テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第74回は、なんでも屋として生き抜いていく覚悟がある、という放送作家の嵯峨野功一さん。
「もう一周行ってもいいぞ!」
放送作家になりたての頃、所属事務所の大先輩に連れて行ってもらったのは新橋のとある焼き鳥屋さん。こじんまりとした店内は満員。当時は食べログなどの口コミサイトは勿論、インターネットもまだ普及しておらず、有名店と知ったのはこの時から数年後のことでした。
先輩に「ここはコースだから」と言われ、よきタイミングで運ばれてくる焼き鳥。20歳そこそこだった若造のワタクシは焼き鳥のコースなど食べたことはなく、なんだか大人の世界に足を踏み入れた感じでした。名物のだんご(つくね)を頬張っていると、先輩が「足りなかったらもう一周行ってもいいぞ」と。「えっ?もう一周って??」聞けば、焼き鳥コースを最初からもう一度食べることでした。そうか、コース料理って2~3周出来るんだ。
この時に初めて知りましたが、これまで一回もやったことはありません。ちなみにこの先輩の口ぐせは「放送作家は何でも屋だからな」でした。
ワタクシが放送業界に足を踏み入れたのは1996年。バブルと言われる時代はとうに過ぎていましたが、テレビ局はまだまだ元気な時。当時、末端のスタッフだったワタクシが印象に残っているのはお弁当の数々です。制作部屋で作業をしているとADさんが「お腹空いていません?」と声をかけてくれ、少しして運ばれてきたのは叙々苑の焼肉弁当にサラダ。トップスのカレーにはヴィシソワーズがセットでした。どちらも3000円ほどのお弁当。
この他にも印象に残っているのは、3000円の焼きそば、2800円のサンドイッチ、1500円のオレンジジュースなどなど。どれもメニューを二度見しました。そして、放送業界ってお金あるな!華やかだな!と感じたのを覚えていいます。
「どっちの人間になりたい?」
30歳の時、番組のゲストに迎えるファイナンシャルプランナーさんに取材をしました。この方から言われた言葉は今でも強烈に覚えています。「僕は定年後の人間は2種類だと思っているんだ。お金を払って何かを習う人と、お金をもらって何かを教える人。嵯峨野さんはどちらになりたいの?」ワタクシは「教える人間です」と答えました。しかし、人様に教えることなんて何もない……。するとファイナンシャルプランナーさんは「今は何もなくても60歳まではあと30年ある。これから何かを始めても30年あれば人に教えられるようになるから。見つけてごらん」とアドバイスしてくれました。放送作家に定年はありませんが、お金に対する考え方が大きく変わった瞬間でした。
アドバイスから10年。2015年に小学生に作文のコツをお伝えする、『さくさく作文教室®︎』を始めました。ワタクシ自身が小学生の頃に作文に悩んでいたという経験もあり、放送業界の先輩方から教えてもらったことをワタクシなりに咀嚼して作文のコツとしてお伝えしています。
放送業界のお金事情は年々厳しくなっていて、ワタクシもそれをひしひしと感じています。放送業界がなくなることはないと思いますが、ワタクシが業界に入った頃の元気さを取り戻すこともない気がしています。ファイナンシャルプランナーさんの一言で発見できた新たな世界。これからは何でも屋として生き抜いて行こうと思います。60歳までまだもう少し時間もあるので。
次回は脚本家の倉田ひさしさんへ、バトンタッチ!
是非見て・読んでください!
『さくさく作文教室®』は「原稿用紙2枚がさくさく書ける!」がコンセプトの小学生向け作文教室です。クイズ作りを通して楽しく「作文のコツ」をお伝えしています。
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ワタクシが原案協力した『マンガでマスター 作文教室』(ポプラ社)です。
さくさく作文教室®で教えている内容を漫画で楽しめます。
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。