が思う放送作家の仕事とは、台本を書いて、そのギャラが支払われるというものだが、ドラマの脚本家とは違い、それも仕事の1つではあるが一概にそれだけとは言えないところが放送作家の仕事をややこしくしている。
1つわかりやすい事例をもとに考えてみよう。放送作家が新人時代に全員経験したことがある現象として、会議でたまたま同じ企画を出したのに、ベテラン作家の企画は丁重に扱われるのに新人作家の企画は無下に扱われる、というものがある。なぜこのようなことが起こるのか? シンプルに面白い企画ならキャリアは関係ないように思われるが、この現象はテレビ業界史上永遠に起こっている。
ここでのベテランと新人の違いは何なのか?と言うと、これはひとえに「信用度」なのだ。
企画とは、当たるかどうかはやってみないとわからない、ある種、保険のない博打のようなものである。そこで企画を採用する側は、どうしても「信用」という担保が欲しくなるのも当然。新人が言う面白いと、ベテランが言う面白いは、重みも価値も違うのである。それは一朝一夕では手に入らない仕事相手との信頼関係に他ならない。
前回あの人に書いてもらった台本が面白かったから今回もお願いしたい、あの人がお薦めしていたタレントさんを使ってみたら大活躍してくれた……など小さな成功を積み重ねることでコツコツと信用ポイントを貯めてきたのだ。
つまり放送作家が売れるか否かは、この信用ポイントがかなり重要なファクターとなっている。よく放送作家は才能の職業と思われがちだが、ミュージシャンや漫画家と違い1年目から彗星のごとく一攫千金ゲットする人など、ほぼゼロ。今売れっ子作家と呼ばれる人達は皆、1年ずつ地道に信用ポイントを貯めてきた人ばかりだ。そう、放送作家とは信用を売る商売と言ってもいい。
信用を得るにはどうしたらいい?
では、新人が信用を獲得していくにはどうしたらいいのか? 当コラムを読んでいる若い方のために誰でも日々コツコツ出来る信用ポイントの貯め方を提案してみたい。
それは、仕事相手に「本当のことを言う」だ。そんなの当たり前だと思われるかもしれないが、これは意外と難しい。例えば、絶対に当たると提案した企画を採用されたが散々な結果に終わった時、それは嘘を言ったことになってしまう。企画の提案は、ある種、未来予測みたいなところもあるので、結果が外れてばかりだと信用ポイントは失っていくだろう。
小さな事例で言えば、会議時間を守る、企画書提出の締切時間を守るなんてのもそうかもしれない。遅刻する、締切を守れないなどが続くと徐々に信用ポイントは失う。逆に約束時間より早く企画書をあげたりするとポイントをゲットできるだろう。
など、日々の実務を長期スパンで考え、あたかも楽天やTカードのポイ活のように信用ポイント獲得を念頭に置いておけば、いつの間にかポイント長者に、いつの間にか売れっ子放送作家になっていること請け合いである(たぶん)。
そして、放送作家の価値について考えた時、これはテレビ業界だけではなく、社会で働く全ての人にも当てはまると思われる。つまるところ、信用持ち=お金持ちだからだ。
次回は、放送作家の川島カヨさんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。