近年、世界各地で頻発する異常気象や自然災害。身近な場所での環境問題の話題も多く、地球環境に関するニュースを目にしない日はありません。今回は、そうした地球環境と密接に関わる「風力発電」に関する話題について考えます。
- 風力発電は、地理的に恵まれた欧米で長い歴史。後れを取る日本
- 発電機はますます大型化し、風の力の約30%を電気エネルギーに変換
- 排他的経済水域の広い日本は、洋上風力発電に活路を見いだせるか
トップ3は中国、米国、ドイツ。出遅れる日本
鈴木一之です。今となっては地球環境に関するニュースを目にしない日はありません。今回は風力発電に関する話題について触れてみます。
2020年暮れ、菅政権は「洋上風力発電」に関するビッグプロジェクトを打ち出しました。2030年までに全国規模で洋上風力発電を整備し、それによって原発10基分にあたる1000万キロワット分の発電容量を確保するという壮大な計画です。
民間調査機関では、洋上風力発電の市場規模は現在の3000億円から、2030年には1兆円規模に拡大するとの予想も出ています。大きな歯車が動き出しました。
風のエネルギーを利用して電気を作り出す風力発電に関しては、日本よりも世界がずっと先行しています。日本はこの分野では明らかに出遅れました。
世界の風力発電の設備容量は、2017年(2017年12月末まで)の時点で539GW(ギガワット)に達しました。2016年の487GWから+10%の成長です。大型の原子力発電所の発電量が100万kW(1GW)ですから539基分に匹敵します。
(注、2001年:23.9GW、2005年:59.1GW、2010年:197GW、2015年:432GW)
風力発電は歴史的にデンマーク、オランダなどのヨーロッパで根づいていましたが、最近では中国が目覚ましい伸びを示しています。2017年に中国は188GWに達し、全世界の3分の1を占めています。2位が米国の89GW,次いでドイツが56GW、インドが32GW、スペインが23GW、イギリスの18GWと続きます。日本はずっと遅れて3.4GW(第19位)にとどまります。
エネルギーの「ライフサイクル」を考える
世界的に太陽光発電や風力発電の研究が始まったのは、1973年の第一次オイルショックがきっかけでした。当時は石油の替わりとなる代替エネルギーの研究が主流でしたが、これが1990年代になると早くも地球環境問題が意識され始め、二酸化炭素の発生が少ない自然エネルギーの活用法を考えることに世界の意識が大きく変わってゆきました。
ここでは「ライフサイクル・アセスメント」という考え方が重要です。原料の採掘から装置の設計、廃棄、燃料輸送なども含めて、エネルギーを取り出すまでのトータルの工程で考える必要があります。
再生可能エネルギーは発電の際に燃料を燃やさないので二酸化炭素(CO2)を発生しません。図表を見ると一目瞭然ですが、ライフサイクル全体において、CO2の発生という観点では、水力発電、風力発電、太陽光発電が他のエネルギー源と比べてきわめて少ないことがわかります。
原子力発電は、確かに運転中にはCO2は発生しませんが、中央アジアのように海外のウラン産出国でウラン鉱石を掘り出して、そこから原子炉で使うペレット燃料を精製し、海外から日本へ輸送し、さらに長期にわたって使用済核燃料を冷却し続け、その後もきわめて長い期間にわたって安全に保管する必要がある、などトータルで考えるとCO2の発生はかなりの量になります。
エネルギーのライフサイクルから考えると、風力発電は再生可能エネルギーの中でも優位性を持っていると言えるでしょう。
風力発電の伝統が根付くカリフォルニア州
風力発電を動かすおおもととなる「風」は、太陽が地表を暖めることによって発生します。海面が暖められ、暖かい空気が上昇気流を発生させ、低気圧と高気圧を生み出して、高気圧から低気圧に向かって空気が移動することで風が発生します。
そこに地球の自転が加わって、赤道に向かって南北から吹き込む「貿易風」と、西から東に向かって吹く「偏西風」が発生します。宇宙に太陽と地球が存在し、地上に海(水)が存在する限り、風は無尽蔵に発生し続けることになります。
ヨーロッパではこのような風をバイキングの昔からエネルギーとして活用してきました。ドイツ、デンマーク、オランダ、スペイン、イギリスには、年間を通じて偏西風が安定して吹くため、17世紀ごろから風の力をエネルギーに変えて暮らしに活かしています。したがって風力発電でも長い歴史を持っています。
アメリカでは1980年代以降、カリフォルニア州や中西部で大規模な「ウィンドファーム」(風の農場)が続々と誕生しました。石油危機後の1978年に、カリフォルニア州で太陽光や風力による発電機を設置すると州税を25%から50%控除できるという州法が成立したことが大きいようです。
連邦税制と合わせると40~45%の税控除が可能になったとされ、カリフォルニア州では風力発電のブームが起きました。それを当て込んで世界中の風力発電機器メーカーがカリフォルニア州に集結したそうです。
NEGミーコン社は風力発電設備で現在、世界シェアの第3位です。1997年にデンマークのNEG社とミーコン社が合併して誕生しました。そのミーコンは1984~1986年の3年間で、カリフォルニア州に1400基以上の風力発電機器を建てたと言われます。
ブームは短期間で去りましたが、カリフォルニア州の風力発電の伝統は根づいてゆきました。単に税制上のメリットがあったというだけでなく、カリフォルニア州にはモハベ砂漠のように世界でも有数の良風が吹く地域があったという点が大きいようです。
そのNEGミーコンは、2003年に当時の世界トップ企業だったデンマークのベスタス社と合併して現在に至っています。ベスタス社には日本の三菱重工(7011)も2.5%資本参加しています。