- 米有名企業の破綻続く。小売業に激震「アマゾン・エフェクト」。
- テロや病原菌、想定外の天災が多発し、企業の潜在リスク高まる。
- リスクが顕在化する日本と、破綻処理し再生させる米国市場との違い。

寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役
米有名企業の倒産相次ぐ
2019年9月29日に米国の大手衣料品メーカー「フォーエバー21」が米国破産法の適用を申請しました。2018年10月の株式急落から1年。S&P500の水準だけをみれば急落後の反発力は強く史上最高値を更新するなど堅調に見える米国経済ではありますが、過去1年でみると米国を中心に有名企業の倒産が相次いでいます。今回のコラムでは、この1年での有名企業の破綻が指し示す潜在リスクについて確認をしてみましょう。
■過去1年で米国破産法を申請した主な企業
企業名 | 破綻申請 | 創業 開始年 |
国 | 業種 | 破綻内容 |
---|---|---|---|---|---|
フォー エバー21 |
2019年9月 | 1984年 | 米国 | 衣料 | 若者向けブランドの老舗。 アマゾンなどのネット通販による売上高の減少に加え、 この数年各種ガバナンス問題を抱えていた。 |
トーマス・ クック |
2019年9月 | 1871年 | 英国 | サービス | 総合旅行代理業。資本構造は転々としており 2007年から現在の形態で上場。 2019年の欧州の熱波やブレグジットによる 旅行者減の影響を受け破綻。 |
パーデュ・ ファーマ |
2019年9月 | 1892年 | 米国 | 医薬 | オピオイドの主要製薬メーカー。 鎮痛剤であるオピオイドの常習化が社会問題となり 多額の控訴費用を抱え破綻。 |
バーニーズ | 2019年8月 | 1923年 | 米国 | 小売り | NYの高級百貨店。1996年に引き続き2回目の破産法適用。 この数年加速している小売りのネット化による 売上減で破綻。 |
PG&E | 2019年1月 | 1905年 | 米国 | 電力・ 天然ガス |
カリフォルニア州北部の天然ガス・電力の供給会社。 2001年に引き続き2回目の破綻。 カリフォルニアでおきた大規模な山火事の原因が 同社の送電線であった可能性が指摘され 多額の訴訟費用を抱え破綻。 |
シアーズ | 2018年10月 | 1893年 | 米国 | 小売り | 米国の大規模スーパー。傘下にKmartを持つ。 AMAZONの台頭による売上高減少を主因として破綻。 |
いずれも業況の長い、著名な企業の破綻ですが、破綻の内容にはいくつかの特徴がみられます。
まず、フォーエバー21、バーニーズ、シアーズに代表されるのが「アマゾン・エフェクト型」と呼ばれる破綻です。2017年頃からアマゾンを中心としたネット通販の台頭により、実店舗型の小売りの破綻や撤退が相次いでいます。2019年9月23日の日経新聞紙面によれば、2017年以降で約1万の小売店舗が撤退(新規出店との差し引き)したとされています。その中でもウォルマートのように新たなサービス展開で生き残りをかけるところもあるものの、消費者ニーズを取り込むことができず売上が落ちていた老舗企業には、アマゾンの猛威を受け止めるだけの体力がもはや残っていなかったということなのかもしれません。アマゾン・エフェクトは米国だけの問題ではなく日本の小売業にも大きな影を投げかけています。
トーマス・クックについては、「人の移動」が何らかの理由で制限された時に発生するタイプとしては典型的な破綻となりました。過去でいえば2001年の米国多発テロ以降の旅行客の激減・リーマンショック後のビジネス客の激減などによるエアラインの破綻が挙げられます。2003年に中国でおきた重症急性呼吸器症候群(SARS)や2009年の新型インフルエンザのようなパンデミックリスクが発生した際にもこうした破綻リスクは高まります。また、足元のように国家間の対立が深まることで人の往来が減少するような事態が長く続くことも、こうした国境往来型の産業にはダメージとなることに注意が必要でしょう。特にこの数年観光立国を前提としたサービス業の拡大が進んでいる日本にとって、人の移動が制限されることは非常に大きな潜在リスクとなります。
企業破綻は社会の抱える矛盾や脆弱性を反映
PG&Eの破綻は天災が企業破綻に繋がった事例です。今回の場合は、2018年11月にカリフォルニア州で起きた大規模な山火事の原因として、PG&E社の送電線周辺の植生管理(山の植林の手入れ)が十分でなかったことが指摘されたことによる賠償請求の可能性が高まったことで破産法の適用となりました。東日本大震災後の東京電力を巡る賠償請求と同一のカテゴリーといえるでしょう。2019年9月に起こった千葉県での大規模停電について、もし米国で同じことが起きていたら電力会社の責任は問われるのだろうか、と考えてしまうような内容でもあります。世界各国で想定外の天災が相次いでいるなか、こうしたインフラ系企業の潜在リスクは確実に高まっています。
最後にオピオイドを巡る医薬品会社の破綻です。鎮痛剤であるオピオイドの常習化を巡っては2017年にトランプ大統領が非常事態宣言を出すに至り、オピオイド系の薬の製薬メーカーは巨額の損害賠償請求を抱えることとなりました。世界の鎮痛剤の8割が米国で消費され、またリーマンショック後に常習者が増加したともいわれています。現在の米国社会の歪みを表す破綻といえるのかもしれません。
今のような好景気下において起きる企業破綻からは、社会の抱える矛盾や脆弱性がむしろ浮き出てみえる部分もあります。米国市場は問題を抱えた企業については破産処理をした上で再生をするというプロセスが一般的で、潜在リスクが顕在化する頻度が日本よりも圧倒的に多くなっています。リスクが潜ってなかなか表面化しない日本にとって、米国の企業破綻は非常によい教材でもあるといえるでしょう。