テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第75回は、悪夢にうなされる放送作家の倉田ひさしさん。

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YouTubeとスマホの蟻地獄

倉田ひさしさんの写真
倉田ひさし
放送作家
日本放送作家協会会員

なぜか、同じような夢を繰り返し見ることがあります。
とくに体調が悪いとか、したたかに飲み過ぎた夜とか、あるいは急いでいて階段から転げ落ちた日とか、そんな訳アリの事情があるわけでもなく、その夢は突然やってきます
もちろん、「夢」に予告編があるわけでもないので、たいていの夢は突然にやって来るものですが……。

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それは、スマートフォンの夢です。
始まりは、自分の身に何か切羽詰まった事情が起こってしまったというところから。ま、夢ですから具体的な事情があるわけでもなく、ただとにかく困った状況下に追いこまれて、「何とかしなくちゃ!」と慌てる自分に気づく、というわけ。

そこで「急いで誰かに連絡しなくちゃ!」とスマホを手にするのですが、電話帳を検索してみても、相手の名前が見つからない。
LINEを見ても、メッセンジャーを覗いてみても、どこにも連絡先がない。
しかも、「たぶん、この番号だったな」とおぼろげな記憶をたよりに電話をしてみると、なぜかYouTubeとかTikTokの映像が始まってしまう

自分でも何が何だかわからず、やみくもにスマホを操作。
パニックになって、スマホと格闘しているうちに、
「はて、自分は誰に何を伝えようとしていたのか?」
それさえも分からなくなり、ますますスマホの蟻地獄に落ち込んでいく……

たいていは、このあたりで目が覚めます。

悪夢のイメージ
同じような悪夢を繰り返し見る。それも突然に……。

戦時下のミサコのピアノ

フロイトの夢判断や、ユングによる深層心理の分析がどうなるかは知りませんが、自分なりに、この夢の解析を試みてみました
夢から覚めたあと、身体はぐったり、気分は最悪という状況から、少しでも救われたいというのがホンネです。

じつは、いま8月に向けてあるイベントの準備を進めています。
「被爆ピアノコンサート・未来への伝言 2022」

このイベントはタイトルどおり、被爆したピアノをメインに据えたコンサートです。
静岡県浜松市のヤマハの工場で生まれたこのピアノは、高さ120センチ、重さ220キロ。鍵盤は今のピアノより3鍵少ない85鍵、すべて象牙でできています。

選りすぐった材料を使った高価なピアノで、当時、家が一軒買えるほどだったとか。
昭和7年夏の初め、このピアノは浜松の楽器工場から広島市千田町のある家にやってきました。ミサコ(仮名)という4歳の女の子ために、父親が大切なオートバイを売って買ったのです。

ミサコちゃんは、このピアノと一緒に時を過ごすようになりました。
ところが、彼女が小学校のころ戦争が始まります。この時代はもう、ピアノどころではなく、男たちは戦場に行き、女たちもお国のために働く日々でした。

そして、1945年8月6日午前8時15分……、広島に原爆が投下されます。

爆心地から1.8キロの場所にあったピアノも被爆し、無数のガラスが突き刺さり、弦は切れ、鍵盤も動かなくなり……。
壊れたまま放置された被爆ピアノが、ふたたび息を吹き返すのは、ピアノ調律師の矢川光則さんとの出会いがあったからです。

被爆2世でもある矢川さんは、修理・調律し、みずから4トントラックを運転して全国に被爆ピアノの音色を届けて回ることに。
「時が経つにつれて被爆体験者は段々いなくなり、あと10年したら殆どいなくなる。でも、被爆ピアノはその音色でずっと原爆のことを伝えていくことができる」と矢川さん。

ピアノの調律のイメージ
ピアノ調律師の矢川光則さんは、被爆ピアノの音色を全国に届けて回った

こうした物語を背景に、被爆ピアノとともに戦争と平和、原爆について考えるコンサートとして、2009年に「被爆ピアノコンサート・未来への伝言」がスタートしました。

狂おしい悪夢ふたたび

えっ、悪夢の話はどうなったか、ですって?

問題はそこです。
なぜ、わたしが何度も何度もスマホの蟻地獄を体験しなければならないのか?
悪夢から目覚めるたびに、不安におののきながら自問自答を繰り返してきました。
そこで、ふと思いいたったことがあります。

もしかしたら、この「被爆ピアノコンサート」の構成や演出に悩みながら、
「いったい誰に向かって」
「どんなことを」
「どのように表現しようとしているのか?」
そんな悩みや不安や戸惑いを象徴しているのが、スマホ蟻地獄なのではないか、と。

大切な想いを伝えなければならない誰かとは、どこにいるのか?
その誰かに向かって、何を伝えようとしているのか?
そして、それをどのような方法や演出で伝えればいいのか?

おそらくスマホ蟻地獄は、そんな無意識下の葛藤が悪夢になって立ち現れたものではないだろうか?

寝ながらスマホのイメージ
スマホ蟻地獄の悪夢は、自分の不安や戸惑いを象徴しているのではないか?

そう自分なりの診断を下してみると、少しは気が楽に……。
なりませんが、多少なりとも問題点がはっきりしたような気にはなります。

ちなみに、このリレーエッセイのテーマに「放送作家はマネーの達人!?」とありますが、「被爆ピアノコンサート・未来への伝言」のようなイベントは、どうあがいても台所事情が苦しいのは、皆さんご存知のとおり。

したがって、本番が近づくたびにスマホ蟻地獄ならぬ、マネー蟻地獄が始まるのです。

ああっ、また悪夢が……。

次回は齋藤智子さんへ、バトンタッチ!

ぜひ、ご参加ください!

未来への伝言「平和への祈りwith被爆ピアノ」

未来への伝言「平和への祈りwith被爆ピアノ」ポスター

【日時】2022年8月9日(火曜日)
【会場】茨城県つくば市ノバホール
〒305-0031 茨城県つくば市吾妻1-10-1
【入場料】一般2,000円  学生(高校生以下)1,000円(自由席)
第1部 演奏:ピアノ浅井寛子・ヴィオラ脇田優子 クラッシックを中心に
第2部 映画:被爆ピアノの活動がモデルの劇映画「おかあさんの被爆ピアノ」上映
(主演 佐野史郎・武藤十夢) 矢川光則&飯島晶子トーク

被爆コンサート『未来への伝言2022』

被爆コンサート『未来への伝言2022』ポスター

【日時】2022年8月10日(水)昼14時半開演 / 夜18時開演
【会場】重要文化財・自由学園明日館講堂
東京都豊島区西池袋2-31-3
【入場料】一般:3,500円 学生:2,500円(高校生まで)(全席自由・税込)
【出演】谷川賢作(ピアノ) おおたか静流(ヴォーカル) 佐久間大和(ヴァイオリン)
飯島晶子(朗読) 坂井田真実子 クラーク記念国際高等学校 他

【主催】VoiceK 飯島晶子 東京都練馬区貫井5-8-7 
http://voicek.co.jp
info@voicek.co.jp
090-8452-8454

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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