テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第80回は、アニメーションの脚本家の待田堂子さん。
世の中、金じゃないだろう!
お金がテーマということで。ふと考えてみますと……。
前述の『世の中、金じゃないだろう』とか、『金で買えないものだってあるんだよ!』などという台詞を少なからず書いたことがある私です。
ですが、その言葉を聞いたり書いたりする度に、心の中ではなんとなく「そうなのかなぁ」と、首を傾げている私がいました。
……というと、「え? 何でもお金で買えると思っているわけ?」と誤解されてしまいそうですが、決してそういうわけではありません。さらに言うと愛とか友情とかはお金で買えないでしょう……という発想はそもそも私にはないのです。
何故かその台詞に真が見えない気がしていたからです。
子供の頃からそれなりに欲しいものがありました。そんな時は、月々のお小遣いの中からいくらか貯めて、お誕生日プレゼントをお金でもらうとことにしたらいくらぐらいもらえるかを妄想して、さらにお年玉の総合計予想額を計算しして、いつ頃、欲しいものが手に入るのかなどと考えて……。
社会人になってからも、欲しいものや趣味などでお金をかけたいことがあると、月々の給料の中からいくらか貯めて、ボーナスはいくらくらい出るのかを妄想して、これなら欲しいものが手に入れることができる! やりたいことができる! などと考えていました。
だからこそ、その頃までは『お金で買えないもの』の存在にぶち当たり、悔しい思いに歯がみしたり、あきらめて涙したりすることがなかったのです。
幸せだったのかもしれません。
お金で買えないものって何?
会社を辞めて脚本家になった頃は仕事がないかわりに時間は有り余っていて、それを映画やお芝居を観たり書店で時間を潰したりすることで埋める毎日でした。
そんな日々の中、映画や芝居のチケット代、全集やDVDBOXをなけなしのお金で買ったりしていました。
中には高額のものもありましたが、それでもそれを贅沢だとは思わなかったし、手に入れた時の喜びはひとしおでした。
少しずつ仕事が来るようになってからは、シナリオが決定稿になった時やシリーズが一段落した時など自分にご褒美を……それは本当に些細なものでしたが……購入したりして、それはそれで満足を得られました。
さて話を本題に戻します。
『世の中、金じゃないだろう!』……このパワーワードは今ひとつ私の心に響かない理由。
それはきっと、この言葉に真をこめて言える人って、もしかしたら、もうお金で買える欲しいものがない人なのではないかと。
だから、まだまだ小さな物欲、それも手の届きそうな欲しいものがある私には理解できないのではないかと思ったのです。
どんなにお金をかけてもいい
ですが、ある時、目から鱗が落ちる出来事がありました。
それは、ドキュメンタリー番組を観ていた時のこと。特性を持ったお子さんがいるお母様がその類い希なる特性を伸ばしてあげるために、
『お金をかけてもいいから、素敵な経験をさせてあげたい』とおっしゃっていたのです。
この言葉にはまさに真があって、『お金には変えられない何か』として、私の胸に響いたのです。
もちろん、今までもこれに類似した言葉はいろいろ聞いたことがあったのだけれど、何故かこの時ばかりは今までひっかかっていた何かがすっと心の中に落ちた気がしました。
きっと、お金とは何か? お金で買えないものは何なのか? を探すのではなく、その人にとっての価値を知るアプローチが必要だったのかも知れません。
……なんて曖昧模糊としたものに対して考えを巡らせています。
次回はつげのり子さんへバトンタッチ!
是非見てください!
10月から新番組オンエアになります。
『うちの師匠はしっぽがない』
大正時代の大阪を舞台に、人間に化けて落語家を目指す豆狸と同様に人間に化けた狐の名落語家、そんなふたりが織りなす師弟愛と落語の世界のお話です。
そしてもう一本。異世界ものです。
『農民関連スキルばっか上げてたら何故か強くなった。』
以上、お時間あったら是非、ご覧ください!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。