日本経済はこの30年間、ほどんど物価が上がっていません。現在は「インフレ阻止」が合言葉だった1980年代までとは正反対の状況で、日本政府・日本銀行は「インフレ転換」を目指す政策を実施しています。国民にとってインフレとデフレはどっちがよいのでしょうか? 両者の違いを解説します。
- インフレ政策は、企業業績の向上、賃金上昇、経済活性化の好循環を期待
- デフレ不況は賃金上昇が起こらず、消費が落ち込み、企業業績が下がり続ける悪循環
- 極端なインフレは経済を破壊しかねず、緩やかなインフレが望ましい
日本政府・日本銀行は2%のインフレを目指す
2013年に、日本政府・日本銀行は「物価上昇率2%のインフレを目指す」ことを表明しました。インフレとはインフレーションの略で、物価すなわちモノの値段が高くなることです。背景には、長引く「デフレ不況」に苦しむ日本経済が立ち直るためには物価が上昇したほうが望ましいという判断があります。
物品やサービスの価格上昇が起きると企業の業績が向上し、賃金上昇につながります。賃金が上がれば国民の消費マインドが刺激され、経済が活性化し、景気が良くなります。この経済の好循環サイクルを生み出すことがインフレ政策の狙いです。
なお、インフレによって貨幣価値が下がれば、日本政府が抱える赤字国債、つまり“国の借金”の残高を目減りさせる効果も期待できます。
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、物価の上昇が起こらず、賃金上昇につながりにくくなっています。消費者の消費マインドが萎縮し「景気が良くないから大きな買い物は控えておこう」という買い控え現象が長く続いています。政府が目指す2%のインフレ目標はなかなか実現できていないのが現状です。
モノの値段が安いデフレはなぜだめ?
インフレの反対がデフレ(デフレーション)で、物価が安くなっていくことをいいます。
かつてのインフレの時代には「デフレになったら、国民の暮らしが良くなるのでは」という声もありました。確かに、消費者にとってはモノの値段は1円でも安いほうが良いでしょう。
しかし、デフレはインフレと逆サイクルの経済現象であるため、賃金上昇が起こりにくくなります。そのため、消費が落ち込み、企業の業績が下がり続ける悪循環が起きてしまうのです。
不景気の時代は、リストラが増えて失業率が上がり、若者も就職難にあえぐ暗い世相になりがちです。モノの値段が安くなるのは望ましいように思えますが、デフレ経済が長く続くと、深刻な社会不安を生み出すことにもなりかねません。
※インフレ対策に関連する記事もたくさんあります
インフレ対策、まず検討すべきはこの3つ
インフレに強い資産の代表=株は本当か?
インフレ対策で、外貨に投資するのはあり?
緩やかなインフレが望ましい
経済の好循環サイクルを生み出すにはインフレが望ましいとはいえ、戦後の混乱期のような極端なインフレ(ハイパーインフレ)は経済を破壊しかねません。急激にモノやサービスの値段が上がれば賃金上昇が追い付かず、必要な買い物さえできなくなるからです。デフレ不況に陥っている現在の日本経済の景気を回復させるためには、物価上昇率が2%程度の緩やかなインフレ状態になるのが理想的とされています。
緩やかな物価上昇に伴って企業業績が向上し、従業員の賃金が上がり、消費が活性化する。そんなインフレサイクルが起これば、「景気回復」への道が見えてきそうです。