株式アナリストの鈴木一之さんが奥深い株式投資の世界を語る本連載。今回のキーワードは「レトルト食品」です。外出自粛期間中にも頼れる味方となっているレトルト食品の可能性とは? 注目したい関連銘柄もご紹介します。

  • レトルト食品の生産は20年で2倍以上に。流通量は日本がダントツ世界1位
  • 身近にありすぎて気が付きにくい、日本独自の発展形がほかにもありそう
  • レトルトカレーのハウス食品G本社、パウチ用素材のクレハなどに注目

外出自粛に合わせ仕入れが増えるレトルト食品

新型コロナウイルスの感染が世界中で猛威を奮っています。日本では「緊急事態宣言」が解除され、少しずつ経済活動は再開されつつあります。外出の機会も徐々に増えてきました。

それでも自宅で過ごす時間は以前よりはるかに増えています。その分、運動不足になりがちです。ささやかな運動を兼ねて、ときどき近所のスーパーに買い物に出かけます。

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もともと買い物があまり目的ではないため、じっくりとスーパーの売り場を観察することになります。最近になって気が付いたのですが、レトルトカレーの種類のなんと多いことでしょう。定番の「ボンカレー」から高級和牛、カキ、カニを煮込んだプレミアムなカレーまで、おどろくほど種類が豊富です。

カレーばかりではありません。パスタソース、おかゆ、ぞうすい。炊き込みご飯、麻婆豆腐、この辺がよく売れているようです。常温で保存がきき、調理も簡単なので外出自粛の期間中に合わせてスーパーも仕入れを増やしているようです。ちょうどよいので、今まであまり関心を持っていなかったレトルト食品について調べてみようと思い立ちました。

レトルト食品の流通量は日本がダントツの世界1位

保存食といえば、わが国にも古くから缶詰やびん詰めがありますが、飲料を除けばそれらの生産量は年々減少しています。唯一の例外がレトルト食品です。これだけが保存食品の中では生産量を年々増やしています。この20年間で2倍以上になりました。

とりわけ2011年の東日本大震災のあとは、家庭、職場、自治体それぞれで非常用の備蓄食としてレトルト食品の購入を増やしています。

レトルト食品の「レトルト」とは「高圧釜」という意味です。調理した食材をプラスチックフィルム、またはアルミ箔の袋に密閉封入して、高圧釜を使って120度以上で4分間以上、加熱殺菌した食品を「レトルト食品」と定義しています。

レトルト食品の流通量の多い国は、世界の中でも日本がダントツで第1位です。次いで韓国、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、中国などです。これらの国では自国用と輸出向けの生産が盛んに行われています。

レトルト食品を世界で一番早く製品化したのはスウェーデンです(1955年ごろと言われてます)。米国はそれに先駆けて宇宙開発用に研究していましたが、しかし欧米では今や日本ほどには普及していません。欧米の家庭は広くて、大型の冷凍・冷蔵庫を早くから備えており、気候も涼しいのでわざわざレトルト食品を買わなくても、食品の保存にそれほど困らないことがその理由として考えられています。

また調理もオーブンによるローストが一般的なので、お湯や電子レンジで温めるレトルト食品のニーズがそもそも少ないとか。それが日本やアジアでは、調理にお湯をつかって茹でたり蒸したりすることが多いので、レトルト食品を調理に使うことに抵抗が少ないようです。

500種類以上のレトルト食品、その4割以上がカレー

日本で最初に発売されたレトルト食品は、大塚食品のボンカレーです。1968年のことで、私が小学生のころでした。ボンカレーを初めて食べた日のことを今でも鮮明に思い出します。37歳だった新しもの好きの父が鍋でボンカレーを温めて、レトルトパウチの封をはさみで切って、ルウをご飯にかけて家族そろって食べました。袋の中からカレーのルウが出てくるのが不思議でなりませんでした。

いまや日本では500種類以上のレトルト食品が出回っています。中でもカレーが圧倒的に人気で、レトルト食品の4割以上がカレーで占められます。

その次に人気があるのが「つゆ・たれ」です。2010年ごろから鍋もののスープのパックがヒットし、いまも年々消費量が拡大しています。秋冬の鍋シーズンになると、ちゃんこ鍋、キムチ鍋、寄せ鍋、トマト鍋など実にバリエーション豊富にスーパーの店先に並びます。

このほかにも味の素の「クックドゥ」シリーズのような「料理用調味ソース」や、カレーに次ぐ「シチュー」も人気です。一人暮らし世帯が増えていることもあって「食肉野菜混合煮」のレトルトパックも増えています。逆に「かまめしの素」や「ミートソース」などのパスタ用ソース類はここ数年で人気が足踏みしています。

レトルト食品生産数量の推移レトルト食品生産数量の推移

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