「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も、前回に引き続きJ-REIT(Jリート)の考察。REITの特色である配当性向と、自己資本比率に着目します。
- REITは配当性向の高い投資商品であり、内部留保が少ないのが特徴
- REITの資金調達手段は債券と融資のため、金利の影響を受けやすい傾向
- 内部留保が少ないREITは金融危機の影響を受けやすい
オフィス街の人の数が増えたようにも感じますが、海外、特にお隣の韓国では、新規感染者が増えているのが気掛かりです。
コロナ禍前と現在とでは、何とはなしに違う世界のようにも思えてなりません。その違いが何なのかは、いまだにハッキリしません。
今回も前回に続いて、REITのお話です。
(本稿では、一般的なREITも、日本に上場しているJ-REITも、いずれもREITと表記します)
REITを6本、保有すれば
REITは利益の多くを分配金に充てるので、「高配当利回り」を期待できることは、これまでにも述べてきたとおりです。つまり、REITは配当性向の高い投資商品です。
ところで、REITの決算は半年ごとですので、決算時期の異なるREITを6本保有すれば、文字通り「家賃収入の感覚」を得ることができます。
利益のほとんどを分配金に充てる=内部留保が少ない
利益のほとんどを分配金に充てる、高い配当性向ということは、すなわちREITは内部留保が少ない、ということを意味します。利益のうち、分配金に充てられなかった額を内部留保といい、内部留保は利益剰余金として純資産、すなわち自己資本に廻ります。
別稿でも申し上げていますが、筆者は自己資本比率にこだわりを持っていますし、なかんずく、内部留保には格別の思いがあるのは、筆者の経歴ゆえです。
筆者が若かりし頃、勤めていた電鉄系の会社は(株主向けの顔はともかく)「内部留保」にこだわった会社でした。そのためでしょうか、今でも、ヤフーファイナンスの会社情報には「財務良好」の文字が載っています。
「内部留保が潤沢にあれば、会社の成長にあたり、外部から利息の付いた資金(=融資や社債)に頼る必要がなく、銀行の顔色をうかがう必要もない。内部留保は我々(=取締役)だけの判断で活かせるからだ。内部留保は返済が不要な自己資本だ」
といった趣旨のことを、その会社で頻繁に聞いていました。
REITは「利息の付いた資金調達」を行う
さて翻って、REITの場合はいかがでしょうか?
REITの場合、成長のための資金調達には、どのような方法があるでしょうか?
利益のほとんどを分配金に充てている以上、「内部留保が潤沢にある」ことは考えにくいです。代わりに、保有している物件を売却して資金調達を図る方法が考えられますが、物件を売却した分、賃料収入の減少、すなわち分配金が減ってしまう可能性もあります。
REITの成長とはつまり、分配金の金額を上げるために保有している物件の数を増やすことであり、それには外部からの資金調達を図るしかありません。
まず考えられるのが増資です。株式の数ならぬ、投資口の数を増やすことです。しかし、これは既存の投資口の価格(=株価)の下落を招くことになり、投資主(=株主)には避けてほしい選択です。
もっとも、投資口の価格が下がっても、1口当たりの分配金の額が増えれば良いという考え方もありますが、投資口の数が増えたとしても、1口当たり分配金の額が増えるとは限りません。
ということで、REITは投資法人債(社債)の発行や、融資の実行など、外部から利息の付いた資金調達を行います。
今はまさに超低金利で、払う利息は低く抑えられます。また、投資法人債の発行や融資による資金調達は、投資口の価格には直接的な影響がなく、物件の数を増やすことができるので、その結果、1口当たりの分配金の額が増えることも考えられます。
REITは株式と債券の双方のリスクを背負った投資商品?
そのためでしょうか。実は、REITは株式と同じように東京証券取引所に上場しているにも関わらず、上場していない債券(国債・地方債・社債)などと同じように金利の影響を受けやすいとも言われています。つまり、債券が金利の影響によって債券価格が変動するように、REITの投資口価格も金利の影響を受けやすいということです。
REITは、「株式と債券の中間の“ミドルリスクミドルリターン”」と紹介されることもあるようです。しかし、筆者に言わせると「REITは、株式のリスクと債券のリスクの双方を背負った投資商品」なのです。
自己資本比率が低いということは、危機にも?
そして、REITの最大の弱点は、内部留保が少ない、すなわち自己資本比率の低さです。もっともREITは「利益のほとんど」を分配に充ててしまうことが前提ですから、ヤフーファイナンスなどにはREITの自己資本比率は載っていません。
自己資本比率が少ないということは、金融危機などにも弱い、ということを別稿で書きました。
いわゆるコロナショック時の下落の度合いを資産別に比べてみると、実はREITが最も厳しくなっています。言葉を尽くして説明するよりも、如実に物語っていますね。
REITの大株主は日本銀行……だから
さて、REITの大株主は日本銀行です。図はEDINET(有価証券報告書などを閲覧できる金融庁のサイト)ですが、REITの大量保有報告書に「日本銀行」の名前が見えます。しかし、日本銀行がREITの大株主だからといって、この先も保証された投資先ではありません。
高い配当性向のREITは、確かに投資家寄りの投資商品と言えるでしょう。長く持ち続ければ、分配金の蓄積も楽しみです。しかし、日本銀行にも、長く持ち続ける意図があるのかは定かではありません。
まとめに代えて
REITは、その成長を投資法人債や融資などによる資金調達に頼り、内部留保が少ないのが実情です。
これは家計に例えてみれば、今、何かと話題の高年収カップル、すなわちパワーカップルが住宅ローンを組んで、高額なタワーマンションを購入したけれど、貯金がゼロ、というイメージです。
私はタワーマンションの購入よりも、快適に住めて、利便性が良ければ、それで良し。それよりも潤沢な貯金が欲しいです。