テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第138回は、『慎吾ママ』や『シナぷしゅ』『サラメシ』など数々の人気番組を世の中に送り出した、放送作家のたむらようこさん。

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いつか娘のお弁当を作れるように

たむらようこ
たむらようこ
放送作家
日本放送作家協会会員

みなさんの昨日の夕食はいくらでしたか?
総務省のデータによると1世帯(平均2.35人)の食費は1ヶ月に47,810円だそうです(全て自炊の場合)。 30日間×3食食べると仮定すると1食あたり350円あまり。マクドナルドの月見バーガーが450円ですから「平均」で考えると、月見は完全なる予算オーバー。飲み物は水で我慢するハメになります。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

ふだん番組の予算のことならプロデューサーが考えてくれます。私たち放送作家は逆に予算など知らないフリをして枠に捉われないぶっ飛んだアイデアを出すのが仕事。ところが、常に頭の中で計算機も動かしながら作る番組もあるんです。それは料理番組!

2022年4月から『DAIGOも台所』という料理番組を始めました(月〜金13:30〜ABCテレビ/テレビ朝日系全国放送)。タレントでミュージシャンのDAIGOさんが「いつか娘のお弁当を作れるようになるため」イチから料理を始めた、という挑戦もの。これが開始早々から続々とトレンド入りの大人気に!

『DAIGOも台所』のDAIGOさんの写真『DAIGOも台所』では牛肉はあまり使わない

その理由は……DAIGOさんの料理が下手すぎたから!! まずは包丁、……など持てるはずもなく、やっとのことで握ったのが皮剥き器(ピーラー)。このピーラーを、生まれたての子鹿のようにプルプルと手を震わせながらジャガイモに当て「ショリっ」とむいた皮は……わずか1センチ。これまで料理番組といえば、有名レストランのシェフや料理研究家などのプロが教えてくれる豪快料理か、俺のかっこいい料理の腕を見てくれと言わんばかりの料理好き男性タレントの料理自慢が主流でしたが「料理できない人がMC」という前代未聞のスタート。

いやスタッフもですね、「DAIGOは料理できませんよ」とマネージャーさんから聞いてました。聞いてはいましたけどまさかここまでとは……!!

でもその後、DAIGOさんは辻調理師専門学校の先生や、人気料理エッセイストの山本ゆり先生に習いながらグングン成長。今では家でもしっかり戦力になっているようで、よく「ハッシュドブロッコリー」などのハッシュドシリーズを作っている様子です。先日、番組で習った厚焼き卵を家で作って写真を送ってくれた時はプロデューサーがうっかり「おいしそうなフレンチトーストですね」とリプを送ってしまいましたがね。

視聴者 もちよしさん提供『DAIGOも台所』の視聴者、もちよしさん提供

顔を想像しながら計画を立てる

そうそう、忘れないうちにお金の話を! 料理番組を作る時、いつも頭の片隅に置いておかなければならないのが「ご家庭の予算」です。『DAIGOも台所』の場合、牛肉はあまり使いません。牛肉を中心に据えたメニューを紹介すると「見守り隊」と呼ばれる視聴者のみなさんから「牛肉買えない」「牛は高いから今日のレシピはパス」などのシビアなお声がSNSに飛んできます。普段から良い関係でやりとしていている視聴者さんたちなのでSNSのコメントもクレームではなく、リアルな意見を伝えてくれていると感じます(伝え方も穏やかで優しい)。

スーパーには牛肉売り場も相応の面積ありますが、みんながみんなホイホイ買えるわけでもありません。卵の値上がり、野菜の高騰、バターの品薄など状況を見て本当に台所でお役に立つメニューを出していきたいと心から思うのです。

1年全体を通して「ここは食費を張り込むシーズン」、「ここは帰省で使い果たしちゃってるから節約料理ウィークに」などと、見てくれる人の顔を想像しながら計画を立てるのも楽しいものです。例えば安いものだと四人前380円で簡単に出来ちゃう「豚肉のじゃが焼き」などもお勧めですよ。番組で紹介したレシピはすべて見ることができるのでみなさんも参考にしてみてくださいね! 料理本、何十冊分の価値があるとお約束します。

次回もたむらようこさんが登場!ご期待ください!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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