テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第90回は、放送作家となって4年目、25歳の工藤莞太さん。
TVで食えない時代の放送作家
初めまして、4年目25歳の放送作家 工藤莞太です。
このエッセイのお話を頂いて過去のラインナップを確認したところ、自分が圧倒的に若いことに気づいてしまい震えております……。
今回はせっかくなので前半は上の世代に「今の若手ってこうなんだ」と知ってもらえる内容、後半は同世代、下の世代に「こんなやり方あるんだ」と思ってもらえるものを書けたらと思います。
スタートダッシュに若手放送作家のギャラ事情を暴露!
……とまでいかないですが大体どんな感じで生活費を稼いでいるのか知ってもらえればと思います。
若手に限らず現代の放送作家がお金を稼ぐ手段は大きく分けて2つ。
1つはTV、もう1つはYouTubeをはじめとしたネットメディア。
(今回はわかりやすくYouTubeと言わせてください)
なんですが若手がTVでもらえるギャラはリアル雀の涙程度。
それに比べてYouTubeはTVの2~2.5倍程度はもらえます。
しかも1つのモノが出来上がるまでにかかる時間はTVの方が断然上。
それを考え出すともうYouTubeの方が5倍くらいもらっている感覚です。
こうなってくると当然、数の割合もYouTubeの方が大きくなってきます。
僕の場合は8:2くらい。
こんな事言うとYouTubeだけやればという声も聞こえていますが「それは違う!」と断言できます。
それはクリエイティブのレベルで言えば現段階ではTVの方が圧倒的だから。
かけている時間と歴史が積み上げたノウハウ量が違いますから当然の事です。
若手放送作家がすくすく育つためにはYouTubeばかり食べずに栄養素が豊富なTVも十分に摂取する必要があります。
では若手放送作家はどんなバランスで仕事を取るべきか?
ここからは根本的な自肩がない癖に出世欲だけは強いあまり戦略厨になってしまった僕が、YouTubeでもTVでもやっていく為に考えた自論です。
僕は常々、極論「TVは副業感覚でやるべき」と考えています。
あくまで極論です。マジで。理由は大きく分けて3つ。
- しっかり生活費を稼ぐため
- ムダな企画を作らない為
- ポジションを取りやすくなる
『しっかり生活費を稼ぐ』、これは既述なので言わずもがなな感じもしますが、その裏には自分じゃなくてもいい仕事をしっかり断る為という意味もあります。若手放送作家の仕事は「コレ、俺じゃなくてもいいよね?」という仕事ばかり……(怒られそう)。
稼いでないのに断ると「じゃあ要らない」と言われた時詰みますから。
『ムダな企画を作らない』、こっちの方が重要です。
TVだけやってるとついつい『TVで通りそうな企画』を量産しがちになりますが、そんなものは当然上の世代がとっくに考えてるし同じような企画が並んだ時に年次で負けます。時間のムダです。
それが副業感覚でやっていればTVに固執する必要がないので自分が本当に面白いと思える企画を優先でき、企画も通りやすいイメージです。
また、会議で発言機会の少ない若手がどんな思考の人間か伝えやすく、次に繋がりやすいというメリットもあると思います。
最後の『ポジションを取りやすくなる』について。
ここで言いたいのは「副業で嫌なことして成功してるヤツ見たことなくね?」ということです。副業で成功してる人ってみんな自分の得意や好きなこときっかけじゃないですか?
あくまで僕のイメージですがあながち間違ってないとも思います。
“副業感覚”とは「本気にならない」という意味ではなく、「自分の好きなジャンル・企画に全賭けする為の割り切り」という意味です。
僕の場合はそれがスポーツです。どの企画会議でもスポーツ系の企画や体を使うゲーム企画を持っていき、至るところでスポーツ好きをアピります。
その結果“若手のスポーツやたら詳しいヤツ”ポジションが取れて、一気にスポーツの仕事が増えたので現段階では間違った方向には進んでないかと思います。
これが僕が考えた生活費は稼ぎつつ名声とノンストレスすべてを追い求める、欲張り若手放送作家の為の仕事の仕方です。
まあ、現実はまんまこの通りに!とはいかずTHE・若手放送作家の仕事をせざるを得ないことも多々ありますが(いや、あるんかい)、極力減らして自分のやりたいことに力を注げているな、という実感があります。
まとめ
エッセイというより偉そうでやっすいビジネス書みたいになってしまいました。何も成し遂げてないクセに(笑)。
若手の戯言として受け流してくれれば幸い……と保険だけかけておきます。
結論、こんな作戦考えてる暇あったら何も考えず全てにフルスロットルで頑張った方が売れると思います(笑)。
あ~お金欲し~!
次回は脚本家の藤井香織さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。