投資のさまざまなリスク要因の中でも、金融市場の状況を一変させ、投資家も大きなダメージを負う可能性があるものが「地政学リスク」です。地政学リスクとはどのようなものなのでしょうか。地政学リスクは投資で大失敗をしないためにも必ず理解しておきたいリスクのひとつなので、確認しておきましょう。
地政学リスク=戦争や紛争で経済が不安定化するリスク
地政学リスクとは、国や地域間の対立などで緊張状態になった時に経済情勢が悪化し、国や企業の発行する株式や債券、為替などに影響を及ぼすことに対するリスクです。国や地域間の紛争が起きると、物流の混乱や経済制裁による経済活動の停滞、通貨の信用力低下などさまざまな影響があります。
ただし、地政学リスクによって、すべての資産が値下がりするわけではありません。「有事の金」とも言われている金は、通貨と違って国の信任を得ずに価値を有するために、紛争が起きたときに相対的に値上がりしやすく、地政学リスクに強いといわれています。
今回のロシアによるウクライナ侵攻では、原油などの資源価格が大きく値上がりしたことが、日本でも物価の上昇を招くことになりました。このように、地政学的なイベントがあると、経済にもさまざまな影響があることを覚えておきましょう。
ウクライナ侵攻の影響でエネルギー市場が大混乱したように、地政学的なイベントが、世界経済の常識や今までのマーケットの流れを一変するような大きな変化につながる場合があります。そのため、紛争が懸念されるような場面では、地政学リスクによって資産が値下がりしてしまう可能性に注意しておかなくてはいけません。
過去の戦争・紛争で株価はどうなった?
今回のロシアによるウクライナ侵攻によって、自分が保有している資産がどうなるか気になっている方も多いでしょう。
ウクライナ侵攻による地政学リスクに備えるためには、過去の地政学的イベントの結果を見ておくことが重要です。
結論から言うと、第二次世界大戦後の米国の同時多発テロや中東の動乱など、近年の地政学的イベントでは一時的に株価が大きく下落するといった混乱が生じたものの、数カ月で株価は回復しています。その理由は、近年発生した地域間の紛争などは、比較的早期に情勢が落ち着いたからです。
過去の経験から考察すると、地政学的イベントによって株価などが大きく下がった場合には、数カ月から1年程度で価格が戻ることを見越して、値下がりした資産を買っておくのも戦略のひとつだといえそうです。
ウクライナ侵略の「地政学リスク」は長引く可能性
過去の地政学的イベントでは経済が一時的に混乱し、株価なども下落したものの、まもなく回復しました。しかし、今回のウクライナ侵攻もこれまでの紛争のように、必ず早期に落ち着いていくという保証があるわけではありません。
過去の地政学的イベントで株価が早期に回復した大きな要因は、動乱自体が早期に落ち着いたことです。ウクライナ侵攻が泥沼化していけば、影響が長引く可能性もあるでしょう。
ロシアは天然ガスを供給するエネルギー大国ですが、ウクライナ侵攻を受けて、ヨーロッパ諸国はロシアからのエネルギーの輸入を大幅に制限しています。天然ガスの供給が減り、エネルギー価格の上昇が今後も続けば、製造業を中心にコスト増につながり、利益を圧迫されることが考えられます。
また、世界第2位の経済大国の中国も気になるところです。ウクライナ情勢を巡ってアメリカとの対立が深まれば、経済への影響は避けられないでしょう。
地政学リスク以外の変動要因にも注目
地政学的イベントがあった際は、地政学リスク以外の変動要因にも注意しておく必要があります。
ロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が上昇し、アメリカなどで急激なインフレが起こりました。アメリカの中央銀行に当たるFRBは、インフレを抑えるために政策金利の利上げを実施しましたが、景気後退の懸念が高まり、株価は下落しました。
今後も利上げなどの金融引き締め策が続けば、アメリカ経済が本格的な不況に向かい、株価が長期的に低迷する可能性もないとは言い切れません。
このように、地政学リスクはさまざまな角度から株式市場に大きな影響を与えますが、動乱はやがて終わるものです。
しかし、目先の動乱が終わっても、地政学的イベントの影響がゼロになるわけではありません。今回のようなエネルギー価格の上昇が招いたインフレなど、今後の景気後退につながる経済的イベントに発展する可能性もあります。そのため、地政学的イベントがあった際は直接的な影響だけでなく、間接的な影響も注視しておくことが大切です。