日本の医療機関は機能分化が十分に進んでいない
続いては病院と診療所の性格を巡る相違点についてです。
欧米諸国では、病院と診療所はまったく別のものです。両者は歴史的に異なった発展過程を経て現在に至りました。とりわけ病床数の面で病院は規模が大きく、逆に診療所はまったく病床を持っていないというのが一般的です。
これに対して日本は、医師が開いた診療所がそのまま規模を拡大して病院となったケースがほとんどです。病院と診療所の区別があいまいのまま発展してきました。戦後すぐの1948年に医療法が制定され、「20床以上の収容施設を有するものが病院」と定義されましたが、それまで病院はあくまで診療所の一形態として位置づけられてきました。
このような設立の経緯によって、日本における「病院」は欧米のそれと比べてかなり規模が小さいのが特徴です。しかも日本は大病院、中小病院、有床の診療所、無床の診療所、というような形態がそれぞれ連なるように併存しているのが特徴です。
さらに日本の場合、病院へのアクセス面でかなり自由な状態が保持されている特徴があります。対極にあるのはイギリスで、救命救急を除いて、患者はまず診療所の総合医(GP:General Practitioner)の診断を受ける必要があり、GPの紹介状を持って病院での診療を受けることができます。紹介状がなければ受診できません。イギリスでは総合医が強い振り分け機能を持ち、ゲートキーパーの役割を担っていると言えるでしょう。
ドイツやフランスは、イギリスほど強いゲートキーパー機能を医師に持たせているわけではありませんが、日本のように患者が紹介状もなしに大病院で直接受診することはまずありません。
この例が示すように、欧米と比べて日本の医療機関は機能分化が十分に進んでいないとされています。理由として挙げられるのが、日本の病院は病床数が多い割に、医師および看護師が少ないという点が常になされています。加えて日本では、患者の平均在院日数が非常に長いという特徴もあります。
2012年のデータになりますが、人口1000人当たりの病床数は日本が13.4床で、それに対してドイツは8.3、フランスは6.3、イギリスは2.8、アメリカは3.1、と日本が断トツのトップです。
しかしこれが病床100床当たり医師の数となると、日本が17.1人であるのに対して、ドイツは47.6、フランスは48.7、イギリスは98.0、アメリカは79.9となり、病床数とは反対に日本が大きく遅れをとっています。
同じように病床100床当たりの看護師の数も、日本の78.9に対して、ドイツは137.5、フランスは131.5、イギリスは292.3、アメリカは359.4と、こちらも日本がこの中では最下位です。
病院における平均在院日数は(カッコ内は急性期病床)、日本の31.2日(17.5日)に対して、ドイツは9.2(7.8)、フランスは10.1(5.7)、イギリスは7.2(5.9)、アメリカは6.1(5.4)となっています。イギリスで出産した知人の奥さんは、出産したその日のうちに退院したそうです。日本では産後も1週間近くは入院しているのが通例です。日本の入院日数の長さがここでも浮かび上がります。
これらのデータに即して言えることは、日本の病院運営にとって医療の質の維持・向上、医療資源の効率的な配分、患者の適切な処置、などの観点から決して好ましいことではありません。とりわけ日進月歩の技術革新が進められている急性期医療に関しては特にそうです。
コロナウイルスの重症病床も含めて、急性期医療に医療スタッフを集中して集め、高度な医療技術を施すためにも医療密度を高めなければなりません。急性期の治療法と、回復期リハビリ、および慢性期リハビリは必要となる医療技術やスタッフのレベルがおのずと異なります。現在の日本の医療体制は、世界で最も進んでしまった超高齢社会の現状に即しているとはとても見えません。
社会保障制度改革を軸として財政面での改善策が常に議論されがちですが、それも大事であると十分理解した上で、並行して医療機関の機能分化の促進、在宅医療サービスの充実、介護施設の再編成、そして医師および看護師、介護スタッフの充足が何よりも求められています。
コロナ危機ではそれらの点があらためて浮き彫りになっているように思います。それこそが今回あぶり出された、現代の日本社会が抱える最も深刻な弱点のひとつと言えるでしょう。株式市場においては、医療人材紹介のエス・エム・エス(2175)、医療データサービスのJMDC(4483)、メディカル・データ・ビジョン(3902)、医師向け情報サイトのケアネット(2150)、病院での入院サポートのエラン(6099)に注目しています。