- 金価格は過去最高値を更新、2,000ドルを突破。背景に新型コロナウイルス
- 株価下落時に底堅い金価格。高い分散効果が期待できる
- 金価格の高騰が続けば宝飾用の需要が落ち込み、価格の上昇を抑える可能性も
2020年上半期、金ETFに過去最大の流入
森田 隆大
森田アソシエイツ 代表
金価格は、2020年7月末に過去の最高値である1オンスあたり1,897.7ドルを更新し、一時2,000ドルを突破した。
先回のピークは、リーマン・ショックが急発生したため、大量の逃避資金がセーフヘブンを求め、金市場に流入したことを背景に2011年に形成されたものである。しかし、金融市場がやがて落ち着きを取り戻すと、こうした逃避資金は再び株式や債券に向かい、金価格は2013年に急落した。その後の数年間、金価格は1,200から1,350ドルのボックス圏で推移してきたが、2019年後半、米中貿易摩擦の激化などによりマクロ政治・経済環境の安定性に対する懸念が増大したのを受け、多様なリスクヘッジ機能を持つ金が再び注目され、価格は上昇トレンドに転じた。
さらに2020年に入り、新型コロナウイルスの拡大に伴い、投資環境の不確実性が加速的に増幅したため、中長期の投資家を中心に金に対する期待が急上昇し、今回の高値更新の原動力となった。したがって、先回と今回のピーク値の形成背景はかなり異なる。
2020年上半期において、金の代表的な投資商品である金ETFに流入した資金は過去最高の734トン、金額ベースにして4兆円超に達した。また、ETF累積残高も、上半期末に過去最高の3,621トンを記録し、投資需要の急増が最高値更新の原動力となった(図表1参照)。
過去20年の金の年平均リターンは約10%
投資家が金を求める最大の理由は、様々な投資リスクに同時に対応できる点であるが、その中でも、特に関心が高いのは、テールリスク(想定外の暴騰・暴落が起きるリスク)および分散リスクに対するヘッジ機能である。
ブラックマンデー、9・11、リーマン・ショック、ユーロソブリン危機など、過去のテールリスク・イベント発生時に混乱した株式市場とは対照的に、金は極めて堅調なパフォーマンスを上げていることは検証されている(図表2参照)。今回の新型コロナウイルス発生においても、金価格は年初から25%超上昇しており、苦境に立たされている他資産との違いは鮮明である。
また、金は他主要資産との相関が低く、値動きも異なるため、ポートフォリオに加えると、投資分散効果が得られることもよく知られている。マイナス金利・低金利が持続する環境において、債券投資がより困難になり、これまでのようにポートフォリオに分散効果を提供できないため、金を代替して加える動きも見られる。
一方、金は保有してもキャッシュフローを生まないとの指摘がよくあるが、トータル・リターンで見れば、過去20年の金の平均年間リターンは約10%、株式や債券よりも高い。過去10年や過去5年で見た場合でも、それぞれ6%および3.5%ほどあり、底堅いリターンが期待できるため、金の投入はポートフォリオのリスク調整後リターンの向上を目指す投資家のニーズにも応えられる(図表3参照)。