テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第124回は、前回に続き日本放送作家協会理事長の内村宏幸さんの後編。
「アンビリーバブル!」なリアクション
前回からの続き。脚本を手がけたNHKのコント番組「サラリーマンNEO」が国際エミー賞コメディ部門にノミネートされ、授賞式前にノミネート4カ国が参加したメディアカンファレンスの場で、日本チームに質問が来て番組の制作費の話になった時の事です。日本の代表者がおおよその金額を伝えると、なぜか他国の制作者たちからは、全く予期しなかったリアクションがあったのです(先に進む前に、ここからの話は、すべてが事実ではなく、あくまでも僕が自分の耳で聞いて解釈した事で、決して当事者に事実を確認したわけではない、という事を断っておきます)。
日本でのコメディ番組の制作費を正直に打ち明けると、周りからいろんな声が上がりました。
「リアリー?」
「オーマイゴッド」
「アンビリーバブル」
正確にそう言ったかはわかりませんが、両手を広げ肩をすくめる、あの独特のポーズが確認できたので、たぶんそんなニュアンスだったのだと思います。
すかさず司会者が、「他の国はどんな感じなんだい?」みたいに投げかけると、各国制作陣が答えたわけですが、そこで驚愕の事実が明らかになったのです。
どうやら、日本とは一桁違うらしい、という事。
衝撃でした。愕然としました。
しかし、この件は断りを入れたように、各国制作者に確認をしたわけではなく、会場は意外に人が多く、僕はかなり離れた位置からその様子を見ていて、マイクの調子も悪く通訳者の声が聞き取りにくかったので、事実かどうかハッキリはしていません。でも、僕の耳にはそう聞こえたのです。
「いくら桁が違うとはいえ、NHKの番組のセットはそれなりに立派で、民放のそれよりも豪華な時もあるんだよ」と、自分を慰めてみましたが……ただただショックでした。
一桁違う制作費なのに……
ショックだったのは、桁違いだけではありません。同時にノミネートされた他の国(ヨーロッパや南米)のコメディ番組を事前に拝見したわけですが、その中には、たとえば、座ろうとする人に気づかれないようにイスをそっとどかし、座ろうとした人が床に尻餅をつく、そんなネタを連発する作品もあって、一桁も違う制作費があるのに…………これ以上はグッとこらえます。
でも、僕は信じたいと思います。自分たちがここまで作り上げてきたことは決して間違ってなかったんだと! 日本の笑いは世界に出しても何ら恥ずかしくないレベルなのではないか!という事を。
とは言え、これはあくまでも作り手側である僕の主観であり、笑いには正解はありません。それをどう判断するかは、これを読んでいる方にお任せします。お客さんが面白いと思えば、それが正解なのです。
そして、世界のコメディ事情を垣間見る事が出来たこの時の体験によって、日本の笑いがどこまで世界に通用するのか試してみたい、そんな考えも芽生えて来て、この時からいろいろと道筋を模索して来ました。
残念ながらまだその活路は見出してはいません。しかし、最近では、「とにかく明るい安村」くんが、世界への道を切り開こうとしています。日本の笑いを世界に広めたいという思いは、引き続き心に秘めていたいと思います。
最後に強く言いたいのは、制作費が少ないから面白いものが出来ない、そんな事は決してないのだということです。でも、それでも、多いに越したことはないのです。
次回は谷口雅美さんへ、バトンタッチ!