日本の中央銀行である日本銀行(日銀)の黒田総裁の発言は、常に大きな注目が集まります。しかし、日銀がどのような役割を果たしているか、よく分かっていない方も多いかもしれません。日銀の動向によって世の中の金利や株価、為替は大きく影響を受けます。そのため、日銀の動向と金融市場の関係を理解することは投資家にとって必須といえます。今回は、日銀の役割や今後の注目ポイントについて解説します。

  • 日銀の役割の中でも昨今、特に注目されているのが金融政策の運営
  • 金融緩和の継続が足元の円安・物価上昇の原因のひとつ
  • 黒田総裁は2023年4月に退任。その後の金融政策の方針に注目

日銀の役割・目的はなに?

まずは日銀が普段どのような役割を果たしているのか、これまでにどんなことをやってきたかを紹介します。
日銀の主な業務は、以下の3つです。

  1. 日本銀行券(お札)を発行 ※貨幣は政府が発行
  2. “銀行のための銀行”・“政府のための銀行”としての当座預金の振替や資金決済
  3. 物価の安定と金融システム安定を目的とした金融政策の運営

昨今、特に注目されているのが、金融政策の運営です。まずは日銀が金融政策の運営において近年、どのようなことを行ってきたのか確認しておきましょう。

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日銀がやっていること、やってきたこと

日銀による金融政策の目的のひとつに「物価の安定」があります。物価の安定は国民生活の基本です。物価が高すぎても低すぎても、私たちの生活に悪影響が出ます。

日本は過去20年以上にわたり、物価が下落するデフレに苦しみました。デフレが長引くと、企業の業績が上がらず、従業員の給料も上がらず不景気になり、さらに物価が下がり、どんどん経済が縮小していく悪循環に陥りやすくなります。

そこで日銀は、2013年1月に消費者物価の前年比上昇率2%というインフレ目標を定め、マイナス金利政策の導入など大規模な金融緩和を行ってきました。それでも物価はなかなか上昇せず、デフレから本格的に脱却することはできませんでした。

デフレのイメージ
デフレは物価が上昇せず、経済全体がしぼんでいくこと

一方、コロナ後の需要回復に加え、ウクライナ情勢緊迫化により資源国であるロシアからの供給が途絶えたことで、世界的にインフレが急進しています。先ほど説明した通り、物価が高くなりすぎても経済に悪影響が出るので、米国をはじめ世界の主要国が、急激なインフレを抑制するためにコロナ禍からの回復局面で引き下げていた金利を復活させました。特に米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備理事会)は、史上まれに見るほどの速度で利上げを進めている状況です。

世界中の中央銀行が利上げする一方で、日銀は依然として金融緩和を継続し、利上げに踏み切っていません。

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足元のインフレは日銀の狙いだったのか?

日銀は2013年からインフレターゲットを設定し、物価上昇率2%という緩やかなインフレを目指してきました。経済を緩やかなインフレ状態にすることで、企業の業績が回復し、賃金も上昇していく、と目論んだのです。

2022年に入り、他国に比べてペースは遅いものの、日本でも物価上昇が起こっています。2022年10月に総務省が発表した9月の消費者物価指数は、前年同月比+3%、前月比でも0.4%上昇しました。数値だけで見れば、日銀がインフレ目標に掲げた物価上昇率2%を超えたわけです。

もし、万が一にでも日本銀行の目標「2%の物価上昇」が実現したら……

しかし日銀の目標は、あくまでも賃金上昇を伴う物価上昇です。足元のインフレは、32年ぶりとなる1ドル=150円台の円安や、資源価格の高騰などがもたらしており、今のところ経済活動そのものが拡大しているわけではありませんし、賃金の上昇も伴っていません。そう考えると、今のインフレは日銀の目指す状況とはいえないでしょう。

インフレのイメージ
足元で日銀のインフレ目標だった物価上昇率2%は超えたけれど……

長引きそうなインフレから大切な資産を守るには

インフレの原因は「コロナ」「ウクライナ危機」「金融緩和」

現在の世界的なインフレの要因は、大きく分けて3つあるといわれています。

1つ目がコロナからの回復局面にあることです。2020年2月に世界中で新型コロナウイルス感染症が流行したことで、世界経済がストップし、原油などの資源価格は急落しました。その後、ワクチンの普及や致死率の低下によって世界的に日常が取り戻されつつある中、コロナ禍の反動で資源の需要は再び高まりました。

資源高に拍車をかけたのが、2つ目の要因であるウクライナ危機です。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻を始めたことで、世界各国はロシアとの貿易を控えるようになりました。ロシアは天然ガスをはじめとする資源を世界中に供給する資源国であるため、ロシアからの資源の供給が絞られたことが、資源価格がさらに高まる要因となっています。

3つ目の要因は、米国や日本などの主要国の大規模な金融緩和です。コロナショックで経済がダメージを受けたため、先進各国の中央銀行は2020年春以降、マイナス金利の導入や国債の買い入れなど、大規模な金融緩和を行いました。金融緩和は経済を刺激し、物価を上昇させる効力を持ちます。

金融緩和のイメージ
コロナショックからの回復のため、世界各国は大規模な金融緩和を行った

現在、アメリカや欧州の中央銀行は、物価上昇を抑えるために金融引き締めに転じていますが、日銀はまだ政策金利を低く据え置くなど、緩和的な政策を続けています。先進国の中で日本だけが金融緩和を続けていることで、日米の金利差が広がり、円安ドル高の要因となっている状況です。

今後も金利は上がらないという前提の投資を

注目は来年4月の日銀総裁の交代

現状の日銀総裁は、黒田東彦氏が務めています。2013年から2期10年を務め、2023年4月に任期満了で退任予定です。

総裁の交代によって、金融政策が突然変更されることはないといわれています。しかし、黒田総裁は「黒田バズーカ」とも言われる、過去に例がなかった“異次元の金融緩和”を実施した人物です。今後、総裁の交代によって、日本株の急上昇につながるような大胆な政策がなされなくなる可能性は十分考えられます。

投資家にとって金融政策は非常に重要です。今後も日銀の金融政策には注目しておきましょう。

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