「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、積立投資の手段のひとつであるiDeCoと「中年層」の関係について見ていきます。

  • 20代・30代はつみたてNISAを、40・50代はiDeCoを選ぶ傾向
  • 中年層にとってiDeCoは「ゴール」が近く、払い込む掛金が少ないのがメリット
  • 若年層にとっては投資の中断や売却が自由なつみたてNISAの方が使いやすい

積立投資をするならiDeCo? つみたてNISA?

皆さん、こんにちは! 年末年始は、いかがお過ごしでしたか? 昨年暮れは日銀によるサプライズ利上げがありましたね。そんなサプライズにも動じないのが積立投資ですが、本稿では積立投資をするなら、iDeCoとつみたてNISAのどちらを選ぶかを考えてみたいと思います。

ローコストで積立投資ができるつみたてNISA

さて、「積立投資なら、iDeCoとつみたてNISAのどちらを選びますか?」というお話です。もちろん、両方を行うのもありだと思います。が、日々の家計や将来のライフプランニングなどを踏まえると、「どちらかに絞りたい」という方もいらっしゃるでしょう。今回はそんなお話です。

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中年はiDeCoを選ぶ傾向が高い?

【図表1】iDeCoとつみたてNISAの年代別加入割合
つみたてNISA iDeCo
10歳代 0.0%
20歳代 19.6% 6.3%
30歳代 28.8% 22.8%
40歳代 24.8% 37.2%
50歳代 16.8% 33.6%
60歳代 7.2% 0.0%
70歳代 2.4%
80歳代以上 0.4%

出所:金融庁「NISA口座の利用状況調査」(2022年6月末時点)、運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料」(2022年3月末)

時期も発表元も異なりますので、一律に比べるのはムリがあるかもしれませんが、つみたてNISAとiDeCoの年代別加入割合の比較を試みました。つみたてNISAは(現状では)20歳以上で年齢の上限はありませんが、70歳と80歳代以上を合わせて3%近くを占めているのには驚きです。失礼ながら、このご年齢ではつみたてNISAは向かないような気がします。また、NISAもつみたてNISAも、相続に当たり有利な制度が設けられているわけではありません。ですので、お子様やお孫様の将来を慮って、ということでもないと思うのですが。私も、将来、老後になってもつみたてNISAを続けることができるくらいの経済的なゆとりと健康が欲しいものです。

さて、年代別加入者割合を比較すると、20歳代と30歳代の若年層ではつみたてNISAの方が多いですが、40歳代と50歳代では逆転し、iDeCoの方が割合が高くなっています。iDeCoは40歳代と50歳代で全加入者の70%を超えていますし、さらに50歳代に絞ると、つみたてNISAに比べてiDeCoの方が17%近く、加入者全体に対する割合が高いことが分かります。

止めることができないiDeCo

iDeCoで気を付けなければならないのは「60歳になるまで掛金を払い続けなければならない(=60歳になるまで掛金の支払いを止められない)」ことと「60歳になるまで、iDeCoにある資産(資金)を引き出すことができない」、そして「最低でも10年間は掛金を払い続けなければならない」の3点です。

これら3点が大切なのは、2020年のコロナ禍で身を持って知りました。個人の事情ではなく、社会的な事情で仕事がなくなり、収入がなくなってしまう方もいました。例えば、住宅ローンなら返済のリスケジュールを相談することができるでしょう。2020年に限っての措置でしたが、生命保険では払込猶予の期間を拡大しました。そんな時でもiDeCoは、何が何でも掛金を払い続けなくてはならないのです。

なぜ、50歳代でiDeCoの加入者の割合が多い?

先述の3点と、50歳代と、どのような関係があるのでしょうか? 50歳代といっても、その事情は様々です。子育て酣(たけなわ)と言う方は、教育費が嵩んでいらっしゃるかもしれません。住宅ローンにお悩みの方もいらっしゃるでしょう。中には独身を謳歌している方も。

このように様々な50歳代も、実はiDeCoを始めやすい環境があります。それは「60歳」というゴールが近いことです。これは筆者の憶測に過ぎませんが。では「60歳がゴール」とは、どういうことでしょうか?

50代男性
教育費や住宅ローンに追われる50代にとって、iDeCoは比較的始めやすい

iDeCoに必要な時間は最低10年間、掛金の合計額は最低60万円……50歳なら

iDeCoを何歳から始めようとも、60歳から受け取るには、少なくとも10年以上の掛金の払い込みが必要なのは先述の通りです。そして、iDeCoの掛金の最低額は月額5,000円です。つまり、iDeCoを60歳から受け取るためには、最低でも60万円の掛金の払い込みが必要なのです。
(5,000円×12か月×10年間=60万円)

ということで、iDeCoの掛金の払い込みを50歳で始める場合、60万円を用意しておけば、先述のように「社会的な事情で仕事がなくなり、収入がない状態」に一時的になったとしても、掛金の払い込みを続けることができると考えられます。

ところが、これが30歳の場合ですと、30年間という時間とともに、60歳まで掛金を払い続けると、少なくとも180万円が必要になります(5,000円×12か月×(60歳―30歳))。30年間とひと口に申し上げますが、「30年分の掛金の180万円の準備だけしておけば良い」だけと言えるのでしょうか? 30年もの長きに渡り、社会的な事情も含めて平穏無事に、また計画通りに過ごせる保証はありません。

なお、iDeCoを受け取る年齢が60歳を超える場合、掛金の払込期間は10年未満でもOKです。例えば、受け取る年齢が63歳の場合、掛金の払い込みは4年以上6年未満でOKですから、59歳から掛金の払い込みを始めれば良いことになります。払い込む掛金の最低額は24万円(5,000円×12か月×4年間)です。こうした点も、「iDeCoを始めるなら50歳代の方が有利」と言える理由でしょう。

【図表2】iDeCoの受け取り開始可能年齢と最低払込期間
受け取り開始
可能年齢
60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳
必要な通算
加入者等期間
10年以上 8年以上
10年未満
6年以上
8年未満
4年以上
6年未満
2年以上
4年未満
1カ月以上
2年未満

iDeCoを始めるなら50歳代……しかし何のための積み立て投資か?

50歳代はiDeCoの「受取開始」の年齢である60歳というゴールまでの「時間の短さ」と、「払い込む掛金の合計額が少ない」という2点が有利だと言えます。これら2点が、50歳代の方のiDeCo加入のハードルを下げていると言えるのではないでしょうか?

しかし、お気付きの通り、これでは何のための、何を目的にした積立投資なのか、疑問が残ります。(もちろん、iDeCoは積立投資の一つです)。積立投資は「時間を利用した投資」とも言え、時間が長ければ長い方が有利です。しかし、iDeCoは「(ゴールまでの)時間が短い方が有利」なのです。

若い人はiDeCoよりもつみたてNISAの方が

つみたてNISAの積立額は100円でもOKという金融機関もあります。つみたてNISAは積み立て投資を一時中断したり、再開したり、また売却の時期についても制限はありません(非課税期間が設けられているだけ)。そういう意味では、つみたてNISAは「これから」の時間が長い20歳・30歳代の若年層に向いた積立投資だと言えるかもしれません。

若い女性
若年層にとって、掛金の支払いをやめられず途中で引き出すこともできないiDeCoより、そうした制限がないつみたてNISAの方が使いやすい

まとめに代えて

iDeCoとつみたてNISA、もちろん両方を行うのもありです。が、どちらを行うにせよ、積立投資は「長く続ける」ことが前提です。しかし、何よりiDeCoは一度始めたら、60歳まで何が何でも続けていくしかありません。しかも、掛金の最低額は5,000円です。お若い方は結婚、住宅取得、子育て、場合によっては両親の介護などのライフイベントが目白押しです。それに加え、いつ、新型コロナ感染症のような社会的な事情が生じるかも分かりません。iDeCoは慎重に検討した方が良さそうです。

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