現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第65回は、「SAR衛星」と呼ばれる、夜間や天候不良時も撮影可能な軽量・低コストの人工衛星を開発する九州発のベンチャー企業、QPS研究所(5595)をご紹介します。

  • QPS研究所は九州大学で始まった小型衛星開発の技術を基礎として2005年設立
  • 24時間撮影が可能なSAR衛星の小型化・低コスト化を地道な研究開発により実現
  • 第3四半期は営業利益が初の黒字。2024年5月期は純利益の黒字転換を見込む

QPS研究所(5595)はどんな会社?

QPS研究所は、東証グロース市場に上場する宇宙ベンチャーです。

小型のSAR(合成開口レーダー)人工衛星の開発、運用や衛星で取得した画像データの販売を手がけています。従来の光学カメラの人工衛星は、小型で低コストというメリットがありましたが、画像を撮影できるのが昼間かつ晴天時に限られていました。一方、マイクロ波によるレーダー照射で撮影するSAR衛星は、24時間撮影が可能です。ただ、大量の電力を消費するため大型の機体が必要となり、打ち上げコストも高いのが難点でした。QPS研究所は地道な研究開発により、小型で低コストなSAR衛星を実現し商用化しました。

新しいNISAの“裏技”教えます! ニッセイアセットマネジメントの情報発信&資産運用アプリ

SAR衛星による観測データは、我々の生活の様々な場面で役に立ちます。例えば自動車や船舶の位置の把握や都市開発、安全保障にも用いられます。また、災害発生時に建物などの被害状況を即座に把握したり、大型インフラの経年劣化の検知などへの活用も期待されています。元日に発生した能登半島地震に際しても、土砂破壊などの被災地画像を行政機関などに提供しました。

衛星画像
人工衛星による観測データは、震災の際には立ち入りが困難な被災地の状況の把握にも使われる

同社は、1995年に九州大学で始められた小型衛星開発の技術を基礎として、2005年に九州大学名誉教授の八坂哲雄氏、桜井晃氏、三菱重工のロケット開発者の舩越国弘氏によって設立されました。現在の大西俊輔代表取締役CEOは九州大学大学院出身で、創業者の八坂氏の研究室の卒業生です。副社長COOの市來敏光氏はソニー出身でハーバード大学経営大学院、産業革新機構などを経て入社した経歴を持っています。技術力と経営力に特化した二人の経営トップのもと、レーダー衛星ビジネスの成長に向けた事業展開を進めています。

社名「QPS」のQは「九州」、Pは「パイオニア(開拓者)」、Sは「スペース(宇宙)」にちなんでいます。
 

参入障壁の高い小型SAR衛星市場

従来の光学人工衛星に比べて、小型SAR衛星はコストや技術力を必要とする分参入障壁が高くなっています。

現状SAR衛星事業を手がける企業は、世界でも5社に限られています。しかしその成長性は高く、2027~28年にかけて市場規模は全世界で1兆円まで成長するとみられています。

SAR衛星は小型化のため、打ち上げ成功後に宇宙空間でパラボラアンテナを展開します。九州の地元企業の高い技術力のもと開発された板バネと精密な縫製技術により、大口径なのに軽量という展開アンテナは、QPS研究所の強みの一つとなっています。

QPS研究所(5595)の業績や株価は?

QPS研究所は4月12日に、今期2024年5月期の業績予想を上方修正しました。売上高は前期比4.4倍の16億4000万円、純利益は1億4000万円の黒字転換を見込んでいます。すでに商用として安定稼働しているQPS-SAR5、6号機の稼働により、画像データ販売が伸びました。

同時に発表した2023年6月~2024年2月期(第3四半期)は、売上高が10億2200万円、営業利益が2億9000万円の黒字となり、売上高は創業以来初めて10億円を突破。純利益は800万円の赤字でしたが、営業利益は初の黒字となりました。

【図表】QPS研究所の株価(日足、2023年12月~直近)
【図表】QPS研究所の株価(日足、2023年12月~直近)

4月19日の終値は3630円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約37万円、成長投資を優先し配当は現状では無配となっています。

同社は2023年12月に公開価格390円で新規株式公開(IPO)で上場したばかりのベンチャーです。宇宙関連銘柄として投資家の期待も高く、初値は860円と、公開価格の2.2倍となる良好な滑り出しでした。その後も大口の受注や黒字化に向けた進捗などを材料に、株価は上昇基調が続いています。

現状は2機のSAR衛星を運用しており、今期中に打ち上げられた3機と合わせて来期2025年5月期末までに5機を打ち上げる予定です。最終的には、世界全体を24時間カバーできる、36機による衛星コンステレーション(衛星群を一体化したシステム) の構築を目指しています。そのための打ち上げ資金などは、26年5月期末分まで銀行からの借り入れや株式発行ですでに調達を終えており、黒字化や事業拡大に向け株価の上昇を期待しています。

宇宙事業に挑むスカパーJSATホールディングス

メルマガ会員募集中

ESG特集