8月31日、米国著名投資家のウォーレン・バフェット氏が日本の総合商社5社の株式を大量に購入していたことが判明しました。数々の伝説的な投資を実行してきた「オマハの哲人」は、なぜ日本の総合商社株に着目したのでしょうか。その本心について、株式アナリストの鈴木一之さんが考察します。

  • 社会の変革をパッケージとして丸ごと手中に収められるのは日本の総合商社だけ
  • その唯一無二の強みにバフェット氏の着眼点があるのかもしれない
  • 株価は目下のところホットな状態。熱気が冷めたところで投資検討の価値あり

バフェット氏が日本の総合商社5社の株式を大量に購入

季節の変わり目にはさまざまな変化が起こります。半年にわたり猛威を奮ってきた新型コロナウイルスも、新規の感染者の数だけを見れば頭打ちになりつつあります。インフルエンザの季節でもあり楽観は許されませんが、もう一息というところでしょうか。

安倍晋三首相の辞任表明には驚きましたが、それ以上にびっくりしたのがウォーレン・バフェット氏です。「オマハの哲人」バフェット氏が日本の総合商社5社の株式を大量に購入していたことが判明しました。

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市場参加者が驚いたのは、バフェット氏が日本企業に投資したことと、それが総合商社だったことの2点です。

バフェット流の投資と言えば、他社には真似のできない唯一無二の魅力ある製品やサービスを提供する企業に、集中的かつ大規模に投資を行うことで知られています。コカ・コーラ、ジレット、アメックス、ウェルス・ファーゴなど、いずれもバフェット氏のお気に入りの銘柄として知られ、リーマン危機の渦中では急落していたゴールドマン・サックスを大量買いしてその名を高めました。

同時に「よく理解できない」という理由でテクノロジー企業を避けることでも知られています。しかし2016年には、アップル株を発行株式数の6%近くも購入して、それが今では大成功を収めています。数々の伝説的な投資を適切なタイミングで実行してきたバフェット氏の存在はますます伝説的なものになりつつあります。

そのバフェット氏が日本企業に対して初の大型投資を行ったのが、今回の総合商社株の大量購入です。もはやアメリカの株式市場はバフェット氏でも躊躇するほど高くなり過ぎたということでもあり、それが日本の株式市場の割安感を際立たせていることにもつながります。

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総合商社の事業形態は日本にしか存在しない

バフェット氏の本心はどの辺にあるのでしょうか。

「総合商社」と言えば、若者の就職人気の花形産業でもありますが、その事業形態は日本にしか存在しないとされています。海外には日本の総合商社のような企業はほとんどありません。

アメリカでは個々の企業が輸出と輸入を行います。穀物メジャーや石油メジャーが存在し、多国際的な活動を大々的に行っています。ドイツも工業製品の輸出入はメーカー自らによって行われています。

イギリスでは古くはジャーディン・マセソンなどの多国籍商社が広く活躍していましたが、1980年代以降は食品や自動車、化学などの専業の事業会社に変化してゆきました。わずかに韓国にサムスン物産やLG商事、ロッテ商事などが残るのみとなっています。

商社が日本固有の企業形態として存在する理由として、戦前のわが国の通商が不平等条約の下で始まったこと、財閥が存在したこと、諸外国と比べてはるかに後進国であったこと、日本経済が急成長したこと、の4点が挙げられます。

明治政府によって開国されてすぐに諸外国との貿易が始まり、当時の生糸、綿花の貿易で財を成したのが三井物産、日本綿花、江商、伊藤忠商事です。日清・日露戦争を経て第一次大戦が勃発すると、輸入以上に東南アジアへの輸出がブームとなって、鈴木商店、三井物産、大倉商事、三菱商事、丸紅商店などが活躍しました。これらが次々と「総合商社」として脱皮し、海外拠点も増やしていったのが始まりです。

その後の日本経済の工業化を支え、第二次大戦後の財閥解体を経て、戦後の「十大商社」(安宅産業、伊藤忠商事、兼松江商、住友商事、トーメン、日綿実業、日商岩井、丸紅、三井物産、三菱商事)が高度成長期における輸出入と三国間貿易をリードしました。

そこから二度のオイルショックを経て、今では「七大総合商社」(伊藤忠商事、三井物産、三菱商事、住友商事、丸紅、双日、豊田通商)の時代を迎えています。