自治体によってさまざまな返礼品がある「ふるさと納税」。1年間につき実質2000円の支払いで返礼品をもらえるというこの制度は今や多くの人々に利用され、すっかり定着した感があります。その一方で、自治体同士の競争が激化して返礼品が高額化し、総務省が警告を発するような事態にもなっています。
納税者にとっては「使わなければ損」な制度
そもそも、ふるさと納税とはどのような制度なのでしょうか?
総務省のホームページには、このような記述があります。
「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度です。
「納税」という言葉がついているふるさと納税。
実際には、都道府県、市区町村への「寄附」です。
一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されます。ですが、ふるさと納税では原則として自己負担額の2,000円を除いた全額が控除の対象となります。
つまり、今住んでいる自治体に納税する代わりに、別の自治体に寄付できるようにして、寄付金については税金を控除する、という制度です。
「返礼品」とは、寄付に対する自治体からのお礼の品のことです。返礼品はその土地の名産である食品や工芸品から、その土地とは関係ない品物までさまざまです。
納税者にとっては、2000円の支払いと、実質的に納税する自治体を変更するだけで返礼品を受け取れるため、現状では「使わないと損」といえるような制度となっています。
国全体の税収は返礼品の分だけ減る
一方で、返礼品競争の激化はひとつの大きな問題をはらんでいます。
人口の減少や地場産業の不調などにより、税収が減っている自治体にとっては、魅力的な返礼品を用意できれば税収増につながります。たとえ返礼品の価値が寄付額の5割を超えるほど高額であっても、何もしない場合に比べて税収が増えるという自治体は多いと思われます。
このような現状が自治体間の競争を生み、返礼品がどんどん豪華になっていったとしたら、納税者にとってはありがたいことです。裏を返せば、返礼品の価値が上がるほど、自治体に残るお金は減ります。
これを国全体で見ると、返礼品の分だけ全体の税収が減ってしまうことになってしまいます。
総務省が2018年9月に、過度な返礼品に関する注意勧告を行ったのは、このような事情があったからです。一方で税収減を懸念する自治体にとっては、ふるさと納税の返礼品は財源を獲得する有効な手段であり、今さらその手段を奪われたら困るという意識があるようです。
税金は社会基盤を維持するのに必要不可欠なものです。制度設計の不備によって税収が減ってしまうのは、好ましい状況とはいえません。
「好きな自治体に納税したい」というもともとの制度の目的を重視するのであれば、「過度な返礼品」の是非ではなく、返礼品の存在そのものの是非を見直してもいいのではないでしょうか。