実用されている蓄電池にはどんなものがある?
実用されている蓄電池を挙げて、その特徴を概観してみます。
(1)鉛蓄電池
鉛蓄電池は、正極材に二酸化鉛、負極材に海綿状の鉛、電解液に希硝酸を使用した電池です。ガソリンエンジン車の始動用バッテリーやフォークリフト、ゴルフカート、車いすなど、電動車用に実用化の歴史の長い、使いやすい2次電池(何度も充放電が可能な電池)として知られています。
特徴としては、大電流での放電や長時間にわたる緩慢な放電を行うことができ、変化の激しい使い方でも安定した性能が発揮されます。電極の材料も安価で、調達が容易なこと、安全性、信頼性、リサイクル性の高さから、2次電池の中では生産量が最も多く、安定した評価を得ています。
欠点としては、電極に鉛を使用しているために重量が重くなること、電解液に希硝酸を使用しているために破壊した時に危険であること、などが挙げられます。
1859年にフランスのガストン・プランテによって発明されました。最初の鉛蓄電池は、布で絶縁した2枚の鉛板を巻き付けて、希硝酸の容器に浸した構造でした。正極の二酸化鉛が反応して、負極に電子が非常に多い状態となり電気を貯めるという仕組みです。
1880年にフランスのカミュ・フォールによってペースト式極板電池が発明され、さらに鉛-アンチモン合金格子が出現したことから量産化が容易になり、ここから本格的に普及してゆきました。
日本では1895年に島津源蔵氏によって初めて試作され、19世紀末から20世紀初頭にかけて大容量の蓄電池として用いられるようになりました。
1950年代以降はモータリゼーションに伴って自動車用電池の需要が急増し、1970年代には不織布に硝酸を含ませて保持する密閉式シール鉛蓄電池が開発されると、様々なポータブル電子機器にも採用されるようになりました。
通常の鉛蓄電池は電解液が液体のため、横に倒して置くことができません。その欠点を解消したのが小型の密閉式シール鉛蓄電池です。これによって二輪車や据置用電池として急速に普及していきました。現在も大容量の2次電池の主流となっています。
鉛蓄電池の単電池当たりの電圧は2Vで、自動車用には電池ケースの中で単セルが並列につながれて12Vや24Vとして用いられます。
正極の構造によって、ペースト式とクラッド式に分かれ、ペースト式は電極を格子状に並べて、二酸化鉛と硝酸鉛を混ぜたペーストを塗り込んだ電池です。クラッド式はガラス繊維などの織物で包んだ二酸化鉛の棒を並べた構造で、安定性、信頼性をより高めています。
鉛蓄電池は発明されてから150年が経過しており、すでに研究されつくされた電池と思われがちですが、いまだ解明されていない部分も少なくなく、現在でも性能の向上が図られています。
長時間の使用、高いエネルギー密度、長寿命化が一段と図られ、リサイクル性にも秀でていることから循環型社会にも適しています。電力貯蔵分野においては今後も大きな役割を担うものとしてますます期待されています。
(2)ニッケル水素電池
ニッケル水素電池は、負極物質に金属水素化合物(MH)、正極物質にニッケル酸化物(オキシ酸ニッケル、NiOOH)を採用して、電解質には水酸化カリウムを用いる、アルカリ水溶液を用いた2次電池です。
ニッケルカドミウム電池の負極材を、カドミウムから水素吸蔵合金に変えた構造となっており、原理的にはより大容量化、長寿命化が可能です。
水素原子がMHとNiOOHの間を移動することで充放電がなされます。重金属の溶液を利用する鉛蓄電池や、ニッケルカドミウム電池などの従来型の2次電池と比べて、電池反応が単純な構造となっています。電池反応に水が関与しないため、電解質の濃度は常に一定に保たれ、この点でも鉛蓄電池とは大きく異なっています。
1990年に実用化されて以来、ニッケル水素電池はデジタルカメラや電動工具などの民生用小型電池として使用されてきました。1990年代後半からは技術改良によって用途が急速に広がり、小型のポータブル機器、電動アシスト自転車、ハイブリッド車などに搭載されるようになりました。リチウムイオン電池と競合しながら普及が進んでいます。
最近では負極材、正極材、電解液の素材の改良や構造面での工夫が進み、大容量で高速での充放電が可能な大型ニッケル水素電池が開発されました。郊外型電車のような移動体用の電源や、太陽光・風力発電と併設された系統電力とのやりとりもできるようになっています。
理論上の起電力は1.32Vですが、実際には1.2Vで作動します。作動温度の範囲は充電時は0~45℃、放電時は▲20~60℃、ニッケルカドミウム電池とほぼ同じ範囲です。
過充電の際にガスが発生しにくい構造のため、密閉化が容易です。実際に運用する際には電池監視モニターによって電池電圧、温度、圧力を監視して制御しています。
このほかにもニッケル水素電池の特徴としては、「作動電圧が平坦」、「充放電サイクルの寿命が長い」、「急速充電、大電流の放電が可能」、「取り扱いが容易」、「長期放電に耐える」、「使用温度の範囲が広い」、「安全性に優れる」、「環境適合性に優れる」、などがあり、信頼性の高い蓄電池と言えるでしょう。リチウムイオン電池と比べて大電流の放電が可能です。
欠点としては「自己放電」や「メモリー効果」がありますが、それもニッケルカドミウム電池よりは軽微とされています。
自己放電とは「内部放電」のことで、どんな2次電池にもついてまわる現象です。充電と放電を繰り返していると2次電池は次第に劣化してゆきます。自己放電の大きな電池は、フル充電の状態から放電した場合、充電量の低下の度合いが大きくなります。周囲の温度が高くなると内部放電は大きくなります。
リチウムイオン電池はニッケル水素電池よりも自己放電が小さいとされていますが、それでもゼロにはなりません。
2次電池の場合、放電する際に容量をある程度残した状態で放電を中止して再び充電を行うと、最初に放電を中止した付近で電圧が低くなってしまいます。放電のたびに同じ付近で中止していると、この傾向はさらに顕著となります。電池は放電が中止された部分の水準を記憶しているように見えることから、これを「メモリー効果」と呼んでいます。
ニッケル水素電池のメモリー効果は一時的なものとされており、あらためて十分に放電することでその記憶は解消されます。
ニッケル水素電池は、電池の加温や危険物の取り扱いが不要で、補助的な動力もいりません。そのために瞬時に起動することができます。
電池を構成する物質は環境にやさしく、電池の構造がシンプルです。鉛、水銀、カドミウムなどの有害金属は使われません。使用後の電極材の分別回収やリサイクル、メンテナンスが容易で、設置や取り扱い上の制約が少ないのが特徴です。
ニッケル水素電池の負極材には、大量の水素を吸蔵・放出することのできる水素吸蔵合金が用いられます。ここではニッケル、アルミニウム、コバルト、ジルコニウムなどの希土類が採用されることが多く、有害な物質ではないこと、資源的に豊富で安価であること、繰り返し使用する際の性能劣化が少ないこと、アルカリ電解液中で安定し耐酸性に優れていること、などが求められます。
1990年に水素吸蔵合金を負極に用いたニッケル水素電池が商品化されて以来、電池の高容量化の技術が進み、円筒型密閉電池のパワー改善が続けられました。今では風力・太陽光発電の出力平準化システム、移動体用動力としてLRT(Light Rail Transit)や電動フォークリフト用の動力、鉄道の地上蓄電システムなどへの応用が始まっています。
今後一層の高性能化、長寿命化、低コスト化が図られることになり、普及に弾みがつくと予想されています。
(3)NAS(ナトリウム硫黄)電池
NAS電池は、負極物質にナトリウム、正極物質に硫黄、電解質にベータアルミナというファインセラミックス(固体電解質)を用いた電池です。
NAS電池は高温作動型の電池で、運転温度は300℃です。これは正極材、負極材など電池を構成するすべての電極物質を溶液状態に保つために必要で、そのために真空断熱容器に収容して温度を保つような構造になっています。
東京電力が日本ガイシと共同で1980年代に開発に着手して、1992年に実証実験を開始して実用化にこぎつけました。
電解質のベータアルミナは、ナトリウムイオンを通す性質を持ったセラミックスです。溶融した電極を分離するセパレーターの役目も持っていて、高温に耐える必要からセラミックスが用いられます。
単電池は円筒形をしており、中心から外側に向かって「ナトリウム、ベータアルミナ管、硫黄」の順に配置されます。単電池は1本ごとに金属容器で密閉され、内部の電極物質が電池の外側に漏洩しない構造となっています。
単電池のみの起電力は2V弱と低く、容量が小さいために多数の単電池を直並列に接続して集合化したモジュール電池として使用されます。モジュール化することで、鉛蓄電池の3倍の高容量が得られ、それによって大規模な電力貯蔵用の蓄電池として使用できます。
最初から夜間電力の貯蔵、出力変動の大きな風力・太陽光発電の出力安定化システム用の使用を目的に開発されました。高温下でのみ作動するために、運転停止までに時間がかかります。そのため頻繁な起動・停止が必要な用途には向きません。
運転開始時には電気ヒーターで運転温度まで温める必要があります。いったん起動したら保温に必要な最小限のヒーター電力を用いて、常時運転するような管理を行うことが重要です。
NAS電池の特徴はさらに次のようなものがあります。
- 自然界に豊富に存在する資源を材料としている
- 量産化によりコストダウンが可能
- 自己放電がない
- 充放電の回数は約4500回、鉛蓄電池より多くて長寿命
- 部材の耐久性も15年程度と長い
- 充放電の効率は70~80%と高く、CO2を発生しない
- 振動・騒音が少ない
- 補助的な機構や稼動のための部品が少なく、メンテナンスが容易
- ナトリウム、硫黄という燃えやすい材料を使うため取扱いには注意を要する
コンパクトで効率のよいNAS電池は、電力の負荷平準化システムに最も適しているとされており、大規模な変電所、需要家サイドの電力貯蔵システム、非常用電源システム、瞬低対策システムとして広く稼働しています。
海外でもアメリカ、フランス、ドイツ、中東諸国の再生可能エネルギーの発電設備では、NAS電池が出力の安定化と発電の変動抑制として数多く使用されています。
耐久性、信頼性、安全性の面で優れるNAS電池は利便性が高く、クリーンな系統電力を有効に活用するためにも今後ますます導入が進むと予想されています。
カーボン・ニュートラル時代をリードする企業に注目
株式市場における関連企業としては、NAS電池を開発した日本ガイシ(5333)、鉛蓄電池のGSユアサ(6674)、古河電池(6937)、鉛やニッケルの供給元としての東邦亜鉛(5707)、住友金属鉱山(5713)、発電プラントシステムの日立製作所(6501)、川崎重工(7012)、三菱重工業(7011)などが挙げられます。
いずれも「カーボン・ニュートラル」時代の技術革新をリードしてゆく企業として、おおいに注目しておきたい企業です。