日本には、バリバリ働く女性を「男勝りだ」と揶揄したり、料理ができない女性を「女子力が低い」と評価するような空気があります。女性だけじゃなく、男性には「食事代は男性が全額奢るべき」など、昔の日本社会で共有されていたような「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」といった考え方が未だに残り続けています。「性別に関わりなくもっと自由な生き方をしたい」と感じている人は少なく無いはずです。今回、「女性らしく」いることができなかった人に向けたエッセイ『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)の著者であり、2020年2月11日に新刊『孤独も板につきまして』(大和出版)を上梓する予定のあたそさんと、日本のちぐはぐなジェンダー観について考えます(聞き手・文=グータッチ)

『孤独も板につきまして』

『孤独も板につきまして』
(2020年2月11日発売予定)
著者:あたそ
出版社:大和出版

ひとりが好きだ。食事だって映画だって旅行だって、どこへだって行ける。心から「好き」と思える瞬間はたくさんあるのに、ふと「このままでいいのだろうか?」と迷いが起こる瞬間もある。でも、自分の力で立っていたい。好きなことを思いっきり楽しみたい。心からひとりを愛し、強く生きていくためのエッセイ。

あたそ

あたそ
神奈川県横浜市出身。普段は会社員として働く傍ら、たまにインターネット上であれこれ文章を書いたりトークイベントを開いたりしている。好きな飲みものは酒。自分の思ったこと感じたことをきちんと文章で表現してくことと、健康が当面の目標。最近、自分のことを「ブス」というのを辞めた。2020年2月11日に『孤独も板につきまして』(大和出版)を出版。2018年に『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)がある。twitter:@ataso00

「○○的だ」とか「○○らしい」と決めつけたがる人達

日常生活の中で、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という空気を感じることがあるかと思います。

あたそさん たくさんありますね。例えば、私は毎日会社にお弁当を作って持っていくのですが、それを見た男性社員から、よく「女子力高いね」といった言葉を掛けられます。これにムッとしてしまうことがありますね。その他にも、甘いモノを食べているだけで「女の子だね」なんて言われることがあるのですが、男性の中にも甘いモノ食べる人はたくさんいるじゃないかと……。私からすれば、普通のことをしているつもりが、なぜか「女子力」だったり、「女性らしさ」に結び付けられてしまうことが多々ありますね。こうした発言って、まさに「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という固定観念を持った人がたくさんいるから出てくることなのかなと思ってしまいます。

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確かにそうですね。他に違和感を覚えたエピソードってありますか?

あたそさん まだまだありますよ(笑)。昔ドライブの計画を立てていた男性社員二人から、「男二人だけじゃ華やかさに欠けるから、(あたそも)一緒に行かない?」と誘われたことがあるのですが、なんだか「華やかさを演出するための女性」という役割を押し付けられているような、単に「男性を喜ばせる女性枠」としてキャスティングされているような、そんな感じがして……少しだけ嫌な気持ちになりました。

他にも、男性社員中心で進められているプロジェクトなどに、女性社員が「華やかさを出すための存在」として呼ばれることがあるかと思います。例えば「男ばっかりで、華やかさに欠けるから女性社員でも参加させてみよう」なんて感じで……。女性社員からすれば、「仕事の能力を評価してくれたから、プロジェクトに呼んでくれたんじゃないんですかっ?」と言いたくなるような、そういった場面ってあるかと思います。

このように、私の「女性」としてのアイデンティティだけが切り取られて、私自身に備わる個性の部分が無視されてしまうことが時々あります。

トラリピインタビュー

あたそさんには、いろんな側面があるにも関わらず、女性としてしか扱われないのって、なんだか「女性として、女性らしく生きろ」と押し付けられているような感じもしてしまいますね。

あたそさん そうなんです。性格診断や血液型占いが人気なことからも分かりますが、人って、人の特徴を分類したり単純化したりして「○○的だ」とか「○○らしい」と決めつけたがる部分があると思うんです。「男だから大雑把、女だからおしとやか」とか、「A型だから几帳面、B型だからマイペース」というように……でも、人って、そんな簡単に分類できたり単純化できたりするような存在じゃないと思います。人を構成しているいろんな側面に目を向けられる人が増えれば、もっと生きやすい社会になっていくように感じます。

なぜ、お茶出しは女性の仕事なのか?

あたそさん 昔、勤めていた昭和的な文化が残る会社には「女性はこうあるべき」という考え方がそのまま仕事の内容に反映されていました。

例えば、その会社には「お客さんへのお茶出しは女性社員がやる」だったり「社内のトイレ掃除は女性社員がやる」というルールが存在しました。そもそも、性別によって仕事内容が決められていることに違和感を覚えますが、それでもその会社には、「お茶出し」と「トイレ掃除」は女性がやるべき仕事という考え方があったのです。

その会社だけでなく、多くの日本企業でも「お茶出し=女性の仕事」とされているため、これには違和感を覚えつつ目をつぶるとしても、トイレ掃除に関して男女に差があるのは納得ができませんでした。なにせ、掃除をするために女性社員だけ始業時間より早く出社したりしていましたから。当時、その状況を改善してもらうため、「なぜ、女性社員だけが掃除をしなければいけないのですか」と先輩社員を問いただしたことがあります。先輩社員から返ってきたのは「女性が掃除をするという伝統だから」という言葉でした。“伝統だから”という理屈は、人を思考停止にさせるものなんだなと感じましたね。

世の中には、男女によって身だしなみに関する規定を設けている会社もありますよね。

あたそさん 確かに、スカートの丈とか、メガネの着用などに関する規定を男女によってわけている会社がありますよね。職種にもよりますが、同じ仕事内容なら、男女ごとに服装の規定を設けるのはおかしいですよね。

そもそも「女性らしさ」「男性らしさ」って何を指しているのかわかりませんし、「男性はこうあるべき」とか「女性はこうあるべき」といったことを意識しながら生きるのって、息苦しいですよね。性別に関係なく振る舞えた方が、みんなもっと自由に自分を表現できますし、その方が面白い社会になると思います。要するに、世間の「女性はこうあるべき=女子力高い」からはみ出た、「女子力が低い」生き方だってあるんです。

ちなみに、あたそさんは、「初対面の人と会う時は、一応女性らしくしておくか」みたいに考えることはないのですか?

あたそさん んん……最初だけ取り繕ったとしても、結局、自分のキャラクターは後々バレてしまいますよね。ありのままを見せて、相性が良いか悪いか早いうちにわかったほうが楽なんです。

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