株式投資で肝心なのは、銘柄選びと適切な売買のタイミング。いつ、どんな銘柄を買うかを判断するための分析手法のひとつが「ファンダメンタルズ分析」です。今回は、ファンダメンタルズ分析とは何か、分析にはどんな指標を使うのか、どんな場合にファンダメンタル分析が有効なのかをまとめました。
- ファンダメンタルズ分析の指標は国の経済の動向、企業の業績や財務状況などがある
- 具体的にはアメリカの政策金利や雇用統計、企業の当期純利益やPBR・ROEなど
- ファンダメンタルズ分析は中長期投資に向いている。短期にはテクニカル分析
ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析
株式投資で銘柄や売買のタイミングを選ぶときに、株価がこの先どのように動くかを予測するための分析手法は、主に2つあります。「ファンダメンタルズ分析」と「テクニカル分析」です。
ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析についてざっくり説明すると、以下のようになります。
ファンダメンタルズ分析 | テクニカル分析 | |
---|---|---|
分析方法 | 国や世界の経済の動向、企業の業績や財務状況をもとに株価や為替がどうなるかを予測する | 株価や為替の値動きのパターンから、将来の値動きを予測する |
特徴 | 中長期投資向き | デイトレードや短中期投資向き |
今回は、ファンダメンタルズ分析について詳しく見ていこうと思います。
国の経済や企業の利益などで投資を判断
ファンダメンタルズは「経済の基礎的条件」と訳されます。たとえば国の経済であれば、景気の動向や経済成長率、物価上昇率、失業率といった、経済に関わるさまざまな指標がファンダメンタルズにあたります。企業の場合は、売上高や利益などの企業業績、資産や負債といった財務状況が挙げられます。これらの指標を確認し、分析することをファンダメンタルズ分析と呼びます。
たとえば、以下のように経済指標や企業のデータを見て投資の判断をすることは、ファンダメンタルズ分析の一例といえるでしょう。
IMFが2023年の経済成長率の見通しを下方修正した。ということは景気が悪くなり、国内企業の業績も悪くなるかもしれないから、今持っている株はいったん利益確定してしまおう。
アメリカの雇用統計の数字が予想より良く、米国株が上がった。これからアメリカの景気がよくなっていけば日本経済にもいい影響がありそうだから、米国株と日本株のインデックスファンドを買おう。
去年株を買った会社の決算書類を見たら、損益は予測より悪かったけど、その理由は「不採算事業からの撤退」だった。今は業績が低迷していても、これを機に業績がプラスに転じるかもしれないので、株価が下がった今はむしろ買い時かも。
ファンダメンタルズ分析の代表的な指標……国の経済編
ファンダメンタルズ分析を行うときにどんな指標や情報、データなどを見ればいいかは、例を挙げればきりがありませんが、その中でも代表的ないくつかの指標について説明します。
政策金利・金融政策
最近では、アメリカのFRB(米連邦準備理事会)による利上げが注目されています。アメリカでは急激なインフレを抑えるために、FRBが2022年から政策金利の利上げを行っています。利上げは経済活動を抑制する効果があるため、一般的に利上げが行われると株価は下がりやすくなります。逆に、利下げでは株価は上がりやすくなります。
日本では利上げはしばらく先のことになりそうですが、日本銀行による「金融緩和」や「イールドカーブコントロール」といった金融政策も、政策金利と同じように株価に影響を与えうる、注目すべき指標となります。
雇用統計(アメリカ)
アメリカのみならず、世界の金融関係者が注目している指標が雇用統計です。通常、毎月第1金曜日の午前8時30分(日本時間では、アメリカが夏時間のときは金曜21時30分、冬時間では22時30分)に発表されます。
雇用統計では、アメリカの雇用に関する統計の数値が発表されます。中でも注目を集めるのが「非農業部門雇用者数」です。農業を除く産業で働く人の数がどれだけ増えたか、もしくは減ったかを示したもので、この数字が大きくなるほど景気がいいとみなされ、株価は上がりやすくなります。
このほか、失業率も注目度の高い指標です。失業率が低いほどアメリカ経済は健全だとみなされ、株価にはプラスの影響が考えられます。
国際情勢
経済だけでなく、国際的な政治の動向も株価を動かす要因になります。現時点ではやはり、ウクライナ情勢が最大の政治問題でしょう。エネルギー価格や農産物の価格が上がるなど、さまざまなところに影響が出ました。こうした国際情勢の変化も、個人投資家がどの銘柄を選び、どのタイミングで売買するかを判断する材料のひとつになります。
ファンダメンタルズ分析の代表的な指標……企業編
企業に関しても、見ておきたい指標はたくさんあります。ここではその一部を紹介します。
売上高・利益
「企業がどれだけ儲かっているか」を示すのが売上と利益です。売上や利益などの数字は、決算書で確認できます。上場企業は四半期に一度、決算を開示する義務があり、決算書は企業のホームページで公開されています。
利益といってもいろいろありますが、投資の指標としてよく用いられるのは「当期純利益」と呼ばれる利益です。もちろん利益が大きいほど、あるいは利益が前期より伸びているほど、その企業は有望だとみなすことができます。
ただし、当期純利益が大きいからといって、必ずしもそれが企業自身の成長によるものとは限りません。逆に損失が発生している場合でも、ビジネスの失敗のせいではなく、特別な事情が発生したためかもしれません。売上や利益の数字だけでなく、その背景や理由まで確認することが大切です。
自己資本比率
自己資本比率とは、企業の財務が安定しているかどうかを示す指標です。企業の資金には、誰かに返済しなくてもいい「自己資本」と、返済の義務がある「他人資本」の2種類があります。他人資本とは「負債」ともいわれ、要は銀行の借り入れや債券で調達したお金のことですが、この他人資本の割合が低いほど、企業の財務は安定しているとみなされます。
財務が安定していれば、企業が破たんする可能性が低く、株価も下がりにくいと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとも言い切れない面があります。自己資本にせよ他人資本にせよ、調達した資金が企業の成長のために活用されているかどうか、つまりは会社経営そのものにも注目する必要があります。
PBR(株価純資産倍率)・ROE(自己資本利益率)
株式の収益性を測る指標はいろいろありますが、ここでは「PBR(株価純資産倍率)」と「ROE(自己資本利益率)」について紹介します。
PBRとは、今の株価が割安か、割高かを判断するための指標です。以下の計算式で算出します。
PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産
一般的には、PBRが1を下回ると、その株式は割安だと判断されます。
一方のROEは、自己資本に対して企業がどれだけの利益を上げているかを示す指標です。
ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
数値が大きいほど、その企業は効率よく利益を出していることになります。一般的には、ROEが10%を超えていれば、その企業は優良であるとみなされます。
PBRやROEなどの指標は、投資情報を扱うウェブサイトや証券会社のホームページなどで確認できます。
ファンダメンタルズ分析は中長期の投資に向いている
ファンダメンタルズ分析は、世界経済や日本経済の大きな流れや、企業財務や株価の割高・割安の状況を分析する手法です。見るべきデータが多すぎて、どこから始めていいか迷ってしまうかもしれませんが、たとえば毎月の雇用統計に注目したり、企業業績の中でもまずは当期純利益のみ確認してみたりすることから始めてもいいかもしれません。ファンダメンタルズ分析は投資初心者でも比較的始めやすい一方で、経済や企業に関するデータは無限にあるため、奥が深い手法ともいえます。
ファンダメンタルズの指標の多くは短期間で変化するものではなく、ある程度の時間をかけて動いていくものです。したがって、ファンダメンタルズ分析による投資判断が有効なのは、どちらかといえば1カ月以上の期間で利益を狙う中期~長期投資になるでしょう。数日単位で利益を狙うには、あまり向いていない方法といえます。
ファンダメンタルズ分析で見つけた銘柄で含み益を得た場合でも、それをどのタイミングで売って利益を確定させればいいかについては、短期的な投資判断が必要になります。そのときは、短期投資に向いているテクニカル分析を活用するといいかもしれません。