現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第6回は、産業・家庭用ガス専門商社であり、LPガス大手の岩谷産業(8088)を取り上げます。
- 岩谷産業は産業・家庭向けのガスやエネルギーを供給する国内大手企業
- 水素に関する技術やノウハウでは他社を圧倒。成長分野として投資継続
- 2022年3月期は増収増益を見込む。家庭用、工業用のガス需要はさらに伸びそう
岩谷産業はどんな会社?
岩谷産業は東証1部市場に上場する、我々の生活や産業で使用されるガスやエネルギーを供給する国内大手企業です。家庭用では「イワタニカセットコンロ」などが有名です。
1930年に創業者の岩谷直治氏が家庭用LPガスなどの製造・販売を手がける「岩谷直治商店」を創業。1953年に国内で初となる家庭用プロパンガスの市販を開始し、大きく成長しました。ちなみにLPガスとはプロパンやブタンなどを主原料とする液化石油ガス(LPG)のことです。家庭用の大型のボンベで供給されるLGガスはプロパンの含有量が多いことからプロパンガスの呼び方も多く用いられています。
国内では都市ガスの普及も進みましたが、ガスを使用する世帯のうち未だ約4割はLPガスが使われています。岩谷産業はLPガスの輸入などの元売り・卸売り・各家庭への配送やメンテナンスを一貫体制で手がけており、国内シェアはそれぞれの分類でトップとなっています。
産業向けには、工場や製造現場、医療で使用される酸素や水素特殊ガスなどを手がけています。水素やヘリウム、液化水素などの市場シェアはいずれもトップです。半導体や電子部品の微細加工には特殊ガスが用いられるため、産業ガスも重要な成長分野となっています。
岩谷産業の強みは?
岩谷産業の強みは脱炭素の鍵となる水素です。石油などの化石燃料の副産物として、水素プラントで水素を製造しています。
水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、発生するのは水だけと非常にクリーンなエネルギーです。水素は地球上で最も軽く、密度の低い気体であることから大量貯蔵、遠隔地輸送に向いています。水素はさまざまな資源から生成できるので、海外からの輸入に頼らざるを得ない日本のエネルギー事情を解決できる可能性があります。また、太陽光発電や風力発電などの再生エネルギーは天候や風量に左右されるため供給が不安定であるというデメリットがありますが、余剰時の電力を用いて水素を発生させ貯蔵しておくことによりエネルギーの供給量を平準化するのに役立ちます。
岩谷産業は1941年から水素販売を手がけています。工業用のほか国産の宇宙ロケットにも岩谷の液体水素由来の燃料が用いられるなど、長年にわたり培った水素に関する技術やノウハウでは他社を圧倒しています。水素を用いた燃料電池車(FCV)やFCバス、フォークリフトなどは脱炭素の観点からも国策として期待されています。2014年には兵庫県尼崎市に日本で初めての商用水素ステーションを開設するなど水素の取り扱いでは国内トップシェアのポジションを生かし、今後の成長分野として投資を続けています。
岩谷産業の業績や株価は?
岩谷産業の2022年3月期は、売上高が前期比11%増の6261億円、営業利益が6%増の320億円を見込んでいます。売上高は今期から「収益認識に関する会計基準」という新規基準を適用した増減率としています。
前期は新型コロナの影響で工業用・産業用ガスの販売が伸び悩んだものの、家庭用LPガスの需要は好調に推移しています。工業用・産業用では、今期は自動車や半導体業界向け、次世代高速通信の5G向けの需要回復を見込んでいます。
10月22日の終値は6700円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約67万円です。自動車用などのエネルギー源としての水素の成長についてはコストの問題などもありまだ道半ばですが、株式市場の期待は引き続き強いとみられています。
新型コロナ感染拡大の一服などもあり家庭用、工業用のガス需要はさらに伸びるとみられます。株価は1月高値の7470円から一進一退が続いていますが、折に触れ物色される場面がありそうです。