宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回も、「使えるお金が減っている」と嘆く男性会社員を対象に、税金や社会保険料を引かれる毎月の給与の中で「使えるお金」を少しでも増やすにはどうすればいいかを考えます。
- 給料の中で使えるお金は減っていく。共働きも税金対策のひとつ
- 使えるお金を増やすには、給与から差し引ける控除をいかに増やすかがポイント
- iDeCoは「小規模企業共済等掛金控除」の対象になるので、ぜひ活用したい
“使えるお金”が年々減っていく厳しい現実
【質問】
毎年じゃけど、新年度になるたびに給与明細を見るのが怖くなります。使えるお金が減っている気がするわ。お昼はワンコインで済ましています。お金が減ってると思うのは僕の錯覚なんでしょうか?
前回、ある男性の会社員が仕事で稼いだお金の明細書を見ながら、その中で実際に使えるお金はどうなるのかを検証していきました。
前回見ていただいたように、各種手当込みの総支給額から所得税、住民税、社会保険料(雇用保険料、厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料)を引かれると、手取り額(使えるお金)は限られること、さらに使えるお金は毎年のように減り続けていることが分かったかと思います。
額面年収(総支給額)が増えれば増えただけ税金も増えていく累進課税の制度によって、働く気持ちの根源である「出世してお金を稼ぎたい」という願望が妨げられている感は否めません。
仮に夫婦2人世帯の給与で、ご主人一人で年収768万円の場合と、夫婦二人が別々に年間384万円ずつ稼いだ場合を比較してみると、別々に稼いだ方が手取り額が、つまり夫婦で使えるお金が263,760円も多くなります。一人の稼ぎが増えるだけ負担も増える。これが累進課税の仕組みで、月にして21,980円も差が出るという驚きの事実です。
共働きによる所得の分散で税金対策しましょうというのはこういうことです。「上を目指すよりも安定を図る」というわけです。働いている企業に対して、所得の調整をお願いします……というわけにいけません。全ての国民がそう言い出して、企業や国が要求に応えていたら、税収不足は進行していくだけです。
そして最後の最後に、預金以外のお金は消費に回すのですから、消費した分に対して消費税10%が待っています。そう考えると、使えるお金は思った以上に少ない。
「これでいいの?」「しょうがないの?」いえいえ、諦めないでください。
そこで今回は、「給料の中で使えるお金」から、「残せるお金」をどれだけ増やせるかを考察していきます。少しでも不安要素を払拭できればありがたいです。
iDeCoは「小規模企業共済等掛金控除」の対象
前回は給料の仕組みについて話しました。「給与の中で使えるお金」を確保するには、「給与から差し引けるもの」(控除)を多く引き出すことが先決となります。差し引けるものの代表格が通勤手当、雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料となります。そして最後に、総支給額から控除を引いて、源泉徴収される元の金額が確定されます。いかに総支給額から控除を減額できるか?にかかってきます。
これらの控除とは別に差し引けるものはないか?と考えたとき、該当する控除には家族環境で決まってくるもの(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、寡婦・ひとり親控除、勤労学生控除、障害者控除)と、生活の基盤を守るもの(生命保険料控除、地震保険料控除)があります。そして住宅を購入してローンを組んだ場合の控除(住宅借入金等特別控除)もあります。
これらは年度末に、給与担当者に各種の申告書を提出して、あらかじめ源泉徴収されている税金が正しいかを確認したうえで12月~1月の給与で調整されます(年末調整)。
この結果、税金の払い過ぎがあれば還付金があります。逆に不足があれば、追加で税金を払う場合もあります。会社員は、税金の減額につながる控除があるのが一般的です。少額ではあるのですが、使えるお金を増やす手立てはここしかありません。細かくいえばほかにもさまざまな控除がありますが、今回は年末調整を基準に考えていきます。
皆さんもご存じの、代表的な控除である生命保険料控除は、いくら保険料を払おうと最大で年間12万円しか控除できませんが、最近では「小規模企業共済等掛金控除」という、聞きなれない控除を耳にすることも多くなっています。
その控除の対象は、
- 小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金
- 確定拠出年金法の企業型年金加入者掛金及び個人型年金加入者掛金
- 条例の規定により地方公共団体が実地する心身障害者扶養共済制度に係る契約で一定の要件を備えたものの掛金
とあります(国税庁ホームページ)。
ここで会社員であれば、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金が控除の対象となっているのにお気付きでしょう。会社員であれば、iDeCoで最大月額23,000円(年額276,000円)積立できます。
ご主人一人で年収768万円を稼いでいる場合、課税所得は約426万円となりますが、iDeCoの掛金の276,000円が控除され、課税所得が398.4万円に減額されます。iDeCoによる税負担軽減額は、
276,000円 × 所得税・住民税合計税率(30%)= 82,800円
となり、82,800円も手取り額が増えました。小規模企業共済等掛金控除は、特に課税所得が多い人ほどメリットが増しますので、これは是が非でも活用すべきです。
将来のために貯めるお金をiDeCoに回す
結論として、会社員ができる手取り額の増やし方は、「額面収入の所得控除後の所得から差し引ける金額」を増やすことしか方法はありません。そうした観点で考えると、お金を貯めるなら銀行などで預金をするより、確定拠出年金のように「自分年金」に特化した方が、今使えるお金を増やすためにも断然に効率が良いと自覚してください。
控除といえば、本来は一年間に使ったお金に対する対価ともいえるのですが、「積み立て」に対する唯一の対価が小規模企業共済等掛金控除です。これは小規模企業の経営者や役員の方が、廃業や退職時に自分の生活を守るためにお金を積み立てる制度であり、個人にとっても将来の年金積み立てを促す制度でもあります。今一度、iDeCoなどを通じてこの制度を活用することを推奨します。
次回は、さらに次のステップとして、「給料の中で使えるお金」から、確定申告によって「使えるお金」を増やす工夫について考えていきます。