現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第89回は、祖業である首都圏の鉄道事業のほか、ホテル・レジャー事業や不動産開発などを幅広く手がけている西武ホールディングス(9024)をご紹介します。
- 西武鉄道は高度成長期に不動産開発やホテル事業に進出。不祥事を乗り越え再上場
- ホテル事業はインバウンド需要で活況。鉄道沿線のレジャー施設も好調
- 株価は中長期で上昇トレンドも現在は足踏み。株主還元への積極的な姿勢に期待
西武ホールディングス(9024)はどんな会社?
西武ホールディングスは鉄道、レジャーホテル、不動産開発を主体とする持ち株会社です。プロ野球の埼玉西武ライオンズなども運営しています。
鉄道事業の西武鉄道は、東京や埼玉の通勤輸送を中心に秩父、川越などの人気の観光地へのアクセスも担っています。沿線開発にも力を入れており、駅ナカ商業施設の「エミオ」やより大規模な「グランエミオ」などの展開にも注力し、ファミリー層からの支持も拡大しています。
西武グループの源流は、1892年に誕生した川越鉄道とされています。その後近隣の鉄道会社の買収などで路線網を広げていきました。1956年にはホテル事業を独立させてプリンスホテルを設立しています。その後は日本の高度経済成長とともに住宅、別荘などの不動産開発も進めていきました。
2004年に有価証券報告書の虚偽記載などの不祥事を受け、西武鉄道としては上場廃止となりました。信頼回復に向けコンプライアンスの徹底、構造改革を進め、2006年に現在の西武ホールディングスによる持ち株会社制へと移行し、2014年に東京証券取引所に再上場しています。
活況のホテル事業を中心とした総合力に強み
西武ホールディングスの強みは、インバウンド(訪日外国人)で活況のホテル事業を中心とした総合力です。「ザ・プリンスギャラリー」、「ザ・プリンス」、「グランドプリンスホテル」などの複数ブランドを展開し、高級志向からビジネス利用まで様々な顧客層のニーズに対応しています。国内では56施設を運営するほか、ゴルフ場やスキー場などのレジャー施設も手がけています。海外でも10カ国(地域)で29施設を運営しグローバルでの事業展開も進めています。

ホテル事業では写真の新宿プリンスホテル(東京都新宿区)のようなビジネス用途のホテルや、高級路線の「ザ・プリンス」ブランドなど多様なホテルを運営している
Wangkun Jia / Shutterstock.com
西武鉄道沿線には埼玉西武ライオンズが本拠地とする野球場のベルーナドームのほか、西武園ゆうえんち、スタジオツアー東京、狭山スキー場などのレジャー施設が多く立地しているうえ、レストラン型の観光列車なども運行しており、一大レジャー路線となっています。こうしたレジャーによる集客力と全国各地のホテル事業との総合力が強みとなっています。
西武ホールディングス(9024)の業績や株価は?
西武ホールディングスの前期2025年3月期決算は、営業収益が前期比88%増の8980億円、営業利益が6倍の2890億円と大幅増収増益を見込んでいます。国内のホテル・レジャー事業がインバウンドで好調だったのに加えて、大株主で資産管理会社のNWコーポレーションの連結子会社化も増益の背景となりました。
鉄道事業では人件費、運行コストの増加を受け、運賃値上げの認可に向けた検討を進めています。また、沿線の商業施設などの再開発の取り組みも順調です。

4月18日の終値は3495円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約35万円、予想配当利回りは1.1%です。株主優待は毎年3月末、9月末時点の株主にグループの鉄道やバスで使える株主優待乗車証、フリーパスのほか、ベルーナドームの指定席引換券、ホテル、レストランなどの割引券などを保有株式数に応じて進呈しています。
株価は中長期の上昇トレンドが続いていましたが、24年の9月以降は3000~3800円程度のボックス圏で推移しています。ただ、今期にかけてもインバウンドによる活況が見込めるほか、レジャー施設などについても値上げによる収益力の拡大も期待されます。2月には前期の業績予想の上方修正のほか、期末配当の増額修正を発表するなど株主還元にも積極的です。
トランプ米大統領による追加関税を巡る市場の下落からもいち早く株価は立ち直りを見せており、3月高値の3748円を上抜けた場合は上昇トレンドへの回帰に期待したいところです。