テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!

連載第8回は、放送作家の大井洋一さん。

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会議でしゃべるの、難しくないですか?

大井洋一さんの写真大井洋一
放送作家、日本放送作家協会会員

「女性理事が多いと会議が長くなる」という発言がありましたけど、僕はそれを聞いて「会議でしゃべれるなんて、羨ましいなぁ」と思ったのです。

テレビ番組の会議に参加する人数は、番組の規模にもよりますが、少なかったら10人以下だったりするんですけど、多いと会議室を2重に取り囲むくらいの、対策本部かっつーぐらいの規模でやってたりします(それもこのご時世、無くなりましたが)。

番組の会議における放送作家の仕事は、宿題を出したりキャスティング案を上げたりと色々ありますが、その全ては「この番組を面白くするためのアイディアを出す」ということだと認識しています。

ただ「会議で意見を言う」っていうのは、勇気がいりますよねっていう話です。

相手との関係性だったり、規模だったりとしゃべりづらい要因っていうのはいくつもあるんですが、一番大きいのは、相手に「面白くないやつ」だと思われたくないというディフェンシブな意識だと思います。

「面白くないヤツ」と思われるぐらいなら、難しい顔をして押し黙っていたり、たまに歯の間から大きく息を吸ったり、首をかしげてみたり、とにかく寡黙に笑いをストイックに考えている(っぽい)ヤツでいたい。
これを「攻めの消極」と呼んでますが、とにかくバッドな評価を得るぐらいなら、押し黙るという選択をしているわけです。

考え中のイメージ画像「面白くないヤツ」と思われるぐらいなら、寡黙に笑いをストイックに考えている(っぽい)ヤツでいたい……。これを「攻めの消極」と呼ぶ

アイディアを小声でつぶやき、拾ってもらう

ただ、誤解してもらいたくないのは、しゃべってないからといってサボってるわけでもないんです。会議中、優秀な皆さんの意見がとんでもないスピードで飛び交い、ちょっと気を抜いていると「え、今何の話してんだっけ?」なんていうこともあります。

そんな中でも「お前のアイディアはつまらない!」と思われるのがツラくて、「うーん……」と考えながら「あ、こんなのはどうだろうか」と浮かんだアイディアも、「言いたい」「伝えたい」と思いながらも、発する勇気がわかず「でも、ちょっと違うかもな……」と、ゆっくりと消していくのです。

また「今、この人が話し終えて、ちょっと間があいたら話してみよう」と決意するものの、モタモタしてたら、会議自体が終わってしまったなんてこともあるんです。

座る位置も重要です。端っこの席から意見を言うには、結構な声量と絶妙なカットインが必要で。
進行している会議を乱さず意見を言う。これがなかなか難しい。

大人数で会議をしているイメージ会議では座る位置も重要。端の席から意見を言うには、カットインするスキルが問われる

時折、自分が考えていたことと同じようなことを他の人が言って「それいいですね!!」と評価されたりすると、「あぁ、先に言えば良かった!」と大後悔するわけです。

ただ、そんなことが何回もあると、「俺の感覚は間違ってなかったんだ」と、思い込むポジティブさも備わってきたりするのでたちが悪いです。

自分から「こういうのはどうですか?」と切り出すのが苦手でも小声でブツブツつぶやき、近くの人に拾ってもらう……というスキルを生み出したこともありました。

「ここのゲスト、誰がいいですかね」と議題をふられ考え出す一同。最初の方こそポンポンと名前が上がるものの、ビシッとした名前が出ずに「うーん……」と長考になることもあります。
そんな沈黙の中、このライン、あるのかもしれないなというアイディアを周囲に聞こえるか聞こえないかぐらいのボリュームでつぶやいてみる。

「長州……とか」

「僕はまだこのアイディアの良し悪しはジャッジしていないんですけど、頭の中には浮かんでいます。拾うならどうぞご自由に」という感じで。

もしそのアイディアが良ければ「あ、それいいじゃん」と周囲の人が拾ってくれるのを待つ。もし拾われた意見が採用されなくても「俺もそんなに良いとは思ってなかった」というスタンスは崩れないのでダメージは少ないわけです。

会議は毎回がテスト! しゃべらないと採点すらされない

「学生は勉強していればいいんだからいいよな」「社会人は毎日がテストなんだぞ」なんて言いますが。

会議はまさに毎回、テストです。「これをどうしたら面白くなるのか」という問いにみんなが答えを出していく。その正解不正解を総合演出がジャッジしていくわけですが、テストと違うのは、しゃべらないと答案を出してないのと同じで、採点すらされないんです。

番組における作家の序列はチーフがいてセカンドがいて…と続いていき、当然それぞれのポジションによってギャラも変わってくるわけで。(ちなみに放送作家のギャラはオンエアに対して払われます。ただ、不思議なもんで、番組が始まる時、自分のギャラがいくらなのか知らない。オンエアが終わってからプロデューサーから連絡がきて「今回、この値段で…」と言われて知る)

なので、会議で少しでも役にたって、ギャラを決めている誰かにアピールしておかないといけない! 少しでも上のポジションになっていいギャラもらいたい! なんてことも思うんですが(それでギャラが変わるのかどうか知らないけど)。それでもやっぱりしゃべれない。

会議を終えるたびに、「またしゃべれなかったな」とか。「アレを言えば良かった」とか「あれは違ったな」とか反省しながら帰っていくのです。

放送作家は「作家」を名乗っていながら、書くだけじゃなくて、おしゃべりも上手くないといけないなんて聞いてなかった。

そんな中、このコロナ禍。あっという間に対面会議は少なくなっていき、リモート会議が主流となりました。
で、リモート会議でしゃべるってなおさら難しい! さらに参加している感も出しにくい。(そんなもん出してどうすんのかって話ですが)。僕は心の底からコロナの終息を願っています。

在宅でリモート会議のイメージ画像リモート会議でしゃべるのは難しいし、参加している感も出しにくい

森喜朗さんは、先の発言に続けて「女性は競争意識が強く、1人が手を挙げて話せば他の人も話そうとするが、続けてみんなが発言することになる」と言っています。

みんな「コイツつまんねーな」と思われる恐怖に打ち勝ち発言している。僕には競争意識が足りていない。もっと手を上げて「大井がいると会議が長くなる」と言われたい。
ついでに面白いと思われたい。

次回は放送作家の名切勝則さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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