「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も、前回までに引き続いてNISAとiDeCoの比較。iDeCoの掛金を60歳以降に受け取るときの税金について見ていきます。

  • iDeCoは運用の結果がマイナスであっても、受け取り時に課税の対象となる
  • iDeCoを年金で受け取れば、65歳までは年間60万円以内なら非課税
  • 65歳以降は老齢基礎年金などにより課税が生じる可能性。手数料にも留意が必要

4月の1週目は連日、日米ともに株価を大きく下げ続けました。私も大火傷を負いました。実は日米以外でもやられてしまいまして。ドルのリスクヘッジだと思って、手を出した豪ドルも大きく下げました。
ただ、意外だったのは対円でドルが堅調なことですね。「この後は円高に向かう」とも聞きますが、142円を下回る可能性は低いのではないでしょうか?

これまでにも繰り返し書きましたが、NISAは損益通算ができません。配当を受け取りつつ、株価の回復を待つしかありません。

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ところで、NISAは損益確定時、つまり株式や投資信託を売却して現金化した時は、確定申告などの手間もなく、ただ「非課税」なだけです。では、老後資金準備の選択肢の一つであるiDeCoを現金化して受け取る場合は、いかがでしょうか?

【図表1】iDeCoとNISAの税金
iDeCo NISA
掛金拠出時 掛金は全額所得控除
(小規模企業共済等掛金控除)
なし
運用期間中 運用益は非課税
(ただし、引き出せない)
非課税
配当金や分配金を受け取れる
受取時 60歳以後
一時金:退職所得控除
年金:公的年金等控除額
いつでも非課税

iDeCoの税制優遇の真相をシミュレーション

そもそもiDeCoは「自己責任」を前提に、税制優遇のもと、退職金を自身で準備する、という制度でした。筆者はiDeCo受け取り時の「税制優遇」の内容には疑問を感じます。

ここではある加入者を例に挙げます。ある加入者のiDeCoの掛金は月40,000円とします。また、年齢を50歳とし、50歳でiDeCoを始めたとします。
掛金の合計は次の通りとします。

40,000円×12か月×10年間=4,800,000円

ところが、iDeCoの運用の方は思わしくなく、60歳の時には4,400,000円になってしまいました。

しかし、ある加入者は、iDeCoを始めたのは老後資金準備のためではなく、税制優遇を得るためだけに始めたので、iDeCoは60歳の時に一時金で受け取ることにしました。

さて、課税関係はどのようなものになるのでしょうか?
なお、他に小規模企業共済など、退職金制度の利用はなかったものとします。

退職所得控除 400,000円×10年間(iDeCoの加入期間)=4,000,000円
退職所得 (4,400,000円-4,000,000円)×1/2=200,000円

iDeCoの一時金受け取りに対する税金
所得税 10,000円(=200,000円×5%)
住民税 20,000円(=200,000円×10%)

先述のある加入者が60歳で受け取るiDeCoの一時金4,400,000円には、所得税と住民税、合わせて30,000円の税金が発生します。
またiDeCoの制度に対する手数料として、440円が掛かります。

自己責任と言いながらも、運用の結果に関係なく課税が生じる?

さて、読者の方の中には違和感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

掛金の合計額が4,800,000円に対し、一時金の額は4,400,000円、つまりマイナスのパフォーマンスです。にも関わらず、税金が発生しています。

NISAでも、証券課税口座(特定口座や一般口座)でも、こうした現象はあり得ません。しかし、iDeCoの場合、マイナスのパフォーマンスでも課税が生じてしまうのです。
これがiDeCoの税制優遇の真相なのです。

こうした現象を避けるためには、どうしたら良いでしょうか?

一つ考えられるのが、iDeCoの掛金額を、年間400,000円以内にすることです。なぜならば、退職所得控除額の計算の基礎になる数字が400,000円だからです。
では、退職所得控除額とは何でしょうか?

iDeCoの一時金に対する税金を計算するときに、受け取る一時金の額から退職所得控除額を引きます。この退職所得控除額が大きければ、iDeCoの一時金(=退職所得)に対する課税額が小さくなりますし、iDeCoの一時金の額よりも退職所得控除額の方が大きければ、iDeCoの一時金(=退職所得)は非課税になります。

退職所得控除額は、iDeCoの掛金の拠出期間が20年以下の場合、1年当たり40万円、20年を超えると70万円で、それぞれ計算します。
なお、もしプラスのパフォーマンスが生じれば、退職所得がプラスになり、課税が生じることもあり得ます。いずれの場合も、他に受け取る退職一時金がなかったり、退職金制度の加入がないことが前提となります。

iDeCoの年金受け取りを選択

さて、話を先述のある加入者に戻しましょう。では、課税を避けるために、どのような選択肢があるのでしょうか?

例えば、iDeCoの受け取りを一時金ではなく、年金で受け取る方法があります。

iDeCoの年金の受け取り期間の最短は5年間(この例では60~65歳)です。4,400,000円÷5年間=毎年880,000円の受け取りです。しかし、これでは課税関係の解決にはなりません。
なぜならば、60~65歳までの間は「公的年金等控除額」が年間600,000円です。880,000円-600,000=280,000円の雑所得が生じてしまいます。雑所得は、給与所得や事業所得と合算して所得税や住民税を計算します。

では、iDeCoの年金受取の期間を10年間(この例では60~70歳)としましょう。4,400,000円÷10年=毎年440,000円の受け取りです。
65歳までの間は、公的年金等控除額(600,000円)の範囲ですから、課税関係の問題は解決しました。

問題は65歳以後です。もし、65歳で老齢基礎年金と老齢厚生年金の受け取りを始めたとしましょう。もちろん、その時にならないと正確な受け取り額は分かりませんが、ここでは老齢基礎年金と老齢厚生年金の受け取り額を800,000円とします。
毎年の課税関係は以下のように計算します。

iDeCoの年金440,000円+老齢基礎年金800,000円
-65歳以後の公的年金等控除額1,100,000円
=140,000円

140,000円の雑所得が生じました。
先述の通り、事業所得と合算して税金や社会保険料の計算の基礎になります。なお65歳以後は、介護保険第一号被保険者となり、介護保険料にも影響してきます。

手数料にも留意

他に留意しなくてはならない点があります。
iDeCoの資金を一時金ではなく、年金で受け取る場合、最後の年金を受け取るまでは、資金がiDeCoに残っています。もちろん、運用を続けることができますし、iDeCoに残した資金に対しては非課税です。

しかし、iDeCoに残っていると手数料が必要です。手数料の額は「資金を預かっている金融機関」によって異なりますが、毎月66円です。また、iDeCoは受け取りの都度、手数料が必要で、受け取り一回に付き440円です。
先述のフリーランスの場合ですと、一時金受け取りなら440円ですが、年金受け取りは440円×5年=2,200円か、440円×10年=4,400円です。

併用受け取りを検討

iDeCoは一時金と年金を併用して受け取ることもできます。

例えば、先ほどのある加入者の場合、4,400,000円を一時金として、一括で受け取ることを検討していました。これを例えば、半分の2,200,000円を一時金として、残りの2,200,000円を5年に分けて、つまり毎年440,000円の年金として、それぞれ受け取るのです。

一時金の2,200,000円は退職所得控除額4,000,000円を下回っているので、非課税です。残りの額は毎年440,000円で、公的年金等控除額600,000円を下回っているので、こちらも非課税です。これで課税の問題は解決です。

しかし、「資金を預かっている金融機関」に払う手数料(額は、毎月66円)、受取の都度、生じる手数料(受け取り1回に付き440円)の手数料が、それぞれ必要です。こちらは、特に年金受け取りを選択すると、時間に比例して、その額が増えます。

※運営管理機関にも手数料が必要ですが、最近、手数料無料の運営管理機関が増えていますので、ここでは運営管理機関の手数料額をゼロとしました。

【図表2】iDeCoとNISAの手数料
  iDeCo NISA
制度加入時
(1回だけ)
2,829円 なし
運用期間中
(毎月)
掛金拠出を行う:171円
掛金拠出なし:66円
なし
受け取り時 受け取りの都度:440円 なし
運営管理機関 運営管理機関による
0円のところも多い
なし
株式売買時 株式は取引できない 証券会社による
0円のところもある
投信購入時 0円 証券会社/銀行による
全て0円もある
つみたて投資枠は0円
投信信託報酬 ある ある
元本確保型
商品の有無
ある(預金、保険など) なし

まとめに代えて

NISAは「非課税」とぴしゃりと言い切っていますが、iDeCoの場合は「税制優遇があります」という言い方になります。

iDeCoは、その拠出する掛金が、小規模企業共済等掛金控除として全額所得控除になるのは、何ものにも代えがたいメリットです。特に、厚生年金保険加入者の場合、節税の機会がありませんから、これは本当にありがたい。

しかし、受け取り時の課税はいかがでしたでしょうか? 先述のある加入者の例ではマイナスのパフォーマンスでしたが、これがプラスのパフォーマンスでしたら、いかがでしょうか? もっと大きい税額かもしれません。

iDeCoの受け取りについて、課税額や手数料について、第三者の立場から、また専門的見地から助言してくれる人がいると良いでしょう。しかし、そうした専門家に対して払う費用があれば、その費用の分、パフォーマンスが下がることになります。

そういえば、政府の方でもiDeCoや投資に関するアドバイザー制度を設けたそうですね。税制を含む制度の説明に終始せず、相談者に寄り添った現実的なアドバイスを受けることができると良いのですが。
機会があれば、筆者も相談に乗ってもらうこととします。そして、この場で報告させていただきます。