豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第19回のテーマは「ビジネスにも役立つ美食の作法」。今回は本場フランスのレストラン事情にも詳しい松本美保さんに、withコロナ的観点からお話を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

松本 美保さんの写真

松本 美保さん
外資系船舶会社勤務を経て、仏料理学校へ。スイスの三ツ星店で見習い、帰国後フランス料理「ミクニ」や「ブノワ」で研鑽を積み、レストランPR&コーディネーターとして独立。フランス星付きシェフ ミッシェル・トロワグロやティエリー・マルクス等の都内のレストランPR、海外シェフ招聘のコーディネートに携わる。2017年より、パリに本部のある世界的な洋菓子協会「ルレ・デセール」日本事務局担当。
現在、「パーク ハイアット 京都」、フランス料理「FURUYA augastronome」、上海蟹専門店「蟹王府 日本橋店」、「YUMIHA OKINAWA」のPR担当。2022年4月からクラブ・デュ・ダスキドール会員。

コロナだからこそレストランを楽しもう!

コロナ禍の生活が続く中で、外食する機会はぐっと減りました。食べ歩きが趣味の(時に料理番組を企画・構成したり、レストランガイド本を執筆するなど仕事にもする)筆者も、ここ2年以上、たまにプライベートで利用はするものの、以前に比べたらずいぶんレストランから足が遠ざかっています。その間に、かつて足繁く通っていた店が閉店になってしまったり、業態を変えたり……といった動きもあって、コロナ禍の影響を実感しています。

一方、自粛・時短期間などの行動規制を乗り越えて、健闘しているお店も多々あって、オーナーやシェフ、またレストランの運営に力を尽くしている方々には頭が下がる思いです。

そんな中、レストラン愛の強い筆者は、アフターコロナに向けて、レストラン愛の強い仲間をもっと増やしたいなと思っていて、そこで、レストラン愛にかけては筆者も学ぶことが多い、レストランPR&コーディネーターの松本美保さんにお話を伺うことにしました。

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松本さんは、幼少期にロシアで育ち、フランス語や英語にも堪能で、ヨーロッパ人のメンタリティーを肌で理解しているコスモポリタン。脱・OL後にフランス料理を学び、スイスの三つ星レストラン『オテル・ドゥ・ヴィル』で修業もした経験があります。

その後、日本では『オテル・ドゥ・ミクニ』などの有名レストランの現場や広報の仕事などで培ったキャリアを活かして、レストランPR&コーディネーターとして独立。私たち“食べる人”にレストランの魅力を伝える仕事をしています。

松本さんはいいます。「レストランは日常とは違う空間。食事と会話を楽しむ特別な時間を楽しむのがレストラン本来の醍醐味」だと。

しかし、コロナ禍になって、感染防止の観点から黙食が奨励され、レストランから“会話する楽しみ”が消えていったりもしました。とはいえ、withコロナという新しい生活規範の中でも、レストラン本来の楽しみ方を取り戻すことは不可能ではありません

トラリピインタビュー

ワインで乾杯をする
レストランは食事と時間を楽しむ、非日常的な空間

まずはセカンドラインのお店から始めよう!

「コロナになってからは、有名フレンチのシェフが、2店舗目に気楽な店を始めたりする傾向が多くなってきましたね」と、松本美保さんは近年のレストラン業界の動向を語ります。

いわゆる気軽な“セカンドライン”の出現は、フランスでは20年程前、つまり21世紀になったころから始まった現象です。

かつて筆者もフランスの有名三ツ星『トロワグロ』をテレビで紹介する仕事で行ったとき、スタッフと食事をするときはセカンド店のブラッスリー『ル・サントラル』を気軽に利用した経験があります。

「ミシュランガイドで星を獲得するレストランは、ガストロノミーと呼ばれ、上質な素材を選びシェフの優れたテクニックと創造力が三つ巴になった美食を追究するので、当然お値段も高い高級店になります。でもセカンドラインのお店ならば肩肘張らずに気軽に利用できる店構えなので、ハードルも低くなります」と松本さんはいいます。

普段の外食は「居酒屋」一辺倒……それも楽しく気軽ですが、フランス料理は敷居が高いと敬遠しないで、「まずはセカンドラインのお店から親しんでみてはいかがでしょうか?」と松本さん。

「人気セカンド店は、既成概念を覆そうとか、従来のフレンチに風穴を空けたい、みたいな気概のあるシェフが魂を入れて料理を提供するので、とにかく『今まで食べたことがなかった美味しいものに出会った!』という感動があります。まずは、小難しいことも考えず、足を向けて欲しいですね」とも。

そう! 足を向けることからが大事。

パリのカジュアルなレストラン
パリには観光客がふらりと立ち寄れる、カジュアルなレストランも混在
写真:Elena Pominova /Shutterstock.com

身近なグルメ友だちを活用しよう!

筆者も若い頃から料理番組やレストランガイドの執筆で取材する機会に恵まれたので、気がついたら周りに美食仲間がたくさん増えたという環境にありました。でも、最初はフレンチの知識もワインの知識もなく、やはり普段行かないレストランはハードルが高いイメージでした。

誰でも最初はビギナーです。
ですが、周囲を見渡せば誰かしら“グルメ”を称する人はいるはず。
そういう身近な食べ歩きの達人にナビゲートしてもらって、いろんなレストランを体験するのはお勧めです。

お店によっては、定期的にグルメ会を開催しているケースもあって、案内をもらって参加してみるのも良いと思います。

筆者も、一時期、いくつかのグルメ会に一人で積極的に参加して、食べ歩きの達人たちと知りあった経験があるからです。いまどきは、SNS上での美食コミュニティもあるので、いろいろ活用してみたいものです。

何度か同じお店に通ったら、お店の人と意気投合して、「今度、どこか一緒に食べに行きましょうか?」ってことになることもあります。筆者もレストランの取材を通じて、広報担当だった松本さんと仲良くなって、食べ歩きのお付き合いが続いています。

松本さんもいいます。「レストラン関係者同士は、休みの日が違っていたりして、案外、一人で食べ歩いていますから、食べ歩きにお付き合いいただける方と知り合えるのは嬉しいんですよ」と。

さらに松本さんは、「コロナ禍では、オンラインが普及してリアルに人と会う機会が少なくなりました。でも、対面だからわかる人柄、築ける信頼があります。特に食事の機会を通じて、レストランでのディナーを通じて構築した人間関係は、ビジネスを発展させる上でも重要だと思うんです」といいます。

できれば、「時別な空間である高級レストラン(ガストロノミー=美食を追究する高級店)を人間関係構築に役立てて欲しい」と。なぜなら「そこで美味しい食をわかちあった思い出は、人間関係をぐっと濃厚に、そして距離を縮めてくれるものだから」……と強く勧めます。筆者もそう思います。

ビジネスディナーのイメージ
レストランで過ごした時間からビジネスが発展することも

ガストロノミーも楽しもう!

かつて、フランス料理というと、「知らないメニュー名、知らない素材、知らない調理法」のオンパレードでした。
さらにこれにワインを合わせるとなると、アウェイな感じになりますよね。

しかし、最近はテレビ、雑誌、ネット情報も豊富だし、コンビニグルメやファミレス、そして居酒屋のメニューにも、「ジビエ(猪肉や鹿肉などのゲームミート)」や「フランベ(アルコールをふりかけて炎で調理する方法)」「ロッシーニ風(トリュフとフォワグラを添えた牛ステーキ)」といった名前が登場しています。

昔は高級フレンチに行かないとお目にかかれなかった料理が身近にあるので、逆にいうとわざわざ高級レストランにいかなくてもいいか、という思いに至ってしまうかも。

でも、レストラン愛の強い筆者は、一年に数度の記念日や、何か特別なシチュエーションは、ガストロノミーなお店に足を向けて欲しいと思うのです。

松本さんもいいます。「フランス人だって、ガストロノミーな高級店には年に数回しか行かないですよ。夫婦の記念日とか家族の誕生日とか。めったに行かないけど、レストランを楽しむ文化を大切にしているのですね」と。

海辺のラストラン
年に数回の記念日でも、レストランに足を向けてみて

レストランの文化史について話すと長くなるので別な機会に譲るとしても、近代フランスで育まれたレストラン文化は、1980年以降、日本の外食シーンにも急速に浸透し、本場のフランス人シェフも一目置くレベルとまで成熟してきたので、その灯は絶やしたくないと思うわけです。

「コロナ禍の産物ですが、東京のレストランは昼の営業を止め、夜の営業を2回転にするところが出てきました。5時半からオープンして、8時半にはお客が入れ替わる感じです」と松本さん。
前半はビジネスディナー、後半はカップルのようなプライベート利用みたいな感じで。確かにコロナで家には早めに帰る生活習慣が根付いてきているので、明日に胃もたれや酔いを残さない早めのディナーはビジネス向きともいえます。

「もっとも、厳選された素材で丁寧に作った料理は消化もいいし、代謝もいいものです。それに良いワインは残らないし」と松本さんはいいます。

レストランではメニューを読むのも苦手という声も聞きますが、「日本のレストランはコースでお任せという店も多いし、ワインも料理に合わせて都度グラスワインをすすめてくれるペアリングが楽しめるお店も殆どなので、その点はあまり心配しないで」と松本さん。

そう! 苦手なもの、食べられないものだけ告げて、あとは予算を言っておすすめの素材でお任せ、という方法はアリです。
たいていのレストランはクレカが使えるからお財布の中身を心配することも無し!

「ただ、レストランの楽しみを究めていくと、やはりメニューを読んで、アラカルトから自分で選んで組み立てるのが楽しみになります」と松本さん。

筆者も自分で組み立てるのが楽しいタイプです。
食べ歩きの達人と一緒なら、助けてもらえるし、わからないことは、お店の人にどんどん質問すればいいので、案外難しくはないのです。

ただ、それぞれにアラカルトでとっても、気を利かせたつもりで、切り分けてみんなと配り合うという光景をよく目にしますが、あれはNG! 本来はマナー違反なのです(日本では見て見ぬふりですが!)。
なので、最初のうちは皆で、お任せの同じコースが良いと思います。

アラカルトから食事を選ぶイメージ
「メニューを読んで、アラカルトから自分で選んで組み立てるのが楽しみ」と語る松本さん

あと、服装も最近はファッション自体がカジュアルダウン傾向にありますが、やはりガストロノミーと呼ばれるお店行くなら、男性はジャケットを羽織ってのスマートカジュアル以上、女性なら自由にその日しかできないセンスのいいお洒落を楽しみたいものです。

最後に松本さんはこういいます。「レストランは人を幸せにする場所です。大切なのは『誰と行こう、どこに行こう、何を食べよう』なんですよね。そこをじっくり考えて、レストランでは会話を楽しみながら、ゆったりした空間と時間を過ごしてほしい」と。

レストランでの会話……それにドレスコードがあるとしたら、筆者は「ささやくようなウイスパーボイス」だと思っています。
筆者も、レストランではワントーン落として囁いています。
レストランではもともと、黙食に近い静かな会話が流れているんですよね。

松本美保さんが現在PRを担当しているお店はこちら

パーク ハイアット 京都

FURUYA augastronome

蟹王府 日本橋店

YUMIHA OKINAWA

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