近年、環境や人権に配慮したSDGs銘柄に投資する人が増えています。投資信託などを活用した幅広いSDGs銘柄に投資する方法もあり、手間もハードルも高くありません。しかし、投資家として一番気になるのは「株価が上がるかどうか」の一点につきるでしょう。本記事では、SDGsをテーマとした投資の成果がどれほど期待できるのか解説していきます。
- 過去の調査によると、SDGsが株価の向上に役立つと答えた企業は12.7%
- SDGsをテーマとした投資信託の価格は、市場平均をやや上回る傾向
- 今後SDGsに取り組まない企業の株式は買われにくくなり、株価が下がる可能性も
企業はSDGsの株価への影響を控えめに評価
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、持続可能な社会を地球全体で目指すための目標です。2015年に国連で採択され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを目標にしています。
近年、地球環境や人権問題などに配慮した企業を評価する動きがあり、株式市場においてもSDGsに取り組んでいるかどうかが、取引の基準とされるケースが増えてきました。そのため、これからの企業経営は、利益の最大化だけでなく、よりよい社会になるような取り組みも求められるようになるでしょう。
しかしながら、SDGsが直接的に株価の上昇に結びつくかといえば、現時点では株価への影響は限定的であり、結論を出すのは難しい状況です。いずれにせよ、企業のSDGsへの取り組みは長期的に企業価値を高めることへはつながると考えられますが、利益を最大化して株主に還元することとは趣旨が異なる点は覚えておくべきでしょう。
今の段階では、「SDGsに取り組んでいるから投資家に評価される」といった、単純な構図が成り立つとは限りません。
過去に帝国データバンクが企業に対して実施した調査によると、SDGsが株価の向上に役立つと答えた企業は12.7%にとどまりました。SDGsへの取り組みは必要だと認識していても、株価へすぐに結びつくとは考えていないようです。
SDGsの達成に貢献することによって、どのような企業価値の向上に役立つと思うか尋ねたところ、「企業好感度」に関して企業の53.3%が『そう思う』(「非常にそう思う」と「ある程度そう思う」の合計)と考えていた。
(中略)
「株価等」に関しては、SDGsの達成で向上すると考えている企業は12.7%だった一方、企業の4割が「分からない」としている。
SDGsの投資信託と株価指数を比べてみると……
今の時点でSDGsは株価にどの程度影響しているのか、SDGsをテーマにした投資信託とインデックス型の投資信託の値動きをグラフで比較してみましょう。
投資信託は下記2本を選択しました。
東京海上・グローバルSDGs株式ファンド
比較対象……eMAXIS 全世界株式インデックス
■日本
ニッセイSDGsジャパンセレクトファンド(資産成長型)
比較対象……<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックスファンド
世界株式での比較では、過去10年間ではSDGsの投資信託が上回る期間も、市場平均(インデックスファンドは「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本、円換算ベース)」への連動を目指す)が上回る期間もありましたが、2021年6月時点での値上がり幅はほとんど変わりません。
期間を2018年3月1日以降で区切ると、多くの期間でSDGsの投資信託が市場平均を上回りました。特に2021年2月には大きく差が開きましたが、その差は6月にかけて縮小しています。
日本株式での比較は、投資信託が設定された時期の関係で2018年3月からになってしまいますが、こちらも市場平均(TOPIX)と抜きつ抜かれつの値動きを示しています。ただし、2019年3月以降で見てみると、特に2020年のコロナ禍以降はSDGsが上回り続けています。
以上のグラフから推察されるように、SDGsをテーマにした投資信託は、インデックス型と比べた場合、必ずしも運用成績が上回り続けるとは言い切れません。つまり、SDGsに取り組む企業の株価は上がりやすいとは、今の時点では断定できないと考えるべきでしょう。
SDGsの投資信託は、資産運用会社が投資先を厳選するアクティブファンドです。市場全体の価格変動とは連動せず、場合によっては市場平均を下回ってしまう可能性があることを念頭におき、状況を見ながら投資対象の中に組み込んでいくことが、現時点では賢明な判断といえるでしょう。
SDGsに取り組まない企業は取り残される可能性
現時点では、企業のSDGsへの取り組みが、直接的に株価を上げる要因になるとはいえません。しかし、新型コロナウイルスの影響で経済が混乱し、新しい生活様式が求められる中、SDGsを意識した企業活動が今後必須になっていくことが予想されるでしょう。
将来的に環境問題や人権問題がより深刻化したときに、SDGsに取り組まない企業の株式は年金基金のような大口の投資家が買わなくなるかもしれません。あるいは、株価指数に組み入れられなくなるといった理由によって、相対的に株価が下がることもあるかもしれません。
目先の株価への影響が少ない場合でも、今後株価の動向に影響を与えうるテーマとして注目する必要がありそうです。