「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、円安と物価高が続く中でお金の価値を保つための「インカムゲイン投資」を考えるとともに、その方法としてのETFについて掘り下げます。
- インカムゲインとは、利息や配当金などの「保有し続けること」によって得る利益
- インカムゲインを狙う投資でETFを選ぶ理由は、分配金に元本払戻金がないこと
- 日本株に投資する、分配金利回りが3%以上のETFをピックアップ
「Sell in May」という投資の格言の通り、5月は株価も、そして天候も安定しませんでした。特にNYダウは1923年以来の8週連続の下げと言われています。一時は1ドル=130円を超えた為替も、5月下旬には127円です。
一方で、国内では物の値段は上がったままですし、逆に預金の金利は相変わらず超低空飛行。
「やっぱり、現金が一番強い!」と、読者の多くの方が思っていらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、現金が強いのは、あくまでも額面だけのこと。この超低金利の今、預金はお金を「寝かせておく」のと同じですし、むしろ物価が上がっている分、お金の実質価値は下がっていると見るべきでしょう。では、お金を寝かせずに活かして、お金の実質価値を保つには、どのような選択肢があるのでしょうか?
「インカムゲイン」を狙う投資
最近、筆者はインカムゲインを狙う投資に傾注しています。そもそも投資の世界には「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」がありますね。キャピタルゲインは売却益、すなわち「手放す」ことで得ることができる利益です。もっとも、失敗すれば売却損、キャピタルロスになってしまうこともありますよね。
そして、本稿で述べたいインカムゲインとは「保有し続けること」によって得る利益のこと。債券であれば利息、株式なら配当金や株主優待ですね。筆者は今、配当金を得る目的での投資を行っています。
株価が不安定な今、委託保証金を差し入れて信用取引といきたくもなるところですが、今は現物投資にて、キャピタルゲインよりもインカムゲインに期待しています。
配当金狙いでも分散投資。投資信託(ファンド)ではなくETF
さて、配当金を狙うには、株式の個別銘柄を一つひとつ当たりながら、配当金額・配当利回り・配当性向などをチェックするのも良いかもしれません。しかしながら、株価は不安定でもありますので、やはり分散投資を心がけたいとも思っています。また、3,000を超える個別銘柄を一つずつ当たるよりも、1本で複数の銘柄に投資できるETFに絞って当たる方が効率良く探せそうです。そこで、ETFの中から選択することにしました。
ところで、インカムゲインなら株式ではなく、投資信託(ファンド)という選択肢もあります。かつては、分配金を毎月受け取ることができる毎月決算型ファンドが一世を風靡したことがありましたね。しかし、分配金の受け取りの頻度はともかく、ファンドの分配金をもって「インカムゲイン」というのは、何気にムリがあるような気がしてなりません。
投資信託(ファンド)の分配金は、単なる一部解約に過ぎない?
ファンドの分配金をインカムゲインと言うのをムリだと感じるのは、ナゼでしょうか?
投資家から集めた資金を株式や不動産、債券などの投資資産に宛てる仕組みは、ファンドもETFも同じです。もちろん、投資家は投資資産からの配当金・家賃・利息などを、ファンドを通じて得ることができます。もしファンドの運用会社が、配当金・家賃・利息だけをそのままファンドの分配金に充てていれば、ファンドの分配金をインカムゲインと呼ぶこともやぶさかではありません。
しかし、あるファンドの運用報告書(全体版)に書かれた「分配金の計算過程」を見てみると、「配当等収益」とあわせて、「有価証券(投資資産)売買損益」の数字も含まれています。つまり、ファンドの分配金の原資には売買損益(キャピタルゲイン)もあるのです。だから、ファンドの分配金をインカムゲインと呼ぶのにはためらいがあるのです。
ところで、ファンドの分配金の原資には、なぜキャピタルゲインが含まれるのでしょうか? 理由として考えられるのは、ファンドは元々、多額の現金等を保有していないからだと思われます。
ファンドの運用会社は、投資家から集めた資金のほとんどを投資資産に宛てます。これをフルインベストメントと言い、目論見書に運用方針が記載されている場合もあります。大切なお金を、預金など現金のままで寝かせるのは「もったいない」と思うからこそ、皆さんはファンドに投資するのですから、ファンドがフルインベストメントをするのは当然ですね。
だから、投資家に分配金を払うために投資資産を売却して、現金を用意している、ということが考えらえます。これはもう、ファンドの「一部解約」と同じことですね。個別元本を下回る分配金(元本払戻金)が存在する理由でもあります。
ではETFの分配金は?
これに対して、ETFの分配金の原資は、ETFに組み込まれている株式から得る配当金のみで、売買損益は含まれていません。ETFなら、分散投資を行いながら、純粋なインカムゲインを得ることができると考えて差し支えないでしょう。ETFはファンドと違って、分配金の支払いをもって一部解約ということにはなりませんね。ですので、ETFの分配金には元本払戻金はありません。
ETFとファンドの違いとして、上場か未上場を挙げる方がいらっしゃいますが、細かなところでは分配金の原資まで異なるのですね。
日本株に投資する、インカムゲイン狙いのETF
投資の対象が日本株で、分配金利回りが3%を超えているETFをピックアップしてみました。「どこに投資をしようか」と探すのに、だいぶ数を絞ることができました。
銘柄 コード |
銘柄名 | 分配金 利回り |
---|---|---|
1698 | 上場インデックスファンド 日本高配当(東証配当フォーカス100) |
3.13% |
2566 | 上場インデックスファンド 日経ESGリート |
3.10% |
1489 | NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信 |
4.26% |
1577 | NEXT FUNDS 野村日本株高配当70連動型上場投信 |
3.67% |
1622 | NEXT FUNDS 自動車・輸送機(TOPIX-17)上場投信 |
4.20% |
1629 | NEXT FUNDS 商社・卸売(TOPIX-17)上場投信 |
4.40% |
1632 | NEXT FUNDS 金融(除く銀行)(TOPIX-17)上場投信 |
3.15% |
対象を日本株に絞ったのは、為替リスクを避け、なるべく低リスクで利回りを得たいからです。リスクを抑えながら利回りを狙う、「守りのインカムゲイン投資」です。
半世紀ほど前ですと、わざわざリスクを取らなくても、3~4%くらいの利回りは預貯金で得ることができた数字ですが、今や、住宅ローンの金利も1%を下回るものもあります。今の時代は、3%程度の利回りであっても、やはりリスクを取らないと得られない利回りと言えるのではないでしょうか?
なお、ここに載せたETFは、決して読者の皆さまに投資を推奨しているわけではありません。インカムゲインを狙う筆者自身が注目したものとして載せただけです。