本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第9回は、子どもや親戚がいないおひとりさまが、自身が亡くなったときに管理する人がいなくなる先祖代々のお墓を寺院などに返還する「墓じまい」について説明します。

誰も管理しない「無縁墓」の増加が社会問題化

今日はお墓についてのお話です。

海外ドラマや映画のシーンでご覧になった方も多いことと思いますが、欧米で一般的なお墓は、故人1人に対して墓石も1つ。ご夫婦で墓地を購入するときに隣り合った敷地を選ぶ方もいますが、全く別の区画に埋葬されることも少なくありません。墓石には亡くなった日や故人の名前のほかに、故人の生前の功績などが書かれます。

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日本の先祖代々のお墓のように、1つの墓石で複数の親族が埋葬される風習は、実はアジアの一部の地域にしかない、世界では珍しい習慣です。
このような風習だからこそ起こる、おひとりさまが将来抱えるかもしれない「お墓を引き継ぐ」という問題を取り上げてみました。

Q.
私には両親から引き継いだお墓がありますが、私の死後に墓参りに来てくれるような親族はいません。いつか墓じまいをしなければいけないと思うのですが、自分が死んだ時に入るお墓がないのも不安です。どうしたらよいでしょうか?

A.
生前に墓じまいの手続きを行って墓石を撤去し、遺骨は永代供養墓に埋葬してもらいます。
ご自身のお墓も、生前に永代供養墓に入るための準備などをしておきましょう。

「墓じまい」とは、墓石を撤去して遺骨を取り出し、その墓地を寺院または霊園管理者に返還することを言います。厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、改葬(お墓の引っ越し)はここ数年増加傾向にあり、墓じまいが増えていることが大きく影響していると考えられます。

トラリピインタビュー

【図表】国内の改葬件数の推移
国内の改葬件数の推移
出所:厚生労働省「衛生行政報告例」

バブル期以降の日本社会は親戚付き合いが希薄になり、核家族も増えたことで、誰も墓参りをすることもなく管理ができなくなっている「無縁墓」はこのところ急増し、社会問題になるほどです。
墓所に余裕がある地方では、誰も管理する人がいないまま墓石が劣化して倒れかけていたり、墓地に雑草が生えて荒地となったりしている場合もあります。一方、土地に余裕のない都会の墓所では、数年間お参りにくる人がいないことが確認できるお墓は撤去され、他の無縁仏と一緒に合祀されることが一般的になっています。

親族が大切にしてきたお墓が荒れたり、管理不十分で撤去されることは、後世の他人に迷惑をかけることにもつながります。今回の相談者のように、お墓を管理する親族が自分以外にいない場合は、自分が元気なうちにご自分の意思で墓じまいをすることをおすすめします。

墓じまいには一定の費用がかかる

墓じまいの手順は、

① 墓所のある市区町村の役所に行き、「改葬許可申請書」を入手する。
② 墓所のある寺院などが発行する「改葬許可承諾書」を添付して、役所に申請する。
③ 申請が許可されると「改葬許可証」が発行される。
④ その改葬許可証を寺院等に提出し、今ある遺骨を取り出し受け取る。
⑤ 墓石を撤去、墓所を返還する。
⑥ 受け取った遺骨はその寺院に永代供養墓があればそこに埋葬し、なければ別の永代供養をしている墓所に「改葬許可証」を持って行き埋葬してもらう。

という流れとなります。
墓石の撤去や永代供養にはある程度の費用がかかりますが、生前元気なうちに墓じまいを完了しておけば、それ以降は一切の費用も手間もかからないので安心です。

なお、自分自身の死後、永代供養墓に入るための準備や、海に散骨などを希望する場合は、その散骨を行う業者に生前に依頼しておくことが必要となります。

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