企業買収の手段として用いられることがあるTOB(株式公開買付)。実際にTOBがあると関連する企業の株価はどのような値動きになるのでしょうか。本記事では、TOB後の株価の値動きと2021年の代表例を紹介します。

  • TOBは「株式公開買付」とも呼ばれる企業買収の手段
  • 買収をする側が現在の株価に3割程度上乗せして購入するケースが一般的
  • 買収を仕掛ける側の株価は、TOB後の成長期待によって異なる

TOBとは「株式公開買付」と呼ばれるM&A手法

TOBとはどのようなものなのでしょうか。TOBについて詳しく見ていきましょう。

TOBは企業買収の手段

TOBは企業を買収することを宣言し、取引所外で株を購入することで、株を買い集めていくM&Aの手法のひとつです。TOBとは「Take Over Bid」の略で、日本語では「株式公開買付」と呼ばれています。

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企業が新たに始めたい事業や弱みのある分野がある際、同分野を強みとする企業を買収することで、システムやノウハウ、顧客を手に入れることが可能です。新規事業をゼロから立ちあげたり、弱みを改善したりするよりも、TOBによって他の企業とのシナジー効果を上げるほうが効率的と考える企業も多くあります。

敵対的TOBと友好的TOBがある

TOBには友好的TOBと、敵対的TOBの2種類があります。

友好的TOBとは買収する側の企業が、買収される側の企業から事前に同意を得たうえで株を買い進める手段です。友好的TOBはグループ企業であるなど、元々友好関係にある会社が完全子会社化する際などに利用されます。友好的TOBの場合、買収される側の経営陣が防衛策を講じることがありませんので、TOBが成立する確率が高い点がメリットです。

一方で敵対的TOBとは、買収する側の企業が買収される側の企業へ事前連絡をせずに株の買付をする手段です。株式会社においては、株式を買い付けることで実質的にその企業を支配することができます。株主は経営陣を退任させることもできるため、多くの株式を取得できれば、会社経営を意のままにできるのです。

買収される側の企業の経営陣はさまざまな手段をとって防衛することになります。具体的には「ホワイトナイト」と呼ばれる友好的な企業への買い付けを依頼したり、新株を発行したりすることで、買収する側の企業の株式取得割合を維持するといった方法が一般的です。

友好的TOB
友好的TOBなら既存の株主が買い付けに応じれば成立するが、敵対的TOBでは防衛策が講じられる場合もあり、成立する可能性は低くなる

TOBで株価はどうなる?

TOBで株価はどのように動くことが多いのでしょうか。TOBと株価の関係について見ていきましょう。

TOBでは買収をする側が現在の株価に3割程度上乗せして購入することを宣言し、株を買い集めていくケースが一般的です。TOBによって、いきなり3割も高く売れるわけですから、株価が上がることは必然といえます。

また、TOBによって企業価値が高まると判断した場合には、3割のプレミアムを上回る価格でも買いたいという投資家が現れる可能性もあります。このように、TOBによって買収される側の株価は上がりやすくなる点が特徴です。その後、TOBの終了期間が近づくと、TOB価格に近い値へと落ち着いていきます。

では、買収を仕掛ける側の株価は、どのように推移するのでしょうか。

買収を仕掛ける側の株価の動きは、TOBの結果、さらなる企業の成長や安定につながると投資家が判断するかどうかによって異なります。TOBによって買収する側の企業が成長すると判断されれば、株価は大幅に上昇するでしょう。しかし、買収が失敗に終わり、財務体制が悪化する可能性もあります。

また、TOBが成功したとしても、必ずしも事業がうまくいくとは限りません。TOBが成立し、狙い通り企業を子会社化することができたとしても、市場環境などさまざまな要因で思ったように利益を上げられない可能性があるからです。そのため、買収する側も、TOBが企業によい影響を与えるのかどうかを慎重に判断する必要があります。

2021年に注目されたTOB案件

2021年にはどのようなTOB案件があったのでしょうか。注目されたTOB案件を見てみましょう。

イグニス(3689)

イグニスは婚活のマッチングサービスを展開する企業です。2014年にマザーズへの上場を果たしました。イグニスは株式の非公開化を目指してMBOを実施しています。MBOとは「Management Buyout」の略語で、経営陣が公開している株式を購入し、オーナー企業になる手段です。

イグニスは2021年から3月からTOBを実施し、6月30日に上場廃止となりました。イグニスの株価は2000円前後で推移していましたが、TOBの買い付け価格は3000円でした。よって、TOBによるプレミアム価格で売却できた事例といえるでしょう。

ジャパンシステム(9758)

ジャパンシステムはソフトウェアや、ITの最新技術を提供するIT関連企業です。ジャパンシステムは独立系投資会社のロングリーチグループ傘下のJSLホールディングス合同会社によってTOBが行われました。

TOB公表前日の終値に約4割を上乗せした価格で買付が行われ、2021年4月に上場廃止となりました。

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