700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第180回は、バングラデシュで俳優活動する長坂一哲さん。

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世界一の親日国

長坂一哲さんの写真
長坂一哲
俳優

ある日、新宿の居酒屋でたまたま隣に座った初対面の会社員の方と会話をしているとバングラデシュに転勤すると言われた。調べてみると日本と、国旗のデザインが一緒で色違いだった。そこに凄く興味が湧いた。一体、どんな国なんだろうか? バングラデシュという国は聞いたことあるけどよく知らない。そんな認識だったが、実は日本をリスペクトして似た国旗にした世界一の親日国と呼ばれる国だった。

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行ってみたいなぁ。実際に自分の目で見てみたい。私は2022年11月バングラデシュに旅行した。まさかその10日間が私の人生観を変えるとは想像していなかった。大きなビルが立ち並ぶ首都、自然豊かな田舎、繊維や皮の工場、病院、世界最大の船の墓場、学校、スラム街と様々な場所を訪問。全ての場所に共通するのは生き生きとしたエネルギー、素敵な笑顔、活気に溢れていた。

訪問先の一つスラム街の出来事をお話します。青空教室に同行。ストリートチルドレンと一緒に遊んで、手を繋ぎ街を歩いた後、主宰者の日本人にどうでしたか?と言われた時、私は何と言っていいか分からなかった。言語化できない感情で私の中の何かが爆発した。

長坂一哲氏とバングラデシュの子どもたち
生のココナッツジュースを飲んでたら、子供達が話しかけてきた

人生初のスラム街、裸足の子供の笑顔が美しい。どうしてあんなに無邪気に笑っていられるのだろうか? 生まれた時から裸足の生活だから足裏が丈夫なのだろうか? いやでも踏んだら痛そうな石がそこらじゅうにある、高温の国でアスファルトの熱もある。それでもみんな心の底から笑っているように感じる。日本で生まれ育った私には衝撃だった。

そして旅行中、路上一人芝居をした。日本語での挑戦だったが、珍しいからか沢山の人が集まり嬉しかった。帰国してもバングラデシュの事が頭から離れず、半年後にバングラデシュの首都ダッカに住んで俳優活動を始めた。

トラリピインタビュー

私はシェアハウスの四畳半の部屋に4人(バングラデシュ人3人、日本人1人)で3カ月住んでいた。最低気温26度の時期だったので、寝る時もエアコンがついていた。私は寒がりなので、腹巻きをし、頭からパーカーを被り、マスクをし、靴下を履いてから布団をかけ完全防備で寝ていた。

そして毎朝30分間に5発以上発射される、おならの匂いと音で目を覚ましていた。食事は主にカレーを食べる。鳥、羊、牛、魚、野菜と色々な種類がありスパイスが効いていて美味しい。世界三大炊き込みご飯のビリヤニ等もある。

私はベンガル語も英語も話せないのでバスに乗るのも、日用品を買うのも一大行事です。バスは停止しません。バス停あたりで低速走行中に飛び乗るスタイルです。気を付けないと怪我します。日本では見たことありません。でも私はバスの中で知らないバングラデシュの方と話をするのが大好きでした。国の事、宗教、政治、スポーツ、恋愛、夢など、翻訳機を使いずっと会話をしていた。両国の文化や価値観の違いから発見がありとても楽しい時間でした。

一人芝居をする長坂一哲氏
首都ダッカで一人芝居

バングラデシュで色々な方々と関わらせて頂き気付いたことがあります。皆さんフレンドリーで人と人との距離が近いですが他人に縛られてなく心が豊かです。それはきっと等身大の自分に誇りを持っているからだと思った。「私はあまりお金がありません。でも幸せに暮らしています。何か問題がありますか?」真っすぐ純粋な瞳でそう話す方に出会った。そんな経験が何度もあった。

私は日本で他人の目に縛られながら生きてきた。あ~こんな馬鹿っぽい質問したら駄目だよなぁとか、失敗したらどうしようとか、起きてもないことを悩み、自分で自分を苦しめているのだと思った。もっとシンプルでいいと思えた。同じ地球で暮らしているのに私が縛られていたのは何だったのだろうか? 今という瞬間を明るくたくましく生きているバングラデシュに恋をした。

私の夢

とても楽しく暮らしていたのですが住んで8カ月で私は入院し、治療の為に緊急帰国した。最初は軽い鼻風邪だったが、中耳炎と突発性難聴が併発した。奇跡的にどちらも完治。

耳が聞こえなくなった時、落ち込むよりも、よしこうなったら耳が聞こえない俳優としてバングラデシュでやっていこうという気持ちになった。これは街中の溢れるエネルギーが私の背中を押してくれたのだとはっきりと言えます。足が無い物乞いの方や超お金持ちの方まで経済格差はとても激しいが、日本では感じたことが無い生命力がある。またバングラデシュの魅力はロマンティックな方が多いと感じる。

8カ月の滞在中にバングラデシュの皆様、そして現地の日本の皆様にも沢山助けて頂いた。久しぶりに日本に戻って、日本の良さも実感している。

長坂一哲氏とバングラデシュの仲間たち
バングラデシュ初、日本から桜を植樹。友好文化式典で舞台「桜」作・演出・出演を担当

私はバングラデシュの舞台やテレビドラマに出演した。これからバングラデシュで現地法人の芸能プロダクションを設立し、バングラデシュの方々に喜んで頂けるテレビドラマを制作します。内容は日本の文化も取り入れ、人情、恋愛、スポ根、コメディと様々なジャンルのドラマを作ります。共通するテーマは「前向きなエネルギー」です。日本人も見れるように日本語字幕の展開も行います。私の夢は日本人に、笑顔が素敵な国バングラデシュをもっと知ってもらうことです!

次回は大倉順憲さんへ、バトンタッチ!

ぜひご覧ください!

長坂一哲(バングラデシュでのニックネームはTecchan)のSNS。
バングラデシュの事を綴っています。

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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