世界のサステナブル投資をリードするBNPパリバ・アセットマネジメントは、多様な制度や枠組みの整備が進み大きく進展を見せる一方で、懐疑的な見方や逆風も指摘されるESG投資をどう見ているのでしょうか? サステナビリティを長期のメガトレンドと捉えたうえで、将来に向けた課題と、今後進むべき道を提示します。
(本記事は、BNPパリバ・アセットマネジメントと協力し、全3回の記事として構成したものです)

ESGを後押しする規制と金融機関が果たすべき役割

5 生物多様性への広がり

生物多様性に関連した金融商品に集まる注目

生物多様性の喪失は、前例のない経済的損失をもたらす可能性があります。世界経済フォーラム(WEF)は、世界のGDPの半分以上に相当する44兆米ドルの経済規模が自然とそのサービスに依存していると推定しています*1。一方で、投資家の需要に応える形で、生物多様性に関連した投資商品への注目が高まっています。

こうした傾向は今後加速する可能性があり、生物多様性に関連した商品の市場規模は2019年の40億米ドルから、2030年までに930億米ドルに達するとの予測もあります。自然を保護するための資金調達のギャップを埋めるために、国連では生物多様性クレジット*2といった新しい金融ツールの活用も提唱しています。

生物多様性が及ぼす影響やリスクの測定が重要に

また、2022年には気候変動に関する共同イニシアチブ「Climate Action 100+」にならって、生物多様性の共同イニシアチブ「NatureAction 100」*3も発表されました。このイニシアチブは、投資家が自然喪失を引き起こしているセクターの企業にエンゲージメント*4を行うことに焦点を当てています。

生物多様性リスクへのエクスポージャー測定*5をサポートするために、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)*6はその枠組みを開発しています。金融機関は自然関連のリスクを戦略計画やリスク管理、資産配分の決定に組み込むことができるようになることが期待されます。TNFDによる情報開示項目に関する提言の公表は、2023年9月に予定されています。

投資家にとって、自然関連の依存関係やリスク、インパクト、そして投資機会を測定・管理することはますます重要になっています。投資家の注目という点でも、生物多様性が気候変動に追いつきつつあると言えるでしょう。

*1 World Economic Forum,“Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy,” January 2020

*2 生物多様性クレジット……生物多様性にプラスの利益をもたらす活動に資金を提供するための手段。排出権取引と同じように、金融商品の形で取引されることを想定しています。

*3 NatureAction 100……2022年12月の国連生物多様性条約締約国会議(COP15)で投資家グループが発表した、企業に対して生物多様性の確保を推進させることを目的とするイニシアチブ。

*4 エンゲージメント……金融用語のエンゲージメントとは、投資家が投資先の企業に対して行う、企業価値の向上などを目的とした働きかけのこと。

*5 エクスポージャー測定……特定のリスク要因にさらされている資産の割合を測定すること。

*6 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)……企業や金融機関が、自然環境の変化や生物多様性に関する影響やリスクについて情報開示を行うための枠組みを構築するための、国際的な組織・仕組みのこと。

6 インパクト測定は将来の課題

サステナビリティへの投資が社会に与える実際の影響

投資がどのようなインパクトを与えうるのか、また与えるべきなのかについては、いまだに議論が続いているものの、こうした投資に対する需要の大きさは明確になっています。

当社では、企業レベルやポートフォリオレベルでのインパクトを測定する方法が進化すると確信する一方で、資産運用会社としても業界全体で運用している何兆もの資産が与えるインパクトを測定し、運用していくことを模索すべきであると考えています。

インパクト測定への動きとしては、「インパクト投資の運用原則(Operating Principles for Impact Management)*7」の開示文書への署名・報告が挙げられます。また、当社においても、2022年6月に公表した「サステナブルへの回帰~検証:当社のポートフォリオにおける生物多様性フットプリント~」などを通じて、インパクト測定の方法を模索しています*8。SDGsへの貢献という点でも、SDGsと企業収益との関連性を把握するためのデータの質向上に取り組んでおり、将来の発展性が期待される分野と言えるでしょう。

*7 インパクト投資の運用原則……インパクト投資とは、利益を追求しながら社会や地球環境への好影響を生み出す投資のことで、サステナブル投資とも親和性が高い投資といえます。インパクト投資の運用原則とは、2019年に導入された、インパクト投資市場の透明性や信頼性を高めるための国際的な枠組みのこと。

*8 BNPパリバ・アセットマネジメント「サステナブルへの回帰~検証:当社のポートフォリオにおける生物多様性フットプリント~」2022年8月29日

7 スチュワードシップ

サステナビリティへの姿勢や行動も資産運用会社が選ばれる基準

年次株主総会での議決権行使、企業との対話、公共政策などの企業や社会に変革を促しうるスチュワードシップ活動*9は、ここ数年で著しく関心が高まっています。こうした関心によって、運用会社はどのようにスチュワードシップを実践しているか、より詳細に調査されることが予想されます。

たとえば、気候関連の株主提案に賛成しているかどうか、そうした提案を自ら行っているか、あるいは企業の義務的な気候情報開示の導入に関する業界のコンサルテーションに回答しているか、回答している場合は何を支持し、その理由は何か、といったことまで精査されるようになると考えられます。

今後は、運用会社がどのように議決権を行使し、建設的な目的を持ってエンゲージメント(企業への働きかけ)を行うかが重要であり、そのアプローチは、最終投資家が運用会社を選択したり、解約したりする際に、ますます影響を与えるようになると思われます。

気候関連の問題はすでに多くの決議の中心トピックとなっていますが、多様性や包摂性といった社会的なトピックにも対象が広がっていくことになりそうです。

*9 スチュワードシップ活動……機関投資家(資産運用会社や保険会社、年金基金など)が、投資先の企業に対するエンゲージメント(*4)を通じて、機関投資家の顧客(資産運用会社においては、投資信託を購入した個人投資家など)の利益を拡大させるための活動。

8 おわりに

サステナブル投資は「社会を変えるという信念」が重要

以上述べてきた通り、ESG投資・サステナブル投資は長期的なトレンドであり、足元でESG投資の停滞や逆風があったとしても、逆戻りするものではないと思われます。そして、運用会社には、長期にわたってより持続可能な社会・経済をつくることに向け、資産配分と影響力を駆使する責任があると考えています。

運用会社がネットゼロ*10の達成や自然への影響低減、多様性の向上といったESG要因のパフォーマンス向上を企業に求めることにフォーカスするのであれば、自社内においてもこうした目標が優先されるのは当然です。資産運用会社が率先して環境問題に対応し、多様性と包摂性(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進、地域社会への働きかけといった取り組みを通じて「有言実行」を伴うことも欠かせないでしょう。

ESG投資やサステナブル投資は単なる投資手法ではなく、社会を変えるという信念を持っているかどうかが重要です。これまで述べてきたような論点でサステナブル投資が進化していくことで、サステナブル投資自身が守られ、発展していくことになると考えています。

*10 ネットゼロ……CO2などの温室効果ガスの排出量から、大気中から吸収・除去される量を差し引いた合計がゼロ以下になるのを目指すこと。2015年に策定されたパリ協定では、2050年までのネットゼロを目標としています。

【著者紹介】

土岐大介

土岐大介(とき・だいすけ)
BNPパリバ・アセットマネジメント株式会社 
CEO・代表取締役社長

米国ケース・ウエスタン・リザーブ大学にて修士号取得(オペレーションズ・リサーチ)、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科博士後期課程単位取得退学。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント代表取締役社長、ドイチェ・アセット・マネジメント代表取締役社長を歴任するなど、金融業界で30年以上の経験を持つ。現在、一橋大学大学院および筑波大学大学院の客員教授を兼任。日本ファイナンス学会理事も務める。

藤原延介

藤原延介(ふじわら・のぶゆき)
BNPパリバ・アセットマネジメント株式会社 
投信営業本部 部長

慶應義塾大学経済学部卒業。サステナブル投資を中心としたマーケティング・コンテンツを構築している。ロイター・ジャパン、ドイチェ・アセット・マネジメント、アムンディ・ジャパンなど20年超にわたりリサーチ・投資啓蒙に従事。