「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も「50歳以上の方のためのNISA」をテーマに、SDGsに代表される社会貢献と、株式投資の収益との関係について考えます。
- SDGsへの貢献を本業としながら、株価が低迷している企業がある
- ベンチャー企業が活発なイメージの、米国のSDGs企業も苦戦している
- 株式投資のリターンとSDGs・社会貢献の両立は難しいのかもしれない
- 3月10日(日)セミナー開催します。(東京都内にて開催)
セミナーの詳細はこちらから - 2月21日にもセミナーを開催しました。ご参加いただき、ありがとうございました。
セミナー実施報告
40歳までの若年層と違って、50歳代の大人になると「NISAを活用して、お金を増やしたい」というお気持ちだけではないと思います。「投資を通じて、社会貢献ができないか」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
社会貢献とは、社会的な課題を解決すること。そして、国境を超えた社会的な課題といえば、その代表がSDGs(持続可能な開発目標)ですね。
SDGsをビジネスの本業に……時期尚早?
「時期尚早」ということだったのでしょうか? 「食用コオロギの企業」が創業から、わずか3年で経営破綻になってしまいました。コオロギを含む昆虫食は、2013年に、国連食糧農業機関が食糧危機の解決に寄与するとして推奨しました。また同じく国連のSDGsの目標にもかなっています。そして日本も食料自給率が38%にとどまるという課題を抱えています。
食用コオロギ手がけるクリケットファーム、破産手続き開始決定 負債額は関連2社と合計で2億4290万円(信濃毎日新聞)
世界と日本の、それぞれの社会的な課題の解決につながるはずの食用コオロギですが、残念な結果となってしまいました。
本稿では、食用コオロギの会社が倒産に至った理由ではなく、社会的な課題を解決する、いわば「SDGsへの貢献をビジネスの本業に据えている企業(=以下、SDGs企業)」への投資を考えてみたいと思います。
日本のSDGs企業は?
図表1は、株式会社ユーグレナの直近1年間の株価チャートです。日経平均上昇相場とは逆に、見事に下がり続けているのが分かります。また、図表2は同じくユーグレナ社の1株当たり利益の推移です。ずっとマイナスのままなのが分かります。
決算期 | 1株当たり利益 |
---|---|
2021/12 | ▲49.07円 |
2022/12 | ▲23.83円 |
2023/12 | ▲22.76円 |
以下は筆者の推測です。ユーグレナ社の「ビジネスの将来性」や、「SDGsへの貢献」に期待して投資した株主が多かったのだと思います。しかし、日経平均が順調に上がり続けているのを見て、ユーグレナ社の株式を売却して、他の日本の企業に投資をした……だから、ユーグレナ社の株価が下がり続けているのだと思います。
さて、ユーグレナ社のビジネスを垣間見ることにしましょう。ユーグレナをご存知の方も多いと思います。ユーグレナは「ミドリムシ」の学名です。「ミドリムシ」と聞くと、微妙なものを感じますが、ユーグレナと聞けば響きが良いですね。
ユーグレナは化粧品や健康食品などのヘルスケアに活かされています。ユーグレナ社もヘルスケア事業が主力です。最近では、ミドリムシを活用したバイオディーゼル燃料やバイオジェット燃料の開発も進められています。コロナ禍の2021年にはバイオジェット燃料による飛行に成功しています。ユーグレナ社は自然由来の素材を活かしたヘルスケアや代替燃料の開発を行う、まさにSDGs企業です。
ちなみに、ユーグレナ社の代表は、創業者でもある出雲充氏です。出雲充氏は筆者よりも一回りほど若く、孔子の「論語」を経営の支えにしているそうです。「論語」を経営の支えにした歴史上の人物と言えば、そうです、渋沢栄一ですね。渋沢栄一は「公益の追求」を第一に掲げた人物です。「公益」を今ドキの言葉で表現すれば「SDGs」ではないでしょうか?
SDGs企業……アメリカなら上手くいく?
先ほどご紹介した株式会社ユーグレナは若き創業者によるビジネスです。ベンチャー企業とも言えるでしょう。ところでベンチャー企業といえば、その本場はアメリカ。日本はアメリカに比べると、「ベンチャー企業が育つ環境にない」と言われていますね。では、SDGsのベンチャー企業は、アメリカなら上手くいくのでしょうか?
図表3は、アメリカのビヨンド・ミートの上場(2019年5月)以来のチャートです。IPO(新規上場)価格25ドルに対し、初値46ドルを付けて、まさに鳴り物入りでスタートしました。そして、200ドルを超えることがあった株価も、直近では9.83ドルです(2024年2月28日終値)。株式分割などは行っていないようです。日本と同じくアメリカの株価も順調なのですが、ビヨンド・ミートの株価は低迷を続けています。
ところでビヨンド・ミートのビジネスですが、その名の通り、お肉の会社です。が、植物由来の代替肉です。お肉と言えば、牛肉を好まれる方も多いと思いますが、牛は反芻する際にゲップをして二酸化炭素を排出し、地球温暖化に貢献してしまいます。牛肉は、実はSDGsとは反対なのですね。そこで、代替肉によってCO2削減に貢献しようというものです。またビーガンの方やハラル食、そして持病のある方や入院患者への対応など、多様なニーズに応えようというスタンスでもあります。
ビヨンド・ミートのビジネスは、まさにSDGsに応える、時代が必要とするもののはずなのですが、株価はここのところ、ずっと低迷し続けています。
さて、日本はアメリカに比べると、「ベンチャービジネスが育つ環境にない」と言われていますが、アメリカもいかがでしょうか? ビヨンドミートの株価を見る限り、「アメリカの方がベンチャービジネスが育つ環境にある」とは言い切れないと思います。
なお、ビヨンド・ミートの商品は、2022年秋に関東1都6県のマルエツ、カスミ、マックスバリュで取扱いを始めたという噂もあったようですが、その後、どうなったかは定かではありません。
「SDGsの押し付けみたいな」
さてミドリムシも代替肉も、どちらも時代の要請に応えたビジネスのはずなのですが、株価についてはご覧いただいた通りです。
特にビヨンド・ミートは2022年12月時点で、自己資本比率がマイナスになっています。ビヨンド・ミートは投資を考えるよりも、お肉の試食を検討した方が良さそうです。(もちろん、試食も自己責任でなさって下さい。特に食べ物ですから)。
ではユーグレナの方はいかがでしょうか? 若き創業社長が率いる会社という点でも、可能性はあるかもしれません。が、いずれにしても、ご自身で理解と納得の上で投資していただききたいと思います。
冒頭で述べた食用コオロギ企業の破綻ですが、若い女性が「SDGsを押し付けているだけの印象がある」と語っていたのが、まさに印象的でした。少なくとも、今の20歳代は学校教育でSDGsを学んでいるはずです。時代の要請に応えていても、社会の評価にもつながらず、それが上場企業なら株価にも現れている、ということなのでしょう。
50歳代に入った私たちは、将来のために、資産形成に真剣に向き合わなくてはなりません。しかし、同時に「社会貢献にも役立てたい」と思うこともあろうかと思います。しかし、リターンを得ることと社会貢献の両立は……本稿を読む限りでは、難しいのかもしれません。
次回は「SDGsも分散投資なら実現する?」というテーマでお届けしたいと思います。