宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回の相談者は、定年退職を2年後に控えたご夫婦。「公的年金だけでは老後の生活費が足りなくなるかもしれない」という不安を解消するための、3つの対策をお伝えします。

  • 「ゆとりある老後」を送るには、90歳まで生きるなら2700万円不足する計算
  • 生活費の削減だけでなく、資産運用も有効。iDeCoの加入年齢は延びる予定
  • 元気な間は働くことがおすすめ。年金受給開始を繰り下げることも考える

ゆとりある老後の生活には2700万円足りない?

【質問】
60歳の定年まで2年しかありません。もらえる年金もわずかだし、定年後も夫婦で安心して過ごせるのか? いったい老後の生活に月どのくらいかかるのか? このままでは情けない老後を迎えなければならないのでは? と不安を抱えています。もしも年金だけで足りない場合、今からお金を少しでも増やす手立てはあるのでしょうか?

今回の相談は、私たちの世代の多くが不安に感じていることです。「大丈夫ですよ。何とかなりますよ」と言いたいところですが、現実は厳しいと実感しておく必要があります。

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夫婦2人の老後の生活費となると、公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2019年度)によれば、平均で月約22万円の生活費が目安とされています。ゆとりある生活となると、月額プラス14万円で、約36万円の生活費です。

平均の生活費は確かに参考にはなりますが、住んでいる場所の地域性や、持ち家か賃貸かなどによって必要な金額は大きく異なりますので、自分に適した試算をする必要があります。その前に、まずは今現在、自身の生活費がどうなっているかを把握するのが先決でしょう。生活費にいくらかかっているか、直近の家計はどうなっているのか、大ざっぱで問題ないので調べてみましょう。

老後の生活費は、一般的に現役時代に比べると約7割とされています。しかし、これは長い間続いたデフレ経済でのことで、消費者物価が上がり始め、インフレが進み始めた今後の経済では、老後の生活費は現役時代の8割超と考えるのが妥当でしょう。仮に現在月25万円で生活していれば、老後も最低20万円はかかることになります。

家計簿
今の生活費から、老後には月どのくらいのお金が必要かを計算してみる

あとは自身の年金受給額を、「ねんきん定期便」などで確認してみましょう。老後の生活費の目安と、確認した年金額との差が足りない生活費となります。相談者の年金受給額の月額は、夫婦で65歳から約19万円。月22万円の生活費が必要だとすれば、差し引き3万円の不足です。第2の人生は、平均余命を当てはめれば、年金受給開始の65歳を基準にすると男性が約20年、女性は約25年(2020年簡易生命表、厚生労働省)あります。このままでは65歳からの25年で900万円が足りなくなります。これでは老後に楽しみを得るのは難しい状況です。

さらに、ゆとりある老後の生活費を約28万円とすると、年金だけでは9万円もの不足となります。ゆとりベースでは25年で2700万円不足となります。「2000万円問題」の根拠にもなる数字ですね。これが現実なので、自分自身で自覚をして、足りないお金をどうすればいいかを考えるしかありません。

定年直前からでも始められる、年金不足への3つの対策

以上のことを踏まえて、50代後半からでもできる老後資金の対策を考えていきます。

対策1 生活費の削減

まずは一つ目、徐々に生活費を削減していくことがスタートです。ただ、これまでの生活の質を急に変えると無理が出ますので、お金のコストを中心に減らしていきます。

たとえば、自動車を買い換える場合は普通自動車から軽自動車にして、長い期間乗る。場合によっては免許証の返納も考えます。また、コンビニで買い物していたのを、ドラッグストアに変えると支出を減らせます。

軽自動車
自動車を買い替える際に普通車ではなく軽自動車にすれば、購入価格や毎年の税金を抑えることができる

対策2 投資信託などで資産運用

二つ目は、今からでも遅くありません。年金だけに頼るみじめな生活をベースにしないお金の運用をしていきます。相談者は58歳で、iDeCoやNISAは運用期間が短すぎて無理があると思われがちですが、国は「金融所得倍増計画」の一環として、iDeCoの積立期間を70歳まで延長できるようにする方針を打ち出しています。50代はまだまだこれからなのです。定年後は預金の一部を取り崩して生活費にあてながら、iDeCoなどで運用して70歳以降に備えることも充分可能です。

そして、ここでは心のゆとりを持つことをお勧めします。老後の生活費が月額28万円の「ゆとりベース」では、年金と生活費の差額が9万円、25年間では2700万円が不足することになりますが、たとえば『さわかみファンド』という投資信託(連載第66回参照)を、一時金200万円に加えて月2万円を25年間積立すると、仮に年利5%の複利運用なら、800万円が約1853万円になり、1000万円以上増えることになります(税金を考慮しない場合。月2万円の積立投資はiDeCoでも可能)。現在までの私の積立運用の実績が5.9%ですから、今後の5%も充分に期待できます。

「投資の効率」に優れたアクティブ運用の投資信託

この間に、旅行、趣味などゆとりある生活のために預金を取り崩して楽しむことが充分可能となります。一見、机上の空論に見えるかもしれませんが、お金の運用で「複利年率」の効果は資産の増加にもっとも役立つ手法です。

今回は年金受給が開始する65歳から、女性の平均余命の90歳までの期間について考えてみましたが、相談者は58歳だから32年間も運用期間があり、まだまだお金の運用ができます。悲観的にならないよう自己暗示をかけながら、運用を実践してください。

対策3 元気なうちは働く

最後、三つ目になりますが、やっぱり元気であるうちは、働くことがベストだと思います。副業もひとつの方法です。引退を遅らせれば、貯蓄の取り崩しての生活期間は短くすみます。給料もあることから、年金受給開始を遅らせることもできます。年金を繰り下げ受給できる年齢が75歳まで延長になり、受給開始時期を1カ月繰り下げるごとに受給額は0.7%増えます。受給開始を5年繰り下げて70歳から年金を受け取ると、65歳から受け取る場合の受給額より42%増えます。さらに10年繰り下げて75歳にすると、年金の受給額は84%増です。

これからは、定年後も「楽しく働きながら賢く運用する」のが一番だと思います。

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