新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の生活様式は大きく変わりました。移動の制限などの不自由を強いられる一方で、働き方改革の進展といったポジティブな動きも見られます。そんな中、投資の世界ではどのような変化が起きているのでしょうか。ウィズコロナの世界で、私たちはどのように投資に向き合っていけばいいのか。あおぞら投信取締役会長の柳谷俊郎さんと、ディメンショナル・ジャパンの濱幸太郎さんにリモート対談してもらいました。

柳谷俊郎さん

あおぞら投信
取締役会長
柳谷 俊郎さん

1985年日本債券信用銀行(現:あおぞら銀行)入行。国際証券部、ロンドン支店、市場証券部などにおいて内外債券市場業務に長年従事。その後、リテール部門で投資信託の企画・開発に携わる。2014年にあおぞら投信を設立し、代表取締役社長を経て2017年7月より現職。週に1度は学生時代から続けているサッカーを楽しんでいる。

濱幸太郎さん

ディメンショナル・ジャパン・リミテッド
シニア・ポートフォリオ・マネジャー&バイス・プレジデント
濱 幸太郎さん

2012年Dimensional Fund Advisors(米国)入社、2013年より日本拠点勤務。株式、債券の運用を担当。前職はモルガン・スタンレー証券株式会社株式統括部でトレーディングのIT効率化に従事。シカゴ大学MBA修了。趣味はマラソンと野球のデータ分析。

テーマ1 投資の世界での変化はあるか

柳谷 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界に大きな変化をもたらしました。株式市場が大きく値下がりした出来事としては2008年のリーマン・ショック※1が思い起こされますが、今回のコロナ禍とは全く違うと感じています。リーマン・ショックではお金の流れが止まったのに対し、コロナは人の流れを止めました。経済の最も重要な要素は、カネやモノではなく、ヒトだと多くの人が気づいたのではないでしょうか。世界の動きが自分事になり、一人ひとりの「自分」というものがクローズアップされている気がします。

※1 米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが2008年9月15日に経営破綻したことをきっかけに、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象のこと。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

 おっしゃる通りです。コロナショックはこれまでの経済危機とは大きく性質が異なるものだと思います。私たちの生活様式に与える影響は多岐にわたり、かつ長期化することが想定されます。私自身、主に自宅で仕事をするようになって4カ月ほど経ちます。外では常にマスクをつけ、一日に20回くらい手を洗うようになりました。

投資の世界における原理原則はこれからも適用される

 一方で、投資の世界への影響という観点からは、少し違った観点が必要になると考えています。コロナ禍にある今の状況にかかわらず、市場に参加するプロの投資家はいつでもニュースやイベントを注視し、独自の分析のもとで取引をしています。その分析には今後の政府や中央銀行による支援策への思惑など短期的なものから、経済活動への長期的な影響まで含まれます。

市場は常に将来を見通しており、起こり得るあらゆる変化の可能性を価格に織り込み続けていくことは今後も変わらないでしょう。コロナ禍により私たちの生活様式は変わってきますが、投資の世界における原理原則はこれからも適用されると考えられます。

柳谷 市場はコロナショックさえも織り込んでいくと。それが投資の興味深いところでもありますね。

テーマ2 変わりつつある個人と企業

柳谷 日本では、今までどちらかというと内側に向きがちだった意識が変わりつつあるように感じられます。例えば、米中貿易摩擦という言葉をよく聞きますが、「一番影響を受けるのは日本ですよね」というと、コロナ前は「え?」という顔をされることが多かった。ですが、コロナの影響でマスクが手に入らない事態に直面し、「実はすべて中国からきていたんだ」と気づいたわけです。自分事として驚くようなことが起こらなければ、なかなか考える機会は生まれません。“自分で考える”時代の始まりという意味では、ポジティブな変化が起きていると思います。

 そうですね。普通に生活していて何も起きなければ、疑問に思うきっかけがそもそもありません。疑問があったとしてもあえて口に出さないという側面もあったでしょう。それは「和」という日本の良い文化でもありますが、実際にマスクが手に入らないということになれば、自分で考えて行動しなければなりません。これまで暗黙の了解で済ませ、「なぜ?」を議論してこなかった問題を見つめなおす良い機会ではないでしょうか。

あおぞら投信取締役会長の柳谷俊郎さん

社会のため、環境のため。企業は短期から長期の目線へ

柳谷 企業もまた変わりつつあります。これまでは株主のためという意識が強く働いてきました。コーポレートガバナンス改革※2は企業の持続的な成長を促すものですが、株主に対する意識が強まるあまり、むしろ短期で成果を上げることに目が行きがちになっていました。

※2 コーポレートガバナンス(企業統治)の強化によって不祥事を防止し、生産性・ 収益性を向上させていくことを目指す取り組み。具体的には、取締役と執行役の分離、役員報酬の開示、社外取締役の設置などの取り組みが挙げられる。

図らずも、そこに一石を投じたのがコロナです。株主の前に、そもそも「何のために企業が存在するのか」という問いかけがあります。企業も経済の一員であるという前提のもと、社会のため、環境のために何ができるか。そういう議論が活発になり、10年以上の長期で目指すものを持ちつつあることはポジティブな変化といえるでしょう。

 株主の利益だけを考えて行動することは、結局株主にとって最良の結果にならないものです。社会や環境に配慮し続けられる企業は、社会的に尊敬され、優秀な人材を獲得し、より良い商品やサービスを提供し、利益を上げ続けるという好循環を生み出すことができます。それが結果として株主のためになります。

私も、自分が勤めている会社がそうしたことに真剣に取り組むことができていると感じたとき、誇らしく感じます。そしてお客様のためにより良い仕事ができるよう頑張ろうと思えます。企業は引き続き、社会や環境への理解を深め続けることが大切ではないかと思います。

柳谷 同時に、個人も「どのような社会にしていきたいか」という自問をするようになってきていますね。働く意義を考え、自分がいるべき場所を探し続ける意識が高まってきました。

 まずは自分が何を大切にしたいのか考える。その上で、勤めている会社が目指そうとすることと自分自身が目指したいことが一致している状態が幸せだと思いますので、できるだけ多くの人がそのような環境に身を置ける社会が実現すると良いですね。

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