テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第150回は、多数の人気番組の企画・構成・演出を手がけるほか、エッセイ・小説や漫画原作、映画・ドラマの脚本の執筆、ラジオパーソナリティなど多岐にわたり活躍する鈴木おさむさん。
ギャラは僕らの“評価”
放送作家のギャラについて思うこと。今、テレビの制作費は90年代に比べると、かなり下がっているという現実。
そうなると、カットの対象となってくるのは、放送作家だろう。作家の数を減らしたり、作家のギャラを安くしたり。
色々聞いてると、とても安いギャランティーで引き受けている作家さんも結構いる。結構なキャリアの人が1本1万円でやっているなんて話も聞く。
僕はこの世界に19歳で入って、半年間、局から出るギャラは0円。そのあと、1万円、3万円と上がっていく。
正直、0円だろうと良かった。目の前の大人たちに認められたくて、おもしろいと思われたいという目標があったから。だから頑張れた。
僕は32年間やってきて、「ギャラなんていくらでもいいですよ!おもしろければ!」と言っていたいと思ってずっとやてきた。
だけど、結果、ギャラは僕らの“評価”である。気になってしまうのが人。
未来を見せてくれたら……。
以前、若い頃からやってきたプロデューサーとフジテレビの深夜番組をやったときに、「ごめん。おさむくん、本当にお金がなくて。1万円でいいかな?」と言われたことがあった。それでも全然良かった。その人との関係性があるし、その人は僕の仕事を広げてくれた人だったから。
そして「この番組、ヒットさせたら、何十倍にしますから」と笑って言った。その番組は半年で終わったが(笑)。
だけど、そのときの一言が嬉しかった。やる気になれたし、絶対当ててやると思えた。
安いギャラでも、そこに一言もらえたら全然違ったりするんですよね。「すいません、予算が低くて」だけではなく、「将来的に絶対恩返ししますんで」とか言われたりしたら、結果どうであれ、それを言われたことに対して、頑張ろうと思える。
嘘でもいいから未来を見せてくれたら人って頑張れるんですよね。
2024年3月31日に放送作家を辞めるからこそ、こんなことを言っておきたいと思って書きました。
そして最後に。僕をこの世界に入れてくれた師匠の前田昇平さん。天国に旅立ちましたが、最初に前田さんがラジオ局に連れて行ってくれて僕に与えてくれたたラジオ。局からは0円だったけど、1年間、毎月、前田さんが3万円僕にくれたこと、ずっと覚えています。
あの3万円が自分のモチベーションになりました。本当に感謝しています。
次回は沢口義明さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。