「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回のテーマは、前回に続いてiDeCoと中年層の関係。運用した掛金を、退職後に一時金で受け取るときの課税に注目します。

  • iDeCoの一時金は退職所得控除の対象。加入期間が長いほど控除の額は大きい
  • 自営業者がiDeCoに10年間加入すると、一時金が課税対象となることも
  • 中高年からiDeCoに加入する場合は、一時金での課税に留意する必要がある

前回、iDeCoは中高年の利用者が多いということを書かせていただきました。
そこで、気になるのがiDeCoの加入期間です。

中年層がつみたてNISAよりiDeCoを選ぶ理由

なぜ、加入期間が気になるのでしょうか?

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少ない退職所得控除の額が生む違和感

iDeCoを一時金で受け取る場合、退職所得控除の対象になります。退職所得控除は勤続期間が長い方が、控除の額が大きくなります。iDeCoの場合、加入期間が勤続期間になります。

自営業者(国民年金第一号被保険者)や専業主婦(国民年金第三号被保険者)はiDeCoに加入することができるのが60歳までです。例えば、50歳でiDeCoに加入した場合、60歳までの加入期間は10年間です。

【図表】退職所得控除額の計算の表
勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円 × A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (A – 20年)

※iDeCoの場合、加入期間が勤続年数に当たります。1年未満の端数は1年に切り上げます。
なお、勤続(加入)20年超の場合、以下の計算式でも退職所得控除額を算出できます。
70万円 × 勤続年数 – 600万円

iDeCoの一時金への課税……自営業者の例

加入期間が10年の場合の退職所得控除は、400万円(=40万円×10年)です。
一方、自営業者のiDeCoの掛金は年間816,000円が上限で、10年続けると掛金の総額は816万円(=816,000円×10年)になります。iDeCoには手数料も掛かりますので、「プラスマイナス(=損益)ゼロ」はあり得ないのですが、ここではプラスマイナスゼロだったとして、一時金の額が816万円とします。
816万円から退職所得控除の額400万円を引いた416万円の、2分の1の208万円が、退職所得として課税対象になります。

また、掛金の総額が816万円だったとして、40%の損失が生じ、受け取った一時金が489.6万円だとしましょう。この場合、489.6万円から退職所得控除の400万円を引き、89.6万円の2分の1の44.8万円が退職所得として課税対象となります。

これには違和感がありますね。投資の世界では、プラスマイナスゼロかマイナスの場合には課税が生じないはずです。しかし、先述のような条件が揃うと、プラスマイナスゼロや損失(マイナス)にも関わらず、課税が生じるという矛盾が起きるのです。

iDeCoの一時金への課税……専業主婦・専業主夫の例

一方、専業主婦・専業主夫の場合、iDeCoの掛金の上限が年間276,000円ですから、同じく10年間の掛金の総額は2,760,000円ということになります。退職所得控除が400万円ですから、(本来あり得ない)プラスマイナスゼロだったとしても、276万円-400万円はマイナスですので、課税は生じません。そればかりか、40%の利益が生じても(276万円×140%=386.4万円)退職所得控除の額を下回っていますので非課税なのです。

もともと掛金の上限が低く設定されているサラリーマンや主婦など(共に年間276,000円)や公務員(144,000円)でしたら、50歳で加入し、加入期間が10年と短期間になることにより、退職所得控除の額が400万円になることに問題はないのかもしれません。

サラリーマン
会社員や公務員が50歳になってからiDeCoに加入した場合、一時金の額が退職所得控除を大きく上回る可能性は低い

悩ましい自営業者

ですが、自営業者は掛金の上限が816,000円と大きいので、加入期間が10年だと退職所得控除の額が実質的に小さくなってしまうことに留意する必要があるでしょう。特に自営業者は厚生年金保険がないので、iDeCoは老後資金準備として期待が大きいでしょうし、掛金が全額所得控除の対象という点も魅力です。しかし、自営業者が中高年になってからiDeCoに加入すると、皮肉なことに入り口(掛金)で節税が実現したとしても、出口(一時金受取)で課税されてしまうことになりそうです。

ではiDeCoは一時金ではなく、年金で受け取った方が有利なのでしょうか? 別の機会に考えてみたいと思います。

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