テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
9月18日に創立64年を迎えた日本放送作家協会。
連載第143回は、ペンネーム(PN)陣達也でSF冒険小説『竜を撃つもの』シリーズをKindleで出した、フリーライターの岩崎訓さん。
そうだ、Kindleで出そう
自分の作品を世に出したい。オリジナル作品を本にしたい。
物書きなら、誰もが思っていることではないでしょうか。
小説投稿サイトで発表したこともありますが、あの界隈はとっくにレッドオーシャン化している上、まめにコメント書いたり、巡回したりが必要だったため早々に撤退。
マンガ原作として売り込みもしましたが、モノにはならずションボリ……。
そんな時、友人から「Kindleで作品を出したよ」と連絡がありました。
そうだ、Kindleがあったじゃあないか。
ちょうど前の仕事が終わっていたこともあり、自作の小説『竜を撃つもの』シリーズをKindleで出そうと決意しました。2019年のことです。
Kindleでは、Wordや一太郎などで作成した文書をそのまま電子書籍になります。
書いたままが本になる。一見、よいことに思えますが、実はこれがクセモノ。
Word、一太郎で使用されている標準フォント──「MS明朝(標準)」というアレです。あれって、どうも版権フリーではないらしいのです。
つまり、出版した後でマイクロソフトなどから「版権払えや」と請求される可能性があるということ。
フォントに版権があることは知っていましたが、まさか標準フォントが版権フリーではなかったとは……。
なんという罠! フォント困ったぁ!
などと呟きつつ、実際に請求された事例があるのかと調べると……「無料配布はOKっぽいが、商売に使うと請求されるかも?」程度の情報しかない。
これは、君子危うきに近寄らずで、版権フリーのフォントを用意したほうがいいな。
というわけで、フリーフォントが入っている『一太郎2020プラチナ』を購入。
やはり小説などの縦書き、長文はWordより一太郎のほうが良いですからね!(※個人の感想です)
なんやかんやでKindleで出す小説を書き上げました。
次はKindle用にファイルを変換し、Kindleプレビュアーで内容を確認します。
このKindleプレビュアーというのは、その名の通り、Kindleで発売された作品がスマホやタブレットなどでどう表示されるかを見るアプリです。
しかしこのアプリ、プレビュー機能しか無い。
ルビ、オリジナルと異なるページのズレ、誤字脱字(あんなに念入りにつぶしたのに!)などの問題を見つけても、それを修正できない。
修正するには、元の一太郎ファイルを開いて修正し、それをまたKindle用のファイルで保存して、プレビュアーで確認する。その繰り返し。そしてPCのごみ箱にKindleのファイルがたまってゆくと……。
この辺り、紙の本のゲラ刷りと同じだなあと思ったり。
Kindleの謎ルールに困る
Kindleで自分の小説を出すと決めた時から、販促用にお試し無料版(短編)も一緒にと考えていました。
ところが、Kindleには販売価格を99円以下にはできない、というルールがあったのです。マンガは価格0円で出せるのに……謎です。
例外はプライスマッチ。
これは、他の電子書籍サイトで出したものと同じものをKindleで売る場合、その値以下にしなればならない、という制度のことです。
つまり、同業他社で無料版を出しておけばいいんだな。
そんなわけで、先に楽天Koboで出して、Kindleでは価格を99円に設定し、プライスマッチの申請。やっとお試し無料版を出すことができました。
しかしKindleは「著者に断りなく、価格を変えることができる」権利?がありまして、仕様変更やキャンペーンがあると、無料のはずのお試し短編が99円になっているということが起きます。
その度に、運営にメールを出してプライスマッチの申請を……という、手間がかかり続けます。
無料のために手間とは、皮肉というかなんというか……。
2021年10月くらいに、Kindleでペーパーバックを出せることになりました。
おお、これで友人たちに紙の本で配れるな! ほほう、価格の試算もできるのか、こういうところはさすがだよな…と、試算してみて愕然!
300頁で、電子と同じロイヤリティを確保しようとしたら価格は約1,800円! ハードカバーの値段だよ?
……ペーパーバックって何だっけ?
※2023年、諸物価高騰のため、ペーパーバックの価格は更に上がっているようです。
2021年夏までに、『竜を撃つもの』シリーズを4作品+お試し無料版を出すことができました。
かかった費用は表紙のイラストとタイトルロゴのデザイン料だけ。友人に頼んで格安にしていただきました。
やはり自分の書きたい作品を、好きに書いて発表できるというのは良いものです。
売れ行きのほうは……アレですが(苦笑)。
そういえば、1冊だけドイツで売れたことがありました。
在住邦人の方でしょうか? 地球の裏側で買ってくれた人がいた、というのはちょっと感動ものです。
そのうちまた電子書籍で作品を出してみたいものです。
次回は梅田みかさんへ、バトンタッチ!
是非読んでください!
ペンネーム陣達也で『竜を撃つもの』シリーズ、Kindleにて販売中。
ハイテク文明が崩壊した世界、レストアしたゼロ戦でドラゴンに立ち向かう少年少女たち。その戦いと困難な恋愛を描くSF冒険小説です。
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。