日本の「実質賃金」が大きく下がったことがニュースになりました。物価が上がるということは、お金の価値が下がるということ。インフレから資産を守るためには預貯金だけでは不十分で、投資を考えることが重要になります。というわけで今回は、実質賃金と株価の関係について調べてみました。

  • 日本の実質賃金は1996年と比べて15%ほど下落しており、先進国では例外的
  • 2013年以降の「アベノミクス相場」では実質賃金が下がり、株価は上昇した
  • 2021年は実質賃金も株価も上昇傾向だったが、2022年はいずれも下落

給料の伸びが物価の上昇に追いついていない

3月7日に厚生労働省が発表した、2023年1月の「毎月勤労統計調査」(速報値)によると、1月の実質賃金は前年比で4.1%減少したということです。

実質賃金とは、労働者が実際に受け取った賃金(名目賃金)から、物価変動の影響を除いたもののことです。たとえば、会社員や公務員が受け取る給料が、去年3月の50万円から今年3月は51万円に上がったとしたら、名目賃金は前年比で2%上がったことになります。しかし、この1年間で世の中の物価も同じく2%上がっていたとしたら、実質賃金の上昇率は差し引き0%ということになります。これが実質賃金の考え方です。

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ご存知のとおり、日本では昨年から物価が上がり始めています。食料品や電気代など、ありとあらゆるものが値上げされていますが、実質賃金が減少したということは、給料の伸びが物価の上昇に追いついていないということです。

日本の実質賃金は、1996年をピークに下がり続けています(図表1)。2022年の実質賃金も前年より下がってしまい、2022年の実質賃金指数は、1996年と比べて15%ほど低い値になってしまいました。単純に考えるなら、私たち日本人はこの26年で15%も貧しくなった、ということになります。

【図表1】日本の実質賃金指数の推移(年次)
【図表1】日本の実質賃金指数の推移(年次)
※実質賃金指数は現金給与総額、事業所規模5人以上。2020年を100として指数化
出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査

ちなみに、アメリカやイギリス、ドイツなどほかの先進国では、同じ時期に実質賃金が2割以上伸びています。21世紀になって実質賃金が下がり続けているのは、先進国では日本だけです。投資でお金を増やして将来に備えることが重要だと実感させられる数字です。

2013年以降は実質賃金が下がり、株価は上昇

ここからは、実質賃金指数の変化と日経平均株価の変化を比較してみます。まずは、毎月の実質賃金指数の変化率(前年同月比)と、同じく日経平均株価の変化率(前年同月比)を、過去20年間で重ね合わせてみました(図表2)。

【図表2】実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比の比較(2003年~)
実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比の比較(2003年~)
※実質賃金指数は現金給与総額、事業所規模5人以上
出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査

図のピンク色の枠で示したところは、実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比が似たような傾向を示している時期です。2008年前後なので、リーマン・ショックが起きた頃ですね。当時は実質賃金も日経平均も下落し、2010年初頭にはその反動でともに上昇しました。

水色の枠は、実質賃金指数と日経平均がおおむね反対の動きになっているところです。2013年以降の、いわゆるアベノミクス相場の時期です。株価が上がって実質賃金は下がるという、サラリーマンにとってはなんとも複雑な経済状況でした。

素直に考えるなら、日本人の実質賃金が下がる→消費が冷え込む→企業の利益が減る→株価が下がる、となりそうなものですが、当時の日本はそうではありませんでした。庶民の賃金は実質的に減り、株価は上がりました。

【図表3】実質賃金指数と日経平均株価の推移(2003年~)
実質賃金指数と日経平均株価の推移(2003年~)
※実質賃金指数は現金給与総額、事業所規模5人以上。2020年を100として指数化
出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査

指数と株価の推移を見ると、実質賃金と株価の関係がよくわかります(図表3)。図のピンる色の部分を見ると、2008年以降、日経平均株価はリーマン・ショックの影響で落ち込みましたが、このときは株価といっしょに賃金も下がったことがわかります。

株価が上向き始めたのは、図の水色で示したように2013年の安倍政権が発足したあとですが、同じ時期に実質賃金指数の低下も始まりました。2014年後半以降は賃金がほぼ横ばいになりましたが、株価だけは上がっていきました。

2022年は実質賃金も株価も下落。2023年は……

続いて、過去5年の実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比を比べてみましょう(図表4)。

【図表4】実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比の比較(2018年~)
実質賃金指数と日経平均株価の前年同月比の比較(2018年~)
※実質賃金指数は現金給与総額、事業所規模5人以上
出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査

2019年以降では、実質賃金指数と日経平均株価の前月比がいずれもマイナス、もしくはいずれもプラスになるという時期が増えました。2021年は新型コロナウイルスの影響が残る中でしたが、米国株式が絶好調で、国内株式も賃金もそれに引っ張られた形でしょうか。

しかし、2022年に入るとロシアによるウクライナへの侵略をきっかけにエネルギー価格が上がり、アメリカでは急激な物価上昇(インフレ)が発生しました。インフレの波は日本にもやってきて、実質賃金が急落する原因になりました。

実質賃金指数は2022年末にかけて急落し、先に述べたように1月に入って一段と低下しました(図表5)。一方、日経平均株価は下落してはいるものの、その下げ幅は小さなものでした。

【図表5】実質賃金指数と日経平均株価の推移(2018年~)
実質賃金指数と日経平均株価の推移(2018年~)
※実質賃金指数は現金給与総額、事業所規模5人以上。2020年を100として指数化
出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査

こちらの図には2023年1月の数値は含まれていませんが、1月には日経平均は上昇しました。3月に入って一段と上昇するなど、株価は好調です。もしかしたら今年は「実質賃金は下落または横ばい、株価は上昇」という、2013年と同じような状況になるのでしょうか。

実質賃金と株価の関係とは?

実質賃金指数と日経平均株価の推移を並べて比較してみたところ、2つの指数が逆方向に動く期間の方が長かったことは、もしかしたら「実質賃金が下がる=物価が上がる=お金の価値が下がる=相対的に株式などの資産価値が上がる」ということで、「インフレに強い資産は株」という教科書的な話につながるのかもしれません。

とはいえ、株価はさまざまな要因で変動するものです。中でも米国株式市場と為替相場の影響は大きく、2023年の日経平均株価はほぼドル/円の為替と連動して動いているように見えます。実質賃金や物価上昇率も経済にとっては重要な要素ですが、あくまで参考指標のひとつにとどめた方がいいでしょう。

いずれにしても、実質賃金が上がりにくい今の日本においては、投資によってインフレから資産を守り、実質的な資産価値を上げていく試みが大切だといえそうです。

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