「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。第3回となる今回は、物価の上昇が起きる可能性について考察します。
- 1-2%程度のインフレ率で本当に済むのか? 今後さらに上がる可能性も。
- 海外の食材に頼る日本。原産地のインフレ率は日本を上回る。
- 現金の実質的な価値をどう増やすか。投資も選択肢の一つ。
前稿の締めくくりに、筆者は物価の上昇を年2%とするという日銀の「見果てぬ夢」に関わらず、「物価(インフレ率)UP」が起こり、むしろ、「2%程度の物価のUPで済むのかな?」とさえ思うこともある、と書きました。
本稿では、その根拠のひとつを考えてみたいと思います。
(なお、本稿では「インフレ率」とは消費者物価指数を指します。)
「国産の食材」の割合って、どのくらい?
ところで読者の皆さまの中には、食卓にスマートフォンを置いて、お食事をなさりながら本稿をご笑覧頂いている、そんなお行儀のよろしくない方もいらっしゃるのでは?(笑)
さて、お行儀の良し悪しはともかく。
今、お食事をなさっていらっしゃる方に、お尋ねします。
目の前の食卓の上に並べられた彩り鮮やかなお食事のうち、「国産の食材」は果たしてどのくらいあるでしょうか?
下の表は、ある著名な大手の外食チェーンのオフィシャルサイトに載っていた「食材の原産地」という表を引用したものです。その表に、食材の原産地の2018年のインフレ率を並べてみました。なお、インフレ率は日本も含め、IMF(=国際通貨基金。世界の金融と為替の安定を目的とする国際連合の専門機関)が公表している数値から引用しています。
(ちなみに、総務省は2018年の日本のインフレ率を1.0%と発表していますが、IMFのデータでは表の通り0.98%です)
さらにインフレ率の隣には、現在1万円の品物が将来いくらになるのか、原産地の2018年のインフレ率を基に5年後と10年後の推移を示してみました(2018年時点のインフレ率が5年間ないし10年間変わらないという、実際にはあり得ない前提ではありますが)。
先述のように「国産の食材は……」と尋ねると、「お米は100%国産でしょ」と思われる読者も多いと思います。しかし、現実には表をご覧いただいた通り、「国産」のお米もあるようですが、「ブレンド米(外国産のお米と国産のお米を混ぜたもの)」も供されているのがわかります。
ということで、この外食チェーンでは、お米を含めて食材の全てを海外からの輸入に頼っており、国産のみで賄うことができている食材はない、ということがわかります。
「お米まで輸入しているの?」と驚かれた読者もいらっしゃるでしょうね。
そして、原産地の横に載せたインフレ率もあわせてご覧ください。
ただし、このインフレ率は、原産地における特定の食材(例えば豚肉や牛肉など)そのもの価格の推移ではない点にご留意ください。その国の代表的な品物やサービスの価格の全体的な推移(上がり・下がり・変わらない)を示しているのが、表におけるインフレ率です。
食材の原産地のインフレ率はいずれも日本を上回る
さて、ここからが本稿の本題です。なぜ筆者が「2%程度の物価のUPで済むのだろうか」と考えるか、つまり「2%どころではない、もっと急激な物価上昇が起きるかもしれない」と思っているのかをお話しします。
いったんお箸を置いて、じっくりとご笑覧くださいね。
あらためて上の表のインフレ率を見てください。
読者の皆さまにお尋ねします。国産の食材よりインフレ率が低い、つまり日本よりも物価の上昇率が低い原産地があるでしょうか?
おわかりのように、インフレ率が1%を下回っている国は、そうです、我が日本だけです。そして、日本のインフレ率を下回る国がひとつもないことにもお気付きいただけましたでしょうか?
また、原産地として載っている国(国産、つまり日本を含む)は10か国ありますが、そのうちの半分の5か国については特筆すべきことがあります。ご覧の通り、インフレ率が2%を上回っています。それは日本銀行が目指している「物価の安定目標であるインフレ率2%」を超えたインフレ率の原産地、ということが言えます。もっとも、今のところ日本銀行の目標は達成される気配すらなく、筆者が「日銀の見果てぬ夢」と名付けたのは前稿の通りです。
海外製品の輸入価格が上がっていけばどうなるか?
ところで、もし、今後も原産地のインフレ率が「日本よりも高い率」で上がり続けたとしましょう。いずれ「原産地における価格」は「今の(原産地から)日本への輸出価格」に比べて、時間とともに差が開いてくることが考えられます。すると将来は、どのようになるのでしょうか?
今と同じ価格で、外食チェーンの美味しい牛丼や豚丼をいただくことができるのでしょうか?
このまま牛肉や豚肉の輸入価格が上がっていくとすると、預金の利率が今のように0.01%のままでは、預金が牛丼や豚丼の価格UPに追いついていかないのではないでしょうか?
これが、いわゆる現金の「実質的な価値の目減り」です。
表には、インフレ率の横に「今1万円の品物が5年後、10年後にいくらになるのか」を書いておきました。「インフレ率が昨年のまま」というあり得ない前提ではあるのですが、日本より外国の方がインフレ率が高い状況がすぐに変わるとは思えません。「時間とともに、国産の食材と外国産の食材の価格差が開いてくる」のが、金額(数字)でハッキリとおわかりいただけると思います。
「日銀の見果てぬ夢(=インフレ率2%)」を上回る原産地が、上記の表では半数もあることを説明しました。もし「日銀の見果てぬ夢」が実現したとしても、海外から輸入する品物は、それ以上に値上がりしていきます。将来的に日本のインフレ率は「日銀の見果てぬ夢」にとどまらず、2%を超えて上がり続ける可能性が大いにある、というのは筆者の単なる思い込みに過ぎないのでしょうか?
もちろん輸入する食材の価格は、原産地のインフレ率の変化だけでその全てを語ることができるものではありません。為替の変動や海外からの輸入コスト、国内の輸送コストなども関わってきます。それに何と言っても、皆さまの食卓に彩りを提供している外食チェーンの、血のにじむような企業努力も忘れてはなりませんね。
外食チェーンの美味しい牛丼や豚丼を食べ続けるためにも
ところで、もし万が一にでも、先述の筆者の思い込みに過ぎないこと、つまり2%を超える物価上昇が現実化したとしましょう。そんな時に「投資がお嫌いな人たち」が大好きな銀行の定期預金の利率は、果たして何パーセントを示しているのでしょうか? 例えば、表に示した「豚肉」を輸入しているハンガリーのインフレ率くらいの利率の定期預金だったらうれしいですよね? 預金の額面はおおいに増えますものね。(輸入しているのは豚肉でも、書いているのは皮肉ですよ)。
豚丼の材料である豚肉を基準に考えると、ハンガリーのインフレ率くらいの利率の定期預金で、ようやく「現金の実質的な価値の現状維持ができる」ということになります。高い利率で現金の額面の価値がおおいに増えたとしても、実質的な価値はプラスマイナスゼロに過ぎないということです。
それでも事実として、私たちは「今の生活」を維持するために、現金の「実質的な価値」を増やしていくか、少なくともプラスマイナスゼロにすることを考えなくてはなりません。
どうやって、現金の実質的な価値を増やしていくのか?
その問いに対する答えが「投資」になると思います。
では、その投資を、どのように行えばよいのでしょうか?
投資というと、どうしても「お金が減ってしまうかもしれない」「損をするかもしれない」という心配がつきまとうものです。本当に、投資でお金の価値を増やしていけるのでしょうか?
その問いに対するヒントを、今後の連載でお伝えしていきたいと思います。
次回以降、投資に対する基本的なスタンスについて考えていくこととしましょう。
(次回は11月4日(月)の公開を予定しています)